← Library‹ 時差のないふたつの島 15

この一帯いったいの海岸かいがんほどに財産ざいさん価値かちの高たかい海岸かいがんは、世界せかいじゅうをさがしても、そうざらにはない。その貴重きちょうなビーチのなかの、さらに一いち等とう地ちに、そのプールはこしらえてある。

海うみと平行へいこうに、縦たての長ながさは一いち〇れい〇れいメートルある。横幅よこはばは、三十さんじゅう五ごメートルだ。その三十さんじゅう五ごメートルの横幅よこはばの中央ちゅうおうに立たち、一いち〇れい〇れいメートル・プールのぜんたいを見渡みわたすと、ゆったりとした気持きもちになる。そのプールは、プールとしては大おおきい。

プールの左側ひだりがわ、そのすぐ外そとには、海うみが広ひろがっている。太平たいへい洋ようだ。プールの縁えんに立たち、海うみに目めをむけ、太平たいへい洋ようぜんたいの地図ちずを頭あたまのなかに描えがき出だすと、いまの自分じぶんがどのような位置いちにいるのか、やがてはっきりと認識にんしき出来できてくる。

太平たいへい洋ようのなかの、この島しまの位置いちは、とてつもない。あらゆる陸地りくちから自みずからを完全かんぜんに切きり離はなすために、なんらためらうことなく選えらんだ位置いちが、きっとここだったのだろう。すさまじく広ひろい海うみのまっただなかに、かろうじて頭あたまを出だしている海底かいてい火山かざんの小ちいさな島しまの縁えんに海岸かいがんがあり、その海岸かいがんの縁えんに、このプールがある。

夕陽ゆうひの時間じかんが、ほぼ終おわったところだ。太陽たいようは、すでに沈しずんでいる。太陽たいようが沈しずんだ地点ちてんから西にしの空そらにむけて立たちあがり広ひろがっている残光ざんこうも、いまではほんのわずかだ。プールの縁えんにしゃがんで視線しせんを低ひくくすると、ワイキキに増殖ぞうしょくをつづけるコンクリートの高層こうそう建築けんちく群ぐんの、いまはひとつにつながったシルエットとしてのスカイラインが、プールのよどんだ水みずに映うつる。

海うみの、途方とほうもない広ひろがりの彼方かなたから、夕方ゆうがたの風かぜがおだやかに吹ふいてくる。ふりかえると、ダイアモンド・ヘッドがすでにシルエットだ。そして正面しょうめんには、ワイキキの海うみをへだてて、ワイキキのコンクリート・スカイライン。そのシルエットのなかに、無数むすうと言いっていい数かずの明あかりが、おたがいに重かさなりあうようにして、その鮮あざやかさを深ふかめつつある。

プールの右側みぎがわには、プールの全長ぜんちょうに沿そって、石いしでつくったおだやかな傾斜けいしゃの階段かいだんが十じゅう三さん段だんある。これは、観客かんきゃく席せきだ。そしてその観客かんきゃく席せきのうしろに、アーチのある壁かべが立たっている。中央ちゅうおうにひとつ大おおきくアーチがあり、それをはさんで両りょうわきに、小ちいさなアーチがひとつずつある。

アーチのむこう側がわに立たち、アーチごしに夕陽ゆうひを見みると、なかなかいい。アーチの上うえには、石いしから彫ほり出だしたイーグルがいる。首くびがなかったり、主翼しゅよくの端はしが欠かけていたりする。アーチのある壁かべぜんたいも、そして階段かいだんのような観客かんきゃく席せきも、クラシックな雰囲気ふんいきが漂ただようようにつくってある。クラシックなもののみが持もち得える、おおらかな感触かんしょくを、そのプールぜんたいは、いまでも持もっている。

プールもアーチもそして観客かんきゃく席せきも、第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんでヨーロッパへおもむきそこで戦死せんしした、ハワイ出身しゅっしんの兵士へいしたちのためのメモリアルだ。完成かんせいして一般いっぱんに披露ひろうされたのは、一いち九きゅう二に九きゅう年ねん八はち月がつ二十にじゅう四よん日かのことだった。

無料むりょうのパブリック・プールとして、地元じもとの子供こどもたちの絶好ぜっこうの遊あそび場ばであったこのプールは、一いち九きゅう五ご〇れい年ねん代だいにはまだ健在けんざいだった。

いまはすでにないが、当時とうじはプールの縁えんに飛とび込こみ台だいがあった。台だいは四よんつあり、いちばん低ひくいのは十じゅうフィートだった。そして、二十にじゅうフィート、三十さんじゅうフィートと、順じゅんに高たかくなっていき、四よん番ばんめの台だいは四十よんじゅうフィートを越こえていた。

十じゅうフィートの台だいからは、プールのなかにむけて滑すべり台だいがあった。頂上ちょうじょうにあるレヴァーを押おすと、鉄てつの滑すべり台だいの滑すべりをよくするために、水みずが出でてくるしかけになっていた。プールの水みずは海水かいすいだったが、レヴァーによって出でてくるこの水みずは、真水しみずだった。このプールのことを思おもい出だすたびに、滑すべり台だいの感触かんしょくがよみがえる。

いまは、『危険きけんにつき立たち入いり禁止きんし』の標識ひょうしきがあり、水みずは汚よごれてよどみ、観客かんきゃく席せきにはごみが散乱さんらんしている。

このメモリアルが完成かんせい披露ひろうされた日ひに、まず最初さいしょにプールに飛とび込こみ、一いち〇れい〇れいメートルを鮮あざやかに泳およいでみせたのは、デューク・カハナモクだった。彼かれとおなじくオリンピックのチャンピオン・スイマーであり、最高さいこうのターザン役者やくしゃとして知しられていたジョニー・ワイズミュラが、デュークの次つぎに泳およいだ。

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