TVの画面には、そのシーフード・レストランの店内が映っていた。若い女性アナウンサーの声が、画面外から聞こえていた。その店の営業時間は十一時から十一時まで、そして「サーヴィス・イズ・コンティニュアス」つまり休み時間なしであり、店の場所はケワロ・ベイスンのむかい側、「アクロス・フラム・ケワロ・ベイスン」だそうだ。女性アナウンサーの声質と抑揚はあきらかに東洋系なのだが、彼女の気持ちは東洋から離れて、出来るだけアメリカに近づこうとしていた。
日本のビールのCMが、そのあとに続いた。それからクリーニング店の宣伝。そして、ばらの花の専門店のCMがあった。喋っているのは、完璧なカリフォルニアなまりの若い女性だった。その店の電話番号をひとつに続けて言うときの彼女の発音を、ぼくは面白半分に真似してみた。
次のCMがはじまり、声は中年の男性に変わった。ニール・ブライスデル・センターで、今年のニュー・モデルの展示会が三日間にわたって開かれるという。展示されるのは、フォルクスワーゲン、ニッサン、そしてルノーだ。入場は無料であり、毎日一台、抽選で入場者に新車が当たる。この島に住んでいる人で、無効になっていない運転免許証を持っている人であれば誰にでも資格があるのだそうだ。
新車展示会のCMが終わると、TVの画面には、天井でゆっくりとまわっている扇風機が映った。天井で回転する、クラシックなスタイルの扇風機を専門に扱っている店のCMが、はじまった。
ぼくは、ベッドにすわってヘッドボードに背をもたせかけ、TVの画面を見ていた。TVは、部屋のむかい側の壁によせたドレッサーの上にあった。部屋の明かりは、消してあった。カラーTVの画面だけが、鮮明にまばゆかった。
TVに映る絵は、つまらない。東京では、もっとつまらない。アナウンサーたちが言っていることも、おなじくつまらない。ぼくは両足をフロアに降ろして立ちあがり、部屋のむこうへ歩いた。そして、TVをオフにした。
ベッドまでひきかえし、ぼくはあおむけに横たわった。救急車のサイレンが、遠くに聞こえた。明日、ラジオを買おう、とぼくは思った。この部屋にラジオがあれば、ひとりで過ごす夜のこんな時間に、たとえばAM1420KHzのKCCN局を聴くことが出来る。
ラジオと、それからタイプライターも、買わなくてはいけない。タイプライターは、いまぼくがこの島に来ている目的のために、ぜひとも必要なものだ。