あくる日の朝、まだ早い時間に、ぼくはアパートメントを出た。三ブロック歩いておもての大通りへ出ていき、朝刊を買った。
ウールワースのレストランでその朝刊を読みながら、ぼくは朝食をとった。つまらないことばかり書いてある朝刊だった。一面に出ている本日のジョークさえ、つまらなかった。
朝食を終わる頃には、その新聞にうんざりしてしまった。なんでもいいから、夢中になって読むことの出来るような文章を読みたい、とぼくは思った。
ウールワースを出たぼくは、ザ・バスに乗り、ショッピング・センターへいった。巨大なショッピング・センターのなかでスーパー・マーケットを二、三軒まわり、それからブックストアへいくと、自分の気持ちのなかのリズムは、急速にその町の持つリズムに同調していった。
一階にある大きなブックストアで、ぼくは時間をかけて本をさがした。ハード・カヴァーの本を一冊と、きわめて文芸的な同人雑誌を一冊、ぼくは買った。ハード・カヴァーの本は、この島で昔から肉体労働を続けてきた人たちを何人もインタヴューし、彼らの生活を彼ら自身の言葉によって語らせ、そのまま文章にして収録した、面白そうな本だった。
同人雑誌には、詩やエッセイ、そして短編小説が、おさめてあった。ワード・プロセサーで打ったものをそのまま印刷原稿にした、なんの愛想もない、簡潔なつくりの小さな雑誌だった。
ぼくは、公園まで歩いた。今日のように空がまっ青で陽ざしが強く、風がさわやかな日に、公園にむかって歩いていると、公園につくまではなんだかとてもきまり悪いことをしているような気になる。いまごろになって、のこのこと公園へ歩いていくとは。もっと早くに、とっくに、公園で草の上に横たわっていなくてはいけない。
大きな樹が草の上につくる影のなかに横たわり、ぼくは買ってきたばかりの同人雑誌を読んだ。三編ある小説のうち、いちばんはじめのひとつを、ぼくは読んだ。その物語には、『王子たちのための美しい波』という意味のタイトルが、ハワイ語でつけてあった。
ぼくがその物語を読んでいるあいだずっと、雑誌のページは、風を受けて小さくはためき続けた。物語は、たいへんに面白かった。的確な言葉づかいがいずれ必ず生み出す良質の叙情が、端正にくっきりと展開していくストーリーに、美しくよりそっていた。
島のなかにある山の描写から、物語はスタートしていた。描写はやがてその山のなかにある巨大な岩へと移り、その岩の側面に簡潔な線で描かれた壁画を、作者は自分の文章によって浮き立たせた。サーフボードで大波に乗っている若い男性を描いた壁画だった。
まだこの島に人が定住していなかった大昔に描かれた壁画であることが科学的に判定されていくプロセスが、その物語にとっての助走路となっていた。そしてそこから、小説的な想像力によって、まるで神話のように面白いストーリーが、展開してあった。