一寸法師は十六になりました。ある日一寸法師は、おとうさんとおかあさんの前へ出て、
「どうかわたくしにお暇を下さい。」
といいました。おとうさんはびっくりして、
「なぜそんなことをいうのだ。」
と聞きました。一寸法師はとくいらしい顔をして、
「これから京都へ上ろうと思います。」
といいました。
「京都へ上ってどうするつもりだ。」
「京都は天子さまのいらっしゃる日本一の都ですし、おもしろいしごとがたくさんあります。わたくしはそこへ行って、運だめしをしてみようと思います。」
そう聞くとおとうさんはうなずいて、
「よしよし、それなら行っておいで。」
と許して下さいました。
一寸法師は大へんよろこんで、さっそく旅の支度にかかりました。まずおかあさんにぬい針を一本頂いて、麦わらで柄とさやをこしらえて、刀にして腰にさしました。それから新しいおわんのお舟に、新しいおはしのかいを添えて、住吉の浜から舟出をしました。おとうさんとおかあさんは浜べまで見送りに立って下さいました。
「おとうさん、おかあさん、では行ってまいります。」
と一寸法師がいって、舟をこぎ出しますと、おとうさんとおかあさんは、
「どうか達者で、出世をしておくれ。」
といいました。
「ええ、きっと出世をいたします。」
と、一寸法師はこたえました。
おわんの舟は毎日少しずつ淀川を上って行きました。しかし舟が小さいので、少し風が強く吹いたり、雨が降って水かさが増したりすると、舟はたびたびひっくり返りそうになりました。そういう時には、しかたがないので、石垣の間や、橋ぐいの陰に舟を止めて休みました。
こんな風にして、一月もかかって、やっとのことで、京都に近い鳥羽という所に着きました。鳥羽で舟から岸に上がると、もうすぐそこは京都の町でした。五条、四条、三条と、にぎやかな町がつづいて、ひっきりなしに馬や車が通って、おびただしい人が出ていました。
「なるほど京都は日本一の都だけあって、にぎやかなものだなあ。」
と、一寸法師は往来の人の下駄の歯をよけて歩きながら、しきりに感心していました。
三条まで来ると、たくさんりっぱなお屋敷が立ち並んだ中に、いちばん目にたってりっぱな門構えのお屋敷がありました。一寸法師は、
「なんでも出世をするには、まずだれかえらい人の家来になって、それからだんだんにし上げなければならない。これこそいちばんえらい人のお屋敷に違いない。」
と思って、のこのこ門の中に入っていきました。広い砂利道をさんざん歩いて、大きな玄関の前に立ちました。なるほどここは三条の宰相殿といって、羽ぶりのいい大臣のお屋敷でした。
そのとき一寸法師は、ありったけの大きな声で、
「ごめん下さい。」
とどなりました。でも聞こえないとみえて、だれも出てくるものがないので、こんどはいっそう大きな声を出して、
「ごめん下さい。」
とどなりました。
三度めに一寸法師が、
「ごめん下さい。」
とどなった時、ちょうどどこかへおでましになるつもりで、玄関までおいでになった宰相殿が、その声を聞きつけて、出てごらんになりました。しかしだれも玄関には居ませんでした。ふしぎに思ってそこらをお見回しになりますと、靴ぬぎにそろえてある足駄の陰に、豆粒のような男が一人、反り身になってつっ立っていました。宰相殿はびっくりして、
「お前か、今呼んだのは。」
「はい、わたくしでございます。」
「お前は何者だ。」
「難波からまいりました一寸法師でございます。」
「なるほど一寸法師に違いない。それでわたしの屋敷に来たのは何の用だ。」
「わたくしは出世がしたいと思って、京都へわざわざ上ってまいりました。どうぞ一生懸命働きますから、お屋敷でお使いなさって下さいまし。」
一寸法師はこういって、ぴょこんとおじぎをしました。宰相殿は笑いながら、
「おもしろい小僧だ。よしよし使ってやろう。」
とおっしゃって、そのままお屋敷に置いておやりになりました。