← Library‹ 時差のないふたつの島 31

島しまのいちばん北きたにむかって、ぼくはフォード・グラナーダで走はしっていた。西陽にしびの時間じかんだ。太平たいへい洋ようの遥はるか彼方かなたから、太陽たいようの光ひかりは、海沿うみぞいの道路どうろに対たいしてほぼ直角ちょっかくに、浅あさい角度かくどで射さしてきていた。その西陽にしびのなかを、ぼくのグラナーダは、北きたへむかった。

道路どうろの左側ひだりがわは、わずかな陸地りくちをへて、すぐに海うみだ。海岸かいがんが、長ながく続つづいていた。道路どうろの端はしからその海岸かいがんへ、急きゅうなスロープで落おちていく。海うみは、おだやかだ。しかし、夕方ゆうがたの波なみが、そろそろ立たちはじめる。

道路どうろの右側みぎがわは、頑丈がんじょうに木きで造つくった柵さくをへだてて、草くさと灌木かんぼくのまばらに生はえた荒地あれちが、むこうの山裾やますそまで広ひろがっていた。荒地あれちのなかには、なにもなかった。

山裾やますそがはじまるあたりの、まだ高たかさのそれほどない土地とちに、木造もくぞうの建物たてものがひとつ、建たっていた。平屋ひらや建だての、細長ほそながい建物たてものだ。規則きそく的てきに窓まどがならんでいる。中央ちゅうおうにポーチと入口いりぐちが見みえた。建物たてものの壁かべは、くすんだピンクに塗ぬってあった。建物たてものぜんたいに、西陽にしびが射さしていた。正面しょうめんの入口いりぐちは大おおきく開ひらいていた。内部ないぶまでは光ひかりが届とどかないから、四角しかくい大おおきな入口いりぐちは、陽ひざしを受うけとめているピンクの壁かべと対比たいひすると、ぽっかりとあいた暗くらい空間くうかんのように見みえた。

道路どうろを北きたにむかって走はしりながら、ぼくはその建物たてものを見みた。その人ひとは、今日きょうも、おなじ場所ばしょにいた。ポーチの左側ひだりがわの壁かべに寄よせて椅子いすをひとつ置おき、その椅子いすに、まるで置物おきもののように、その人ひとはすわっていた。膝ひざに両手りょうてを置おき、まっすぐにその人ひとは海うみのほうを見みていた。その人ひとぜんたいに、陽ひが当あたっていた。

その人ひとは、いつもとおなじように、大おおきくぽかんと、口くちを開ひらいていた。丸まるく開ひらいたままの口くちが、道路どうろを自動じどう車しゃで走はしるぼくからでも、はっきりと見みえた。細こまかなディテールをくっきりと浮うき立たたせる西陽にしびのしわざだ。

椅子いすにすわったままじっと動うごかずにいるその人ひとは、内部ないぶが完全かんぜんに空洞くうどうであるように、ぼくには見みえた。その暗くらいがらんどうの空間くうかんへの入口いりぐちが、ぽっかりと丸まるく開ひらいたままの、暗くらい口腔こうこうの内部ないぶなのだ。

このピンクの建物たてものは、収容しゅうよう施設しせつであり、ポーチの上うえに出だした椅子いすにすわって口くちを開ひらいたままのその人ひとは、ここに収容しゅうようされている人ひとたちのうちのひとりだ。夕方ゆうがたのこの時間じかん、北きたへむかってここを自動じどう車しゃで走はしると、かならず、この人ひとの姿すがたがポーチの上うえに見みえる。

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