一軒の民家のまえの道路に、ぼくたちは自動車を停め、外に出ていた。パトリシアとハンナ、そして、ぼくと佐々木の四人に、バーソロミューが語っていた。
「もう何年もまえのことになるのだけれど、この家に両親といっしょに住んでいた十八歳の青年が、ある夏の日、行方不明になったんだ。どこへいったのかまったくわからないまま、そして彼に関してほとんどなんの手がかりもないままに、事件は迷宮入りさ。いまでも、彼の行方不明事件は、未解決のままなんだ。両親たちはすでにふたりとも他界していてね、この家はすでに人手に渡っている。ペイントの色は昔とはちがっているし、奥のL字型になった部分は、あとからその人が建て増ししたものだ。庭のつくりも、ほとんどやりかえてある。しかし、あの自動車は、ずっとあのまま、あそこに置いてあるんだ」
バーソロミューは、庭の隣家との境界近くに置いてある一台の自動車を示した。一九七八年のポンティアック・ファイアバードだった。本来は鮮やかなスカイ・ブルーだが、車体のペイントはいまではすっかり色あせていた。クロームの部分には大きく錆が浮かび、タイアは四つとも平らにひしゃげていた。車体の周囲には丈の高い草が生えていて、ドアのなかばあたりまで、草が車体をかくしていた。
「行方不明になったその青年の、その日の足どりを、警察は、綿密な聞きこみ調査によって、たどりなおしたんだ。夕方の四時に、彼は、あそこにあるファイアバードにひとりで乗って、外出した。友人たちに会う、とだけ言って、彼はこの家を出ていったんだ。いつもと変わった様子は、どこにもなかったと、両親は証言している。時間的に最後に彼ないしは彼らしい青年を見ているのは、日本人の観光客だった。パジェットのレンタカーに乗って、男性ふたりと女性ひとりの観光客が、この島の北側の道路を走っていたんだ。道路わきにセダンが停まっていて、そのわきに四人の地元の男性たちが立っていたのを、彼ら観光客たちは目撃している。四人とも若いポリネシア系の男たちで、そのうちのひとりが、行方不明になった青年らしいんだ。そのセダンのわきを走り抜けた彼らは、男たちが車に乗ろうとしていたところのように見えた、と証言している。その場所で四人は車に乗り、どこかへいったんだ。青年の足どりは、そこで最終的にぷっつりと切れるんだ。両親が私立探偵を雇って調査してみたのだけど、結果はおもわしくなかった。警察の調査以上のことは出来なかったんだ。彼が乗って出たあのファイアバードは、ダウン・タウンの駐車場で、発見された。両親の頼みを受け入れて、警察は、ファイアバードをずっとその駐車場の、おなじ場所に置き続けることに同意した。事件があってから三か月後に、そのファイアバードは、何者かによって駐車場から出され、青年の自宅のすぐ近くまで、移動されていた。駐車場で発見されたときには、キーはなかったのに、自宅近くでみつかったときには、キーがイグニションに入ったままだった。事件に関係している誰かが、かなりの危険を冒してファイアバードを駐車場から出し、青年の自宅の近くまで持ってきたのだね。目撃者は、まったくないんだ。この島には、こんなふうにある日いきなり、なんのまえぶれもなしに行方不明になってそれっきりという人の物語が、たくさんある」
ひとしきり語り終えて、バーソロミューは古びたファイアバードをみつめた。ぼくをふりかえり、
「この事件を調べなおすと、悲しいストーリーがひとつ、書けるよ」
と、彼は言った。
「彼の足どりが最終的にとだえるまで、小さな手かがりをもとに、驚くほどたんねんにひとつひとつ調査していくそのプロセスを、警察の友人から聞いたけれど、興味深いものだった」
「日本人の旅行者へは、警察はどうやってたどりついたのだろう」
ぼくが、きいた。
「彼らが四人の若い男性を目撃した地点で、ほかにさらに三人の、地元の人たちが、おなじ四人の男たちを目撃しているんだ。その現場から車で十五分ほどのところにリゾート・ホテルがあって、そのホテルで聞きこみをしているうちに、その日本人の旅行者にいきあたったのさ。四人の男たちはセダンに乗ろうとしていたけれど、私たちがホテルの敷地に入るわき道へ到着するまでは、車は一台も私たちを追い抜いてはいかなかった、という証言を、彼らはしていた。四人が乗ったセダンは、Uターンをしたのだね。そして、それっきりさ」