← Library‹ 時差のないふたつの島 1

眠ねむりから覚さめて目めを開ひらくまでの時間じかんは、ごく短みじかい。二に秒びょうないだろう。

目めを覚さましたぼくは、自分じぶんが寝ねている場所ばしょの香かおりにあらためて気きづき、いつもの自分じぶんの場所ばしょではないところに自分じぶんが眠ねむっていたことを認識にんしきしなおした。

ぼくは、目めを開ひらいた。天井てんじょうが見みえた。見みなれない天井てんじょうのたたずまいに、部屋へやの香かおりはよく似合にあっていた。香かおりというよりも、匂においだろうか。ベッドに違和いわ感かんがあった。なれた自分じぶんのベッドではなかった。

あおむけになっていた体からだを横よこにむけつつ、ぼくは上体じょうたいを起おこした。ベッドの縁えんにすわり、両足りょうあしをフロアに降おろした。板張いたばりのフロアの感触かんしょくが、足あしの裏うらに新鮮しんせんだった。

すわっているぼくの正面しょうめんに、窓まどがあった。幅はばのせまい何なん枚まいものガラスのブラインドが、おたがいに平行へいこうな段だんになって、水平すいへいにかさなりあっていた。そのブラインドがつくる、横よこに細ほそいいくつものすきまから、外そとが見みえた。

外そとには、午後ごごまだ早はやい時間じかんの、明あかるく強つよい陽ひざしが充満じゅうまんしていた。冬ふゆの東京とうきょうから、ほんの数すう時間じかんまえ、ぼくはこの島しまに来きた。島しまは、北きた回帰かいき線せんと北緯ほくい二に〇れい度ど線せんとのちょうど中間ちゅうかんに位置いちしていた。

立たちあがったぼくは、Tシャツを脱ぬいだ。ブラインドの外そとの陽ひざしは強つよくて暑あつそうだが、眠ねむっているあいだ着きていたTシャツは、汗あせを吸すっていなかった。この感触かんしょくは、久ひさしぶりだ。

浴室よくしつへいき、ぼくはシャワーを浴あびた。熱あつい湯ゆを頭あたまから浴あび、顔かおを洗あらい体からだを洗あらっていくと、時差じさによって頭あたまのなかがかすかにぼうっとした感かんじは、ほとんど消きえ去さった。

島しまの空港くうこうに着ついてすぐに、ぼくはこのアパートメントまで来きて、この部屋へやの新あらたなる入居にゅうきょ者しゃとなり、部屋へやでする最初さいしょの作業さぎょうとして、時差じさぼけをとるための昼寝ひるねをした。このアパートメントは、部屋代へやだいがきわめて安やすい。そして、居心地いごこちは悪わるくない。ぼくは、気きにいっている。昼寝ひるねから目覚めざめた場所ばしょが、観光かんこう客きゃく用ようの普通ふつうのホテルの部屋へやではないことを、ぼくはうれしく思おもった。そのような部屋へやでは、時差じさぼけがとれにくいようにぼくは思おもう。

シャワーを終おわり、体からだをタオルでぬぐった。タオルの香かおりに、懐なつかしさがあった。裸はだかでキチンへいき、冷蔵れいぞう庫こを開ひらき、缶かんビールを一いち本ほん、とり出だした。プリモの12オンス缶かんだ。このビールは、かつてはこの島しまのアイエアで醸造じょうぞうされていたのだが、いまではカリフォルニア産さんだ。貴族きぞくの戦士せんしを円形えんけいのなかに描えがいた下したにあるリボンには、まだこの島しまのビールだった頃ころには、アイランド・ブリュード(この島しまでの醸造じょうぞう)とうたってあった。いまでは、そのリボンのなかには、SINCE 1897と、創業そうぎょうの年号ねんごうが記しるされているだけだ。そして、そのさらに下したに、「この列島れっとうの偉大いだいなる伝統でんとうをふまえて」という文句もんくがそえてある。「この島しまでの醸造じょうぞう」は、いつのまにか、「この列島れっとうの偉大いだいなる伝統でんとうをふまえて」に、変かわってしまった。

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