← Library‹ 時差のないふたつの島 30

一いち軒けんの民家みんかのまえの道路どうろに、ぼくたちは自動じどう車しゃを停とめ、外そとに出でていた。パトリシアとハンナ、そして、ぼくと佐々木ささきの四よん人にんに、バーソロミューが語かたっていた。

「もう何なん年ねんもまえのことになるのだけれど、この家いえに両親りょうしんといっしょに住すんでいた十じゅう八はち歳さいの青年せいねんが、ある夏なつの日ひ、行方ゆくえ不明ふめいになったんだ。どこへいったのかまったくわからないまま、そして彼かれに関かんしてほとんどなんの手てがかりもないままに、事件じけんは迷宮めいきゅう入いりさ。いまでも、彼かれの行方ゆくえ不明ふめい事件じけんは、未み解決かいけつのままなんだ。両親りょうしんたちはすでにふたりとも他界たかいしていてね、この家いえはすでに人手ひとでに渡わたっている。ペイントの色いろは昔むかしとはちがっているし、奥おくのL字じ型がたになった部分ぶぶんは、あとからその人ひとが建たて増まししたものだ。庭にわのつくりも、ほとんどやりかえてある。しかし、あの自動じどう車しゃは、ずっとあのまま、あそこに置おいてあるんだ」

バーソロミューは、庭にわの隣家りんかとの境界きょうかい近ちかくに置おいてある一いち台だいの自動じどう車しゃを示しめした。一いち九きゅう七なな八はち年ねんのポンティアック・ファイアバードだった。本来ほんらいは鮮あざやかなスカイ・ブルーだが、車体しゃたいのペイントはいまではすっかり色いろあせていた。クロームの部分ぶぶんには大おおきく錆さびが浮うかび、タイアは四よんつとも平たいらにひしゃげていた。車体しゃたいの周囲しゅういには丈たけの高たかい草くさが生はえていて、ドアのなかばあたりまで、草くさが車体しゃたいをかくしていた。

「行方ゆくえ不明ふめいになったその青年せいねんの、その日ひの足あしどりを、警察けいさつは、綿密めんみつな聞ききこみ調査ちょうさによって、たどりなおしたんだ。夕方ゆうがたの四よん時じに、彼かれは、あそこにあるファイアバードにひとりで乗のって、外出がいしゅつした。友人ゆうじんたちに会あう、とだけ言いって、彼かれはこの家いえを出でていったんだ。いつもと変かわった様子ようすは、どこにもなかったと、両親りょうしんは証言しょうげんしている。時間じかん的てきに最後さいごに彼かれないしは彼かれらしい青年せいねんを見みているのは、日本にっぽん人にんの観光かんこう客きゃくだった。パジェットのレンタカーに乗のって、男性だんせいふたりと女性じょせいひとりの観光かんこう客きゃくが、この島しまの北側きたがわの道路どうろを走はしっていたんだ。道路どうろわきにセダンが停とまっていて、そのわきに四よん人にんの地元じもとの男性だんせいたちが立たっていたのを、彼かれら観光かんこう客きゃくたちは目撃もくげきしている。四よん人にんとも若わかいポリネシア系けいの男おとこたちで、そのうちのひとりが、行方ゆくえ不明ふめいになった青年せいねんらしいんだ。そのセダンのわきを走はしり抜ぬけた彼かれらは、男おとこたちが車くるまに乗のろうとしていたところのように見みえた、と証言しょうげんしている。その場所ばしょで四よん人にんは車くるまに乗のり、どこかへいったんだ。青年せいねんの足あしどりは、そこで最終さいしゅう的てきにぷっつりと切きれるんだ。両親りょうしんが私立しりつ探偵たんていを雇やとって調査ちょうさしてみたのだけど、結果けっかはおもわしくなかった。警察けいさつの調査ちょうさ以上いじょうのことは出来できなかったんだ。彼かれが乗のって出でたあのファイアバードは、ダウン・タウンの駐車ちゅうしゃ場じょうで、発見はっけんされた。両親りょうしんの頼たのみを受うけ入いれて、警察けいさつは、ファイアバードをずっとその駐車ちゅうしゃ場じょうの、おなじ場所ばしょに置おき続つづけることに同意どういした。事件じけんがあってから三さんか月げつ後ごに、そのファイアバードは、何者なにものかによって駐車ちゅうしゃ場じょうから出だされ、青年せいねんの自宅じたくのすぐ近ちかくまで、移動いどうされていた。駐車ちゅうしゃ場じょうで発見はっけんされたときには、キーはなかったのに、自宅じたく近ちかくでみつかったときには、キーがイグニションに入はいったままだった。事件じけんに関係かんけいしている誰だれかが、かなりの危険きけんを冒おかしてファイアバードを駐車ちゅうしゃ場じょうから出だし、青年せいねんの自宅じたくの近ちかくまで持もってきたのだね。目撃もくげき者しゃは、まったくないんだ。この島しまには、こんなふうにある日ひいきなり、なんのまえぶれもなしに行方ゆくえ不明ふめいになってそれっきりという人ひとの物語ものがたりが、たくさんある」

ひとしきり語かたり終おえて、バーソロミューは古ふるびたファイアバードをみつめた。ぼくをふりかえり、

「この事件じけんを調しらべなおすと、悲かなしいストーリーがひとつ、書かけるよ」

と、彼かれは言いった。

「彼かれの足あしどりが最終さいしゅう的てきにとだえるまで、小ちいさな手てかがりをもとに、驚おどろくほどたんねんにひとつひとつ調査ちょうさしていくそのプロセスを、警察けいさつの友人ゆうじんから聞きいたけれど、興味きょうみ深ふかいものだった」

「日本にっぽん人にんの旅行りょこう者しゃへは、警察けいさつはどうやってたどりついたのだろう」

ぼくが、きいた。

「彼かれらが四よん人にんの若わかい男性だんせいを目撃もくげきした地点ちてんで、ほかにさらに三さん人にんの、地元じもとの人ひとたちが、おなじ四よん人にんの男おとこたちを目撃もくげきしているんだ。その現場げんばから車くるまで十じゅう五ご分ふんほどのところにリゾート・ホテルがあって、そのホテルで聞ききこみをしているうちに、その日本にっぽん人にんの旅行りょこう者しゃにいきあたったのさ。四よん人にんの男おとこたちはセダンに乗のろうとしていたけれど、私わたくしたちがホテルの敷地しきちに入はいるわき道みちへ到着とうちゃくするまでは、車くるまは一いち台だいも私わたくしたちを追おい抜ぬいてはいかなかった、という証言しょうげんを、彼かれらはしていた。四よん人にんが乗のったセダンは、Uターンをしたのだね。そして、それっきりさ」

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