← Library‹ 一寸法師 三

一寸法師いっすんぼうしは宰相殿さいしょうどののお屋敷やしきに使つかわれるようになってから、体からだこそ小ちいさくても、まめまめしくよく働はたらきました。大たいへん利口りこうで、気きが利きいているものですから、みんなから、

「一寸法師いっすんぼうし、一寸法師いっすんぼうし。」

といって、かわいがられました。

このお屋敷やしきに十じゅう三さんになるかわいらしいお姫ひめさまがありました。一寸法師いっすんぼうしはこのお姫ひめさまが大好だいすきでした。お姫ひめさまも一寸法師いっすんぼうしが大たいそうお気きに入いりで、どこへお出でかけになるにも、

「一寸法師いっすんぼうしや。一寸法師いっすんぼうしや。」

といって、お供ともにお連つれになりました。だんだん仲なかがよくなるうち、何なんといっても二人ふたりとも子供こどもだものですから、いつかお友達ともだちのようになって、時々ときどきはけんかをしたり、いたずらをし合あって、泣ないたり笑わらったりすることもありました。ある時ときまたけんかをして、一寸法師いっすんぼうしが負まけました。くやしまぎれに一寸法師いっすんぼうしは、そっとお姫ひめさまが昼寝ひるねをしておいでになるすきをうかがって、自分じぶんが殿とのさまから頂いただいたお菓子かしを残のこらず食たべてしまって、残のこった粉こなをお姫ひめさまの眠ねむっている口くちのはたになすりつけておきました。そして自分じぶんはからっぽになったお菓子かしの袋ふくろを手てに持もって、お庭にわの真まん中なかに出でて、わざと大おおきな声こえでおいおい泣ないておりました。その声こえを聞ききつけて、殿とのさまが縁側えんがわへ出でていらしって、

「一寸法師いっすんぼうし、どうした。どうした。」

とお聞ききになりました。

すると一寸法師いっすんぼうしは、さも悲かなしそうな声こえをして、

「お姫ひめさまがわたくしをぶって、殿とのさまから頂いただいたお菓子かしをみんな取とって食たべておしまいになりました。」

といいました。

殿とのさまはびっくりして、お姫ひめさまのお部屋へやへ行いってごらんになりますと、お姫ひめさまは口くちのはたにいっぱいお菓子かしの粉こなをつけて、眠ねむっておいでになりました。

殿とのさまは大たいそうおおこりになって、おかあさんを呼よんで、

「何なんだって、姫ひめにあんな行儀ぎょうぎの悪わるいまねをさせるのだ。」

ときびしくおしかりになりました。するとこのおかあさんは、少すこしいじの悪わるい人ひとだったものですから、お姫ひめさまのために自分じぶんがしかられたのを大たいそうくやしがりました。そしてくやしまぎれに、ありもしないことをいろいろとこしらえて、お姫ひめさまが平生へいぜい大臣だいじんのお娘むすめに似合にあわず、行儀ぎょうぎの悪わるいことをさんざんに並ならべて、

「いくら止とめても、ばかにしていうことをちっとも聴きかないのです。」

とおいいつけになりました。

宰相殿さいしょうどのはなおなおおおこりになって、一寸法師いっすんぼうしにいいつけて、お姫ひめさまをお屋敷やしきから追おい出だして、どこか遠とおい所ところへ捨すてさせました。

一寸法師いっすんぼうしはとんだことをいい出だして、お姫ひめさまが追おい出だされるようになったので、すっかり気きの毒どくになってしまいました。そこでどこまでもお姫ひめさまのお供ともをして行いくつもりで、まず難波なにわのおとうさんのうちへお連つれしようと思おもって、鳥羽とばから舟ふねに乗のりました。すると間まもなく、ひどいしけになって、舟ふねはずんずん川かわを下くだって海うみの方ほうへ流ながされました。それから風かぜのまにまに吹ふき流ながされて、とうとう三日三晩みっかみばん波なみの上うえで暮くらして、四日よっかめに一ひとつの島しまに着つきました。

その島しまには今いままで話はなしに聞きいたこともないようなふしぎな花はなや木きがたくさんあって、いったい人ひとが住すんでいるのかいないのか、いっこうに人ひとらしいものの姿すがたは見みえませんでした。

一寸法師いっすんぼうしはお姫ひめさまを連つれて島しまに上あがって、きょろきょろしながら歩あるいて行いきますと、いつどこから出でてきたともなく、二に匹ひきの鬼おにがそこへひょっこり飛とび出だしてきました。そしていきなりお姫ひめさまにとびかかって、ただ一口ひとくちに食たべようとしました。お姫ひめさまはびっくりして、気きが遠とおくなってしまいました。それを見みると、一寸法師いっすんぼうしは、例れいのぬい針ばりの刀かたなをきらりと引ひき抜ぬいて、ぴょこんと鬼おにの前まえへ飛とんで出でました。そしてありったけの大おおきな声こえを振ふり立たてて、

「これこれ、このお方かたをだれだと思おもう。三条さんじょうの宰相殿さいしょうどのの姫君ひめぎみだぞ。うっかり失礼しつれいなまねをすると、この一寸法師いっすんぼうしが承知しょうちしないぞ。」

とどなりました。二に匹ひきの鬼おにはこの声こえに驚おどろいて、よく見みますと、足あしもとに豆まめっ粒つぶのような小男こおとこが、いばり返かえって、つッ立たっていました。鬼おにはからからと笑わらいました。

「何なんだ。こんな豆まめっ粒つぶか。めんどうくさい、のんでしまえ。」

というが早はやいか、一いち匹ぴきの鬼おには、一寸法師いっすんぼうしをつまみ上あげて、ぱっくり一口ひとくちにのんでしまいました。一寸法師いっすんぼうしは刀かたなを持もったまま、するすると鬼おにのおなかの中なかへすべり込こんでいきました。入はいるとおなかの中なかをやたらにかけずり回まわりながら、ちくりちくりと刀かたなでついて回まわりました。鬼おには苦くるしがって、

「あッ、いたい。あッ、いたい。こりゃたまらん。」

と地じびたをころげ回まわりました。そして苦くるしまぎれにかっと息いきをするはずみに、一寸法師いっすんぼうしはまたぴょこりと口くちから外そとへ飛とび出だしました。そして刀かたなを振ふり上あげて、また鬼おにに切きってかかりました。するともう一いち匹ぴきの鬼おにが、

「生意気なまいきなちびだ。」

といって、また一寸法師いっすんぼうしをつかまえて、あんぐりのんでしまいました。のまれながら一寸法師いっすんぼうしは、こんどはすばやく躍おどり上あがって、のどの穴あなから鼻はなの穴あなへ抜ぬけて、それから眼めのうしろへはい上あがって、さんざん鬼おにの目玉めだまをつッつきました。すると鬼おには思おもわず、

「いたい。」

とさけんで、飛とび上あがったはずみに、一寸法師いっすんぼうしは、目めの中なかからひょいと地じびたに飛とび下おりました。鬼おには目玉めだまが抜ぬけ出だしたかと思おもって、びっくりして、

「大たいへん、大たいへん。」

と、後あとをも見みずに逃にげ出だしました。するともう一いち匹ぴきの鬼おにも、

「こりやかなわん。逃にげろ、逃にげろ。」

と後あとを追おって行いきました。

「はッは、弱虫よわむしめ。」

と、一寸法師いっすんぼうしは、逃にげて行いく鬼おにのうしろ姿すがたを気味きみよさそうにながめて、

「やれやれ、とんだことでした。」

といいながら、そこに倒たおれているお姫ひめさまを抱だき起おこして、しんせつに介抱かいほうしました。お姫ひめさまがすっかり正気しょうきがついて、立たち上あがろうとしますと、すそからころころと小ちいさな槌つちがころげ落おちました。

「おや、ここにこんなものが。」

と、お姫ひめさまがそれを拾ひろってお見みせになりました。

一寸法師いっすんぼうしはその槌つちを手てに持もって、

「これは鬼おにの忘わすれて行いった打うち出での小槌こづちです。これを振ふれば、何なんでもほしいと思おもうものが出でてきます。ごらんなさい、今いまここでわたしの背せいを打うち出だしてお目めにかけますから。」

こういって、一寸法師いっすんぼうしは、打うち出での小槌こづちを振ふり上あげて、

「一寸法師いっすんぼうしよ、大おおきくなれ。あたり前まえの背せいになれ。」

といいながら、一いち度ど振ふりますと背せいが一いち尺しゃくのび、二に度ど振ふりますと三さん尺じゃくのび、三さん度どめには六ろく尺しゃくに近ちかいりっぱな大男おおおとこになりました。

お姫ひめさまはそのたんびに目めをまるくして、

「まあ、まあ。」

といっておいでになりました。

一寸法師いっすんぼうしは大おおきくなったので、もううれしくってうれしくって、立たったりしゃがんだり、うしろを振ふり向むいたり、前まえを見みたり、自分じぶんで自分じぶんの体からだをめずらしそうにながめていましたが、一通ひととおりながめてしまうと、急きゅうに三日三晩みっかみばんなんにも食たべないで、おなかのへっていることを思おもい出だしました。そこでさっそく打うち出での小槌こづちを振ふって、そこへ食たべきれないほどのごちそうを振ふり出だして、お姫ひめさまと二人ふたりで仲なかよく食たべました。

ごちそうを食たべてしまうと、こんどは金銀きんぎん、さんご、るり、めのうと、いろいろの宝たからを打うち出だしました。そしていちばんおしまいに、大おおきな舟ふねを打うち出だして、宝物たからものを残のこらずそれに積つみ込こんで、お姫ひめさまと二人ふたり、また舟ふねに乗のって、間まもなく日本にっぽんの国くにへ帰かえって来きました。

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