← Library‹ 時差のないふたつの島 2

プリモによって、時差じさぼけのかすかな残のこりは、きれいに消きえた。ぼくは、服ふくを着きた。十じゅう五ご年ねん前まえのアロハ・シャツに、着古きふるしたリーヴァイス。それに、白しろいスニーカーだ。ぼくは、部屋へやを出でた。一いち階かいまで降おりていき、外そとの陽ひざしへ出でていった。陽ひざしは、暑あつくて心地ここちよかった。バス・ストップまで歩あるき、やがてたいぎそうに走はしって来きたザ・バスに乗のり、ダウン・タウンまでいってみた。

これといったあてもなく、ぼくはダウン・タウンを歩あるいた。あのブックストア、このドラグ・ストアと、懐なつかしい道順みちじゅんをたどっていったぼくは、やがて、THE LEGARTと看板かんばんの出でている小ちいさな店みせを目めにとめた。ストアフロントのつくりや看板かんばんの出来できばえにひかれたぼくは、その店みせのまえに立たち、ディスプレー・ウインドーのなかを見みた。

その店みせは、女性じょせいの脚線きゃくせん美びをテーマにした写真しゃしんを専門せんもんに扱あつかっている店みせだということが、すぐにわかった。脚線きゃくせん美び、という、見みただけですでに充分じゅうぶんに美うつくしい三みつの漢字かんじによる言葉ことばを思おもいうかべながら、ぼくはその店みせに入はいった。

奥おくにむかって細長ほそながい店みせの、左右さゆうの壁面へきめんいっぱいに、写真しゃしんのディスプレーの棚たながつくってあった。絵葉書えはがきをふたまわりほど大おおきくしたサイズの写真しゃしんが、こまかく仕切しきった棚たなのなかに、びっしりと収納しゅうのうしてあった。

何千なんぜん点てんあるだろうか。脚線きゃくせんの美うつくしさをあらわにして、ありとあらゆるポーズをとっている美女びじょたちの写真しゃしんが、いっせいにぼくにむかって飛とびかかってくるようだった。写真しゃしんはすべてモノクロームであり、そのために脚線きゃくせん美びの人工じんこう的てきな印象いんしょうは高たかい次元じげんまで増幅ぞうふくされていた。

ほんのりと冷房れいぼうのきいた店内てんないに、客きゃくはぼくひとりだった。ぼくは、写真しゃしんをひとつひとつながめた。一いち九きゅう三さん〇れい年ねん代だいから現在げんざいにいたるまでのハリウッドが世よに送おくり出だした、有名ゆうめい無名むめいのさまざまな美女びじょたちの、脚線きゃくせん美びポーズ写真しゃしんだ。そのなかで圧倒あっとう的てきに多おおいのは、一いち九きゅう四よん〇れい年ねん代だいから一いち九きゅう六ろく〇れい年ねん代だいいっぱいの期間きかんにかけて活躍かつやくした女優じょゆうたちの写真しゃしんだった。懐なつかしい顔かおと名前なまえが、いくつもみつかった。

どの脚あしも、それぞれに、とび抜ぬけてきれいだった。映画えいがスターを専門せんもんに撮とっていた優秀ゆうしゅうな写真しゃしん家かたちが、技術ぎじゅつを駆使くししてものにした写真しゃしんだから、彼女かのじょたちの脚線きゃくせんが美うつくしいのは当然とうぜんだろう。

選えらび抜ぬいて一いち枚まい、ぼくは買かった。

「賢明けんめいに選えらんだね」

と、白人はくじん男性だんせいの店員てんいんが、言いった。三十さんじゅう代だい前半ぜんはんの彼かれはたいへん真面目まじめそうであり、鼻はなの下したに髭ひげをたくわえていた。真面目まじめくさった顔かおに、ふいに微笑びしょうがにこっと浮うかぶとき、彼かれはひどく気きの弱よわそうな雰囲気ふんいきになった。

ニュース・スタンドで波乗なみのりの雑誌ざっしの最新さいしん号ごうを買かい、早はやめの夕食ゆうしょくをすませ、ぼくは部屋へやに帰かえった。脚線きゃくせん美びの写真しゃしんを寝室しんしつの壁かべに、そして波乗なみのりの雑誌ざっしから切きり抜ぬいたパイプラインの写真しゃしんを居間いまの壁かべに、それぞれピンでとめて、アパートメントの部屋へやはたちまち自分じぶんのすみからしくなった。

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