「婦人は驚いた顔をして、
(それでは森の中で、大変でございますこと。旅をする人が、飛騨の山では蛭が降るというのはあすこでござんす。貴僧は抜道をご存じないから正面に蛭の巣をお通りなさいましたのでございますよ。お生命も冥加なくらい、馬でも牛でも吸い殺すのでございますもの。しかし疼くようにお痒いのでござんしょうね。)
(ただいまではもう痛みますばかりになりました。)
(それではこんなものでこすりましては柔かいお肌が擦剥けましょう。)というと手が綿のように障った。
それから両方の肩から、背、横腹、臀、さらさら水をかけてはさすってくれる。
それがさ、骨に通って冷たいかというとそうではなかった。暑い時分じゃが、理窟をいうとこうではあるまい、私の血が沸いたせいか、婦人の温気か、手で洗ってくれる水がいい工合に身に染みる、もっとも質の佳い水は柔かじゃそうな。
その心地の得もいわれなさで、眠気がさしたでもあるまいが、うとうとする様子で、疵の痛みがなくなって気が遠くなって、ひたと附ついている婦人の身体で、私は花びらの中へ包まれたような工合。
山家の者には肖合わぬ、都にも希な器量はいうに及ばぬが弱々しそうな風采じゃ、背中を流す中にもはッはッと内証で呼吸がはずむから、もう断ろう断ろうと思いながら、例の恍惚で、気はつきながら洗わした。
その上、山の気か、女の香か、ほんのりと佳い薫がする、私は背後でつく息じゃろうと思った。」
上人はちょっと句切って、
「いや、お前様お手近じゃ、その明を掻き立ってもらいたい、暗いと怪しからぬ話じゃ、ここらから一番野面で遣つけよう。」
枕を並べた上人の姿も朧げに明は暗くなっていた、早速燈心を明くすると、上人は微笑みながら続けたのである。
「さあ、そうやっていつの間にやら現とも無しに、こう、その不思議な、結構な薫のする暖い花の中へ柔かに包まれて、足、腰、手、肩、頸から次第に天窓まで一面に被ったから吃驚、石に尻餅を搗いて、足を水の中に投げ出したから落ちたと思うとたんに、女の手が背後から肩越しに胸をおさえたのでしっかりつかまった。
(貴僧、お傍に居て汗臭うはござんせぬかい、とんだ暑がりなんでございますから、こうやっておりましてもこんなでございますよ。)という胸にある手を取ったのを、慌てて放して棒のように立った。
(失礼、)
(いいえ誰も見ておりはしませんよ。)と澄して言う、婦人もいつの間にか衣服を脱いで全身を練絹のように露していたのじゃ。
何と驚くまいことか。
(こんなに太っておりますから、もうお愧しいほど暑いのでございます、今時は毎日二度も三度も来てはこうやって汗を流します、この水がございませんかったらどういたしましょう、貴僧、お手拭。)といって絞ったのを寄越した。
(それでおみ足をお拭きなさいまし。)
いつの間にか、体はちゃんと拭いてあった、お話し申すも恐多いが、はははははは。」