← Library‹ 時差のないふたつの島 28

ぼくのフォード・グラナーダをぼくが運転うんてんし、隣となりの助手じょしゅ席せきには、バーソロミューがすわっていた。すぐうしろから、ハンナのクライスラーがついてきていた。ハンナが運転うんてん席せきにいて、隣となりにはパトリシアがいた。そのクライスラーのさらにうしろから来くるのは、佐々木ささき誠まことの、四よん輪りん駆動くどうのワゴンだ。このワゴンには、佐々木ささきだけが乗のっていた。

ハレイワからワイアルーアにむかう田舎道いなかみちを、この三さん台だいの自動じどう車しゃは、走はしっていた。よく晴はれた日ひの午後ごごが夕方ゆうがたへと変化へんかしていく、長ながい西陽にしびの時間じかんの、はじまりの頃ころだ。

「前方ぜんぽうで道路どうろが盛もり上あがっているだろう。あそこ」

と、バーソロミューは、片手かたてをあげて示しめした。ごく短みじかい登のぼり坂ざかのようなスロープが、前方ぜんぽうにあった。

「あれをむこうへ越こえてすぐに、店みせがあるはずなんだ。いまでもまだ、営業えいぎょうはしてるだろう。店みせのまえで停とめてくれ」

道路どうろが盛もりあがっている部分ぶぶんは、短みじかい橋はしだった。その橋はしは、水路すいろのように見みえるけれども天然てんねんの、幅はばのせまい小川おがわにかかっていた。

スロープをむこうへ下おりると、道路どうろの右側みぎがわに、ジェネラル・ストアが一いち軒けんあった。建設けんせつされたのは、一いち九きゅう三さん〇れい年ねん代だいだろう。板張いたばりの平屋ひらや建だてで、例れいによって正面しょうめんにはフォルス・フロントがあった。

すっかり古ふるくなったその建物たてものは、土つちぼこりを存分ぞんぶんにかぶって、静しずかにさびれていた。大おおきく開ひらいてドアのないストア・フロントに人ひとの姿すがたはなく、店みせのなかにはなにも商品しょうひんは置おいてないように見みえた。徐行じょこうしつつ店みせのまえをとおり過すぎていくと、陳列ちんれつケースがいくつか、捨すててしまったもののように、店みせのなかにならんでいた。

店みせのまえをとおり過すぎ、自動じどう車しゃ三さん台だい分ぶんのスペースをとって、僕ぼくはグラナーダを停とめた。

「ちょっと外そとに出でてみよう」

と、バーソロミューは言いった。ぼくは、グラナーダのエンジンを停止ていしさせた。ドアを開ひらき、外そとに出でた。

ぼくとバーソロミューは、店みせにむかって歩あるいた。店みせの手前てまえで立たちどまった彼かれは、建物たてものの側面そくめんの壁かべを示しめした。板壁いたかべには、それぞれ時間じかんを置おいて、何なん層そうにもペイントが塗ぬってあり、どの層そうのペイントも、ささくれ立だっていた。その板壁いたかべのところどころに、長ちょう方形ほうけいや円形えんけいに、ペイントがほかの部分ぶぶんほどには傷いたんでいない個所かしょがいくつかあった。雨あめと風かぜと陽ひざしとによって、存分ぞんぶんにささくれ立だったほかの部分ぶぶんに比くらべると、傷いたんでいない個所かしょは奇妙きみょうに裸はだかの感かんじがあった。

「年代ねんだい物ぶつの古ふるい広告こうこく看板かんばんが、とりつけてあったのさ。一いち九きゅう四よん〇れい年ねん代だいのコカコーラの宣伝せんでん用ようの看板かんばんさ。おなじようなものを、見みたことがあるだろう。クラシックな雰囲気ふんいきで美うつくしく美人びじんが描えがいてあったりするやつさ。この店みせの、この壁かべにも、そんな看板かんばんがいくつかとりつけてあり、この店みせの壁かべの一いち部分ぶぶんとしてずっと昔むかしからそこにあり続つづけたのだけど、いまはもう、ないんだ」

バーソロミューの話はなしを聞きいていて、ぼくは、その話はなしがどんなふうに進展しんてんしていくのかについて、あるひとつの予感よかんのようなものを持もつことが出来できた。あまりうれしい予感よかんではなかった。

パトリシアとハンナ、そして佐々木ささきが、ぼくたちのかたわらに立たった。彼かれらも、店みせの板壁いたかべをながめた。

「ある日ひ、ぴかぴかのBMWがこの店みせのまえに停とまってね。ドアが開ひらいて、東洋とうよう系けいのまだ若わかい男性だんせいがひとり、外そとに出でてきたんだ。その男性だんせいは、店みせの外そとの壁かべを素早すばやく点検てんけんし、そのあと、店みせのなかに入はいってきた。品物しなものはなにも買かわず、店みせの主人しゅじんとも口くちをきかず、店みせの壁かべにかけてある古ふるい広告こうこくプレートや店みせの道具どうぐを、こまかく点検てんけんしはじめたのさ。そして、それが終おわると、その男性だんせいは、店みせの主人しゅじんに、コカコーラのロゴの入はいった看板かんばんや道具どうぐ類るいを、すべて買かいたいのだと、日本にっぽん語ごで言いったんだ。外そとの壁かべにかかっていた看板かんばん一いち枚まいに対たいして、五百ごひゃくドル払はらってもいいと、その男性だんせいは言いうんだ。店みせの主人しゅじんはびっくりしてしまってね。その日ひは、話はなしだけ聞きいて、あくる日ひ、また来きてもらったんだ。そのときはすでに話はなしが広ひろまっていて、新聞しんぶん社しゃから記者きしゃが来きていたし、TV局きょくからもカメラ・クルーを連つれてリポーターが来きていた。彼かれらの取材しゅざいを受うけながら、その日本にっぽん人にん男性だんせいは、この店みせにあったコカコーラに関係かんけいした品物しなものすべてを、合計ごうけい七千ななせんドルで、買かい取とっていったんだ。TVのニュースで報道ほうどうされたのを、ぼくは観みたよ。店みせが丸裸まるはだかにされてしまったように、ぼくは感かんじたね」

バーソロミューは、店みせの入口いりぐちにむかって歩あるいた。ぼくをふりかえり、

「そのときのことを、店みせの主人しゅじんに聞きいてみるかい」

と、彼かれは言いった。

ぼくたちは、店みせのなかに入はいった。店みせには、誰だれもいなかった。店みせの建物たてものは、道路どうろのわきの崖がけのような部分ぶぶんの上うえに建たっていて、店みせの奥おくのドアから崖がけの下したへ、階段かいだんがつくってあった。崖がけの下したは平たいらな土地とちで、民家みんかが何なん軒けんかあった。

「店みせの主人しゅじんは、下したの家いえに住すんでいるんだ。いまに、ここへ上あがってくるよ」

と、バーソロミューは言いった。そしてぼくとパトリシアとを交互こうごに見みて、

「こういう店みせのことが、ストーリーになるかい」

と、彼かれは言いった。

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