← Library‹ 時差のないふたつの島 6

青年せいねんたちがカヌーに乗のってでかけていった島しまは、もちろん、この島しまだ。そして、大波おおなみが出来できる湾わんは、いまもこの島しまにある。

同人どうにん雑誌ざっしにのっていたこの物語ものがたりを面白おもしろく読よんだぼくは、今日きょうはこれからタイプライターを買かおうと思おもい、公園こうえんを出でていった。ショッピング・センターのバス・ターミナルまで歩あるいていき、バスに乗のった。途中とちゅうでバスを乗のり換かえ、大学だいがくまでいった。

大学だいがくは、ぼくが通かよっていた頃ころと、ほとんどおなじだった。CO-OPのある建物たてものまでいき、タイプライターやワード・プロセサーなどを売うっている場所ばしょをみつけた。

売場うりばの主任しゅにんらしい白人はくじんのおばさんに、どんなタイプライターをさがしているのか、ぼくは伝つたえた。

「信頼しんらいのおけるアメリカ製せいの、最新さいしんモデルのタイプライターを一いち台だい、買かいたいのです。原稿げんこうをかなり大量たいりょうに書かきますから、使つかい勝手かってがよくて、しかもこてんぱんに使つかえるのがいいです」

ぼくの言葉ことばに彼女かのじょは自信じしんを持もってうなずき、一いち台だいの電子でんしタイプライターのところへ、ぼくを導みちびいてくれた。

そのタイプライターをおばさんは示しめし、

「これは店頭てんとうのデモンストレーション用ようだから、好すきなだけさわってみてくれていいのよ」

と、言いった。そして、電源でんげんコードをつなぎ、本体ほんたいのうしろにあるスイッチをオンにしてくれた。

「さあ、どうぞ」

髪かみのつくりから化粧けしょうのしかた、半袖はんそでのブラウスに包つつみこまれた胸むねのふくらみ、腰こしのたくましさ、スカートのフレアのしかた、そして、はきやすそうな靴くつにおさまった大おおきな足あしにいたるまで、実用じつよう的てきで陽気ようきな活動かつどう性せいをフルにたたえた上品じょうひんさを、その主任しゅにんのおばさんは自分じぶんのものとして持もっていた。

彼女かのじょがすすめてくれたそのタイプライターを、ぼくは気きにいった。大学だいがく生せいが勉強べんきょうのために使つかうものというよりも、どちらかと言いえばオフィス・マシーンだろう。しかし、おおげさなところはどこにもなく、サイズも大おおきすぎない。実用じつように徹てっしていながら、すっきりとぜんたいをまとめたデザインのしかたには、押おしつけがましさがまったくなかった。長ながい時間じかんにわたって目めのまえに見み続つづけても、いっこうに飽あきないし、いやにならないだろう。キーのタッチは素晴すばらしく、印字いんじするときの音おとも、ぼくの好このみだった。リターンのスピードも、たいへんいい。

しばらくほかの客きゃくの応対おうたいをしていたおばさんは、やがてぼくのところにもどって来きた。

「どうかしら」

と、彼女かのじょはきいた。

ぼくは、うなずいた。

「いいです。とても、いいです」

「勉強べんきょうする気きがおきてくるようなタイプライターでしょう。本格ほんかく的てきなマシーンよ」

「そのとおりですね」

はじめに装填そうてんしたタイプライター用よう紙しは、すでにぼくの試ためし打うちでいっぱいになっていた。ぼくは、紙かみを交換こうかんした。あらためてタイプライターとむきあい、この店みせに入はいって来きたときから静しずかに聞きこえていた音楽おんがくに、ぼくは自分じぶんの気持きもちを重かさねあわせた。

電気でんきベースにリード・ギター、そしてリズム・ギターがふたりに、ウクレレがひとり。以上いじょう、五ご人にんのグループによるハワイ音楽おんがくだ。

ダブル・ストラミングでウクレレを弾ひいている女性じょせいが、このグループのリード・シンガーらしい。彼女かのじょのソプラノによるハワイ語ごの歌詞かしを、ぼくは頭あたまのなかで追おいかけてみた。

'Auhea wale 'oe ku'u lei nani

Ho'i mai no kaua la e pili.

Kou aloha Ka'u e hi'ipoi nei

'A kuikui 'eha i ko'u mana'o.

'Ano'ai ka pilina 'ole

E lei 'a'i 'oe me ku'u lei.

聞ききとることの出来できた歌詞かしを、ぼくはタイプライターで紙かみの上うえに叩たたき出だしていった。東京とうきょうに置おいてあるぼくの古ふるいタイプライターは手動しゅどう式しきだが、いまぼくが叩たたいているこれは、電子でんしタイプライターだ。キーに指ゆびさきをほんのすこしだけ力ちからをこめて触ふれるだけで、気持きもちのいい感触かんしょくと音おととともに、紙かみの上うえにくっきりと印字いんじされていく。

ぼくのハワイ語ごの聞ききとり能力のうりょくには、明あきらかに限界げんかいがあった。ほんの数すう行ぎょうで、ぼくはソプラノに置おきざりにされてしまった。

ぼくのかたわらに立たって見みおろしていたおばさんは、ぼくが打うった文字もじを見みて、何なん度どもうなずいてくれた。

「まちがってないわよ。そのとおりよ」

と、彼女かのじょは言いった。

「いまの歌うたは、これまでにいろんなところで何なん度ども聞きいたことのある歌うたです。なんというタイトルの歌うたでしたっけ」

彼女かのじょを見上みあげて、ぼくはきいた。

『レイ・ナニ』という歌うただと、彼女かのじょは教おしえてくれた。レイ・ナニ。美うつくしいレイ。

リード・シンガーのほかにもうひとりソプラノがいて、さらにアルトが加くわわる。女性じょせいトリオという伝統でんとう的てきなかたちを、男性だんせいによるリード・ギターと電気でんきベースとが支ささえていた。フラのための快適かいてきなテンポの歌うたを、トリオ・ワヒネは、堂々どうどうとうたった。

「このタイプライターにします。これを、買かいます」

そう言いいながら、ぼくは、女性じょせいトリオの三さん人にんたちの姿すがたかたち、容貌ようぼう、喋しゃべりかた、笑わらい声ごえなどを、ひとりずつ、想像そうぞうのなかにつくってみた。

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