一寸法師は宰相殿のお屋敷に使われるようになってから、体こそ小さくても、まめまめしくよく働きました。大へん利口で、気が利いているものですから、みんなから、
「一寸法師、一寸法師。」
といって、かわいがられました。
このお屋敷に十三になるかわいらしいお姫さまがありました。一寸法師はこのお姫さまが大好きでした。お姫さまも一寸法師が大そうお気に入りで、どこへお出かけになるにも、
「一寸法師や。一寸法師や。」
といって、お供にお連れになりました。だんだん仲がよくなるうち、何といっても二人とも子供だものですから、いつかお友達のようになって、時々はけんかをしたり、いたずらをし合って、泣いたり笑ったりすることもありました。ある時またけんかをして、一寸法師が負けました。くやしまぎれに一寸法師は、そっとお姫さまが昼寝をしておいでになるすきをうかがって、自分が殿さまから頂いたお菓子を残らず食べてしまって、残った粉をお姫さまの眠っている口のはたになすりつけておきました。そして自分はからっぽになったお菓子の袋を手に持って、お庭の真ん中に出て、わざと大きな声でおいおい泣いておりました。その声を聞きつけて、殿さまが縁側へ出ていらしって、
「一寸法師、どうした。どうした。」
とお聞きになりました。
すると一寸法師は、さも悲しそうな声をして、
「お姫さまがわたくしをぶって、殿さまから頂いたお菓子をみんな取って食べておしまいになりました。」
といいました。
殿さまはびっくりして、お姫さまのお部屋へ行ってごらんになりますと、お姫さまは口のはたにいっぱいお菓子の粉をつけて、眠っておいでになりました。
殿さまは大そうおおこりになって、おかあさんを呼んで、
「何だって、姫にあんな行儀の悪いまねをさせるのだ。」
ときびしくおしかりになりました。するとこのおかあさんは、少しいじの悪い人だったものですから、お姫さまのために自分がしかられたのを大そうくやしがりました。そしてくやしまぎれに、ありもしないことをいろいろとこしらえて、お姫さまが平生大臣のお娘に似合わず、行儀の悪いことをさんざんに並べて、
「いくら止めても、ばかにしていうことをちっとも聴かないのです。」
とおいいつけになりました。
宰相殿はなおなおおおこりになって、一寸法師にいいつけて、お姫さまをお屋敷から追い出して、どこか遠い所へ捨てさせました。
一寸法師はとんだことをいい出して、お姫さまが追い出されるようになったので、すっかり気の毒になってしまいました。そこでどこまでもお姫さまのお供をして行くつもりで、まず難波のおとうさんのうちへお連れしようと思って、鳥羽から舟に乗りました。すると間もなく、ひどいしけになって、舟はずんずん川を下って海の方へ流されました。それから風のまにまに吹き流されて、とうとう三日三晩波の上で暮らして、四日めに一つの島に着きました。
その島には今まで話に聞いたこともないようなふしぎな花や木がたくさんあって、いったい人が住んでいるのかいないのか、いっこうに人らしいものの姿は見えませんでした。
一寸法師はお姫さまを連れて島に上がって、きょろきょろしながら歩いて行きますと、いつどこから出てきたともなく、二匹の鬼がそこへひょっこり飛び出してきました。そしていきなりお姫さまにとびかかって、ただ一口に食べようとしました。お姫さまはびっくりして、気が遠くなってしまいました。それを見ると、一寸法師は、例のぬい針の刀をきらりと引き抜いて、ぴょこんと鬼の前へ飛んで出ました。そしてありったけの大きな声を振り立てて、
「これこれ、このお方をだれだと思う。三条の宰相殿の姫君だぞ。うっかり失礼なまねをすると、この一寸法師が承知しないぞ。」
とどなりました。二匹の鬼はこの声に驚いて、よく見ますと、足もとに豆っ粒のような小男が、いばり返って、つッ立っていました。鬼はからからと笑いました。
「何だ。こんな豆っ粒か。めんどうくさい、のんでしまえ。」
というが早いか、一匹の鬼は、一寸法師をつまみ上げて、ぱっくり一口にのんでしまいました。一寸法師は刀を持ったまま、するすると鬼のおなかの中へすべり込んでいきました。入るとおなかの中をやたらにかけずり回りながら、ちくりちくりと刀でついて回りました。鬼は苦しがって、
「あッ、いたい。あッ、いたい。こりゃたまらん。」
と地びたをころげ回りました。そして苦しまぎれにかっと息をするはずみに、一寸法師はまたぴょこりと口から外へ飛び出しました。そして刀を振り上げて、また鬼に切ってかかりました。するともう一匹の鬼が、
「生意気なちびだ。」
といって、また一寸法師をつかまえて、あんぐりのんでしまいました。のまれながら一寸法師は、こんどはすばやく躍り上がって、のどの穴から鼻の穴へ抜けて、それから眼のうしろへはい上がって、さんざん鬼の目玉をつッつきました。すると鬼は思わず、
「いたい。」
とさけんで、飛び上がったはずみに、一寸法師は、目の中からひょいと地びたに飛び下りました。鬼は目玉が抜け出したかと思って、びっくりして、
「大へん、大へん。」
と、後をも見ずに逃げ出しました。するともう一匹の鬼も、
「こりやかなわん。逃げろ、逃げろ。」
と後を追って行きました。
「はッは、弱虫め。」
と、一寸法師は、逃げて行く鬼のうしろ姿を気味よさそうにながめて、
「やれやれ、とんだことでした。」
といいながら、そこに倒れているお姫さまを抱き起こして、しんせつに介抱しました。お姫さまがすっかり正気がついて、立ち上がろうとしますと、すそからころころと小さな槌がころげ落ちました。
「おや、ここにこんなものが。」
と、お姫さまがそれを拾ってお見せになりました。
一寸法師はその槌を手に持って、
「これは鬼の忘れて行った打ち出の小槌です。これを振れば、何でもほしいと思うものが出てきます。ごらんなさい、今ここでわたしの背を打ち出してお目にかけますから。」
こういって、一寸法師は、打ち出の小槌を振り上げて、
「一寸法師よ、大きくなれ。あたり前の背になれ。」
といいながら、一度振りますと背が一尺のび、二度振りますと三尺のび、三度めには六尺に近いりっぱな大男になりました。
お姫さまはそのたんびに目をまるくして、
「まあ、まあ。」
といっておいでになりました。
一寸法師は大きくなったので、もううれしくってうれしくって、立ったりしゃがんだり、うしろを振り向いたり、前を見たり、自分で自分の体をめずらしそうにながめていましたが、一通りながめてしまうと、急に三日三晩なんにも食べないで、おなかのへっていることを思い出しました。そこでさっそく打ち出の小槌を振って、そこへ食べきれないほどのごちそうを振り出して、お姫さまと二人で仲よく食べました。
ごちそうを食べてしまうと、こんどは金銀、さんご、るり、めのうと、いろいろの宝を打ち出しました。そしていちばんおしまいに、大きな舟を打ち出して、宝物を残らずそれに積み込んで、お姫さまと二人、また舟に乗って、間もなく日本の国へ帰って来ました。