ぼくのフォード・グラナーダを、いまはバーソロミューが運転していた。彼は、田舎道に面した一軒の小さな木造の家のまえで、グラナーダを停めた。
エンジンを停止させた彼は、外にあるその家を示しながら、
「近くをとおりかかると、ここへまわって車を停め、この家を見ながら、しばらく考えごとをするのが、ぼくは好きなんだ」
と、彼は言った。
その家は、この島の田舎ならどこにでもあるような、平凡な造りの家だった。道路からすこしだけ下がったところに建っていて、平屋建てだ。床は高く、ポーチにむけて幅の広い階段がつくってあった。部屋の数は、キチンを入れてもせいぜい四つだろう。床下にはがらくたが押しこんであり、庭にはマンゴーの樹が何本もあった。庭の奥には、コンクリートで作ってピンクに色を塗ったフラミンゴが三羽、あった。そのうちの一羽は、横倒しになっていた。
ポーチを上がったところにある正面のドア枠の上に、白い小さなプレートがとりつけてあった。そのプレートには、オリーヴ色の大文字で、マーサ・J・カウアカプウ・メモリアル、と書いてあった。
「この家のことに関しては、パトリシアもよく知っている。マーサは、この家に住んでいたごく普通の主婦だった。亭主がろくでもない男でね。主として自分のフラストレーションのはけ口として、なにかと言えば、マーサを殴ったんだ。朝起きれば彼女を殴る、酒を飲めば彼女を蹴る、午後にふらっと帰ってきてまた彼女を殴る。近所の人たちの通報で、何度も警察が来たりしていたのだけど、その男は一度も逮捕されたりせずに、妻を殴り続けたんだ。マーサは、どこかへ逃げるように人から説得されていたけれど、私にはここしか自分の場所はないと言って、ここにとどまっていた。そして、ある日、夫に殴り殺されてしまった。妻にとって、夫から殴られるほど悲しいことはないんだ。その悲しみの記念として、この家は、メモリアルになっている。配偶者虐待に抵抗する団体がいまではこの島にも出来ていて、その抵抗運動をおこなっている人たちが、このメモリアルを管理している」
ぼくは、うしろを見た。グラナーダのうしろには、ハンナのクライスラーが停まっていた。ハンナとパトリシアが、車の外に出ていた。パトリシアの説明を、ハンナが聞いていた。かたわらで、佐々木も、説明を聞いていた。
「たまにぼくはここに車を停め、マーサの悲しみに思いをはせるよ」
バーソロミューが、言った。
「こういうのは、ストーリーになるかい」