← Library‹ 時差のないふたつの島 27

パトリシア・リヴィングストンがこの島しまに戻もどってくる日ひには、ぼくは空港くうこうで彼女かのじょを迎むかえることは出来できなかった。写真しゃしん家かの佐々木ささきといっしょに、ぼくはほかの島しまにいた。バーソロミューとハンナが、ふたりでパトリシアを空港くうこうで迎むかえた。この頃ごろには、佐々木ささき、ハンナ、バーソロミュー、そしてぼくは、すべて友人ゆうじんどうしとなっていた。

夕方ゆうがたの飛行ひこう機きで帰かえってきたぼくは、空港くうこうで佐々木ささきと別わかれ、そこからまっすぐにハンナの家いえへむかった。住すむ場所ばしょをまだみつけていないパトリシアは、ハンナのところにいったん落おち着つくことになっていた。

ハンナは、家いえにいた。ぼくを居間いままで連つれていき、すぐにパトリシアを呼よんでくると言いって姿すがたを消けした。ひとりがけのソファにすわって、ぼくは待まった。

やがて、素足すあしの足音あしおとが、居間いまの外そとの廊下ろうかに、かすかに聞きこえた。足音あしおとは居間いまに接近せっきんし、パトリシアは顔かおだけ居間いまのなかに入いれてぼくを見みた。もうすこしで美人びじんと言いっていい顔立かおだちの、おっとりした表情ひょうじょうの女性じょせいだった。背丈せたけは六ろくフィートを軽かるくこえているだろう。鼻柱はなばしらを中心ちゅうしんにそばかすが散ちっていた。やや古風こふうな髪かみのつくりは、それを見みる人ひとに懐なつかしい気持きもちを起おこさせた。

ぼくの微笑びしょうに顎あごをあげて微笑びしょうした彼女かのじょは、

「ハンナが言いっていたストーリー・ライターね」

と、言いった。ほどよく深ふかみのある声こえで、学校がっこうの先生せんせいのように彼女かのじょは喋しゃべった。

ぼくは、ソファを立たった。彼女かのじょは、居間いまに入はいってきた。明あきらかに借かりものとわかる、奇妙きみょうに丈たけの短みじかいサンドレスを、彼女かのじょは着きていた。サンドレスの裾すそから居間いまのフロアにむけて、まっすぐな長ながい脚あしが、きれいにのびていた。

彼女かのじょは、両手りょうてに一足ひとあしずつ、靴くつを持もっていた。ヒールの低ひくい、はきやすそうな、しかし平凡へいぼんな靴くつだった。一足ひとあしは鮮あざやかなグリーン、そしてもう一足ひとあしは、オレンジ色いろだった。居間いまの中央ちゅうおうまで入はいってきて、パトリシアは敷物しきものの上うえにあぐらをかいてすわった。

「あなたがこの島しまで書かこうとしているストーリーについて、ハンナから聞きいたわ」

「きっと面白おもしろい話はなしになると、ぼくは思おもうのです」

と、ぼくは言いった。

パトリシアは、まっすぐにぼくの目めを見みた。純粋じゅんすいな熱意ねついを満々まんまんとたたえて一いち直線ちょくせんにぼくの瞳ひとみを見みる彼女かのじょの視線しせんは、旧きゅう大陸たいりくを捨すてて新しん大陸たいりくに渡わたってきた開拓かいたく者しゃのそれだった。

「そうね。きっと、面白おもしろい話はなしになると、私わたくしも思おもうわ」

「ぼくは、最近さいきんは、東京とうきょうに住すんでいるのです」

「ええ」

「ひとつのラヴ・ストーリーを書かくように、東京とうきょうでぼくはぼくのエディターから依頼いらいを受うけたのです」

「はい」

「そのストーリーを書かくために、ぼくはこの島しまに来きたのです。ストーリーはこの島しまを舞台ぶたいにすることになっていますので、この島しまでストーリーを捜さがそうと、ぼくは思おもったのです」

「ハンナから聞きいたわ」

「基本きほん的てきなアイディアは、みつかったのです。そのアイディアをどんなふうにふくらませていくかについても、ハンナと話はなしをして、まとめてあるのです」

「そのアイディアをもとにして、ひとつのストーリーをつくろうとしているのね」

「そうです」

居間いまの入口いりぐちに、ハンナが姿すがたを見みせた。

「ここにいたの。捜さがしてたのよ」

と、ハンナはパトリシアに言いった。

パトリシアのかたわらに、ハンナは、正座せいざしてすわった。その姿すがたをしげしげと見みて、パトリシアは言いった。

「京都きょうとで過すごした一いち年間ねんかんに、そのようなすわりかたを、私わたくしは何なん度ども見みたわ。そして、私わたくし自身じしんも、出来できるようになったのよ」

長ながい脚あしをきゅうくつそうに折おりたたみ、パトリシアは正座せいざした。きれいに膝ひざをそろえ、腰こしの位置いちを決きめ、背せをまっすぐにのばし、顎あごを引ひいた。彼女かのじょ自身じしんがその姿勢しせいで快適かいてきであるかどうかは別べつとして、パトリシアの正座せいざは、すくなくとも見みた目めには、完璧かんぺきだった。

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