島のいちばん北にむかって、ぼくはフォード・グラナーダで走っていた。西陽の時間だ。太平洋の遥か彼方から、太陽の光は、海沿いの道路に対してほぼ直角に、浅い角度で射してきていた。その西陽のなかを、ぼくのグラナーダは、北へむかった。
道路の左側は、わずかな陸地をへて、すぐに海だ。海岸が、長く続いていた。道路の端からその海岸へ、急なスロープで落ちていく。海は、おだやかだ。しかし、夕方の波が、そろそろ立ちはじめる。
道路の右側は、頑丈に木で造った柵をへだてて、草と灌木のまばらに生えた荒地が、むこうの山裾まで広がっていた。荒地のなかには、なにもなかった。
山裾がはじまるあたりの、まだ高さのそれほどない土地に、木造の建物がひとつ、建っていた。平屋建ての、細長い建物だ。規則的に窓がならんでいる。中央にポーチと入口が見えた。建物の壁は、くすんだピンクに塗ってあった。建物ぜんたいに、西陽が射していた。正面の入口は大きく開いていた。内部までは光が届かないから、四角い大きな入口は、陽ざしを受けとめているピンクの壁と対比すると、ぽっかりとあいた暗い空間のように見えた。
道路を北にむかって走りながら、ぼくはその建物を見た。その人は、今日も、おなじ場所にいた。ポーチの左側の壁に寄せて椅子をひとつ置き、その椅子に、まるで置物のように、その人はすわっていた。膝に両手を置き、まっすぐにその人は海のほうを見ていた。その人ぜんたいに、陽が当たっていた。
その人は、いつもとおなじように、大きくぽかんと、口を開いていた。丸く開いたままの口が、道路を自動車で走るぼくからでも、はっきりと見えた。細かなディテールをくっきりと浮き立たせる西陽のしわざだ。
椅子にすわったままじっと動かずにいるその人は、内部が完全に空洞であるように、ぼくには見えた。その暗いがらんどうの空間への入口が、ぽっかりと丸く開いたままの、暗い口腔の内部なのだ。
このピンクの建物は、収容施設であり、ポーチの上に出した椅子にすわって口を開いたままのその人は、ここに収容されている人たちのうちのひとりだ。夕方のこの時間、北へむかってここを自動車で走ると、かならず、この人の姿がポーチの上に見える。