← Library‹ 波乗りの島 アイランド・スタイル 9

島しまの北側きたがわからセスナで飛とび立たったときには、これ以上いじょうの快晴かいせいはあり得えないような晴天せいてんだった。島しまの南みなみへまわりこむと、灰色はいいろの曇天どんてんとなった。火山かざんが吐はき出だし続つづける煙けむりと、溶岩ようがんが海うみへ入はいりこむときに噴ふきあがる水みず蒸気じょうきとで、高度こうど六千ろくせんフィートくらいまで視界しかいは完全かんぜんにふさがっていた。

島しまの南端なんたんぜんたいが、煙けむりをあげて燃もえているように見みえた。煙けむりと白しろい水みず蒸気じょうきの山やまが、火山かざんの山やまよりも高たかく、巨大きょだいにいくつも立たちあがり、もくもくと内部ないぶから脈動みゃくどうしつつ、西にしに向むかって吹ふき流ながされていた。火柱ひばしらが立たったり、灼熱しゃくねつの溶岩ようがんが大滝おおたきのように流ながれ出でる光景こうけいはもうないが、溶岩ようがんの流出りゅうしゅつは続つづいていた。煙けむりと灰はいがすさまじい。

町まちはあとかたもなかった。濃こい灰色はいいろの溶岩ようがんの河かわが、町まちのすべてを埋うめていた。木造もくぞうの建物たてものはすべて燃もえてしまい、廃虚はいきょは溶岩ようがんの下しただ。ショッピング・センターのコンクリートの屋根やねが、半分はんぶんだけ見みえた。ところどころ、赤あかや青あおの小ちいさな点てんが、溶岩ようがん流りゅうのなかに見みえた。埋うまっている自動じどう車しゃの屋根やねなのだ。

全滅ぜんめつとはまさにこのことだ。溶岩ようがんの流ながれが町まちをのみこんだ。そして溶岩ようがんは湾わんに注そそいだ。湾わんぜんたいが溶岩ようがんで煮にえたぎり、水みず蒸気じょうきの山やまが空中くうちゅうへ巨大きょだいにそびえていた。おそらく湾わんは溶岩ようがんですっかりふさがれ、なくなってしまうに違ちがいない。

町まちも消きえていた。牧場ぼくじょうも、花畑はなばたけも、すべて溶岩ようがんの分厚ぶあつい層そうが、何なん重じゅうにも覆おおいつくした。まだ冷ひえてもいなければ固かたまってもいない溶岩ようがんの下しただ。

ハッピー・ヴァレーは、もはや保養ほよう地ちどころではなかった。緑みどりの林はやしなど、どこにも見みえない。降ふり積つもった火山かざん灰はいが、地形ちけいをすっかり変かえていた。ハッピー・ヴァレーは、溶岩ようがんと火山かざん灰はいの山やまの下したに埋うまっていた。

誰だれも町まちに近寄ちかよることは出来できなかった。上空じょうくうから遠とおまきにして見守みまもるだけだ。湾わんの北きたにも南みなみにも、溶岩ようがんは流ながれこんでいた。最初さいしょに避難ひなんした南側みなみがわの岬みさきの根ねもとにある丘おかの公園こうえんは、頂上ちょうじょうだけがぽつんと小ちいさく、溶岩ようがんのなかにとり残のこされていた。

次つぎから次つぎに流ながれこんで来くる溶岩ようがんを受うけ入いれ、海うみから煙けむりと水みず蒸気じょうきが猛然もうぜんと立たちのぼった。その高たかさは、山やまの頂上ちょうじょうをはるかに越こえていた。

遠とおくの上空じょうくうから島しまを見みた。島しまそのものは見みえず、噴火ふんかの煙けむりと水みず蒸気じょうきの山やまだけが、いくつも見みえた。何なん億おく年ねんも前まえ、島しまがこの海うみに出来でき始はじめたときの様子ようすは、おそらくこんなだっただろう。

島しまの南端なんたんに沿そってしばらく飛とんでみた。島しまの南端なんたんは活かつ火山かざん帯たいだ。何なん年ねんおきかに噴火ふんかが繰くり返かえされた。今回こんかいとおなじスケールの爆発ばくはつは、二十にじゅう年ねん前まえに一いち度どあった。そのときは山やまあいの小ちいさな村むらが溶岩ようがんの下したになって全滅ぜんめつした。

山やまから海うみへ流ながれこんだ溶岩ようがんが、固かたまっていまもそのままに残のこっている。古ふるいカルデラの内部ないぶには観測かんそく所しょや展望てんぼう台だいがあり、カルデラの中心ちゅうしんで現在げんざいも溶岩ようがんをかかえる丸まるい火口かこうが、展望てんぼう台だいから見下みおろせる。

ウエーキ島しまのさらに西にしからここまで、いくつもの火山かざんが太平たいへい洋ようのまんなかにつらなっている。西にしから順じゅんに噴火ふんかして島しまを次々つぎつぎにつくり、東ひがしへ進すすんで来きた。西にしのほうではすでに火山かざんは死しに絶たえ、島しまは海中かいちゅうに没ぼっしようとしている。最さい東端とうたんのここでは、まだ火山かざんは生いきている。地動ちどう計けいによる観測かんそくでは噴火ふんか活動かつどうの予測よそくなどほとんどつけることの出来できない活かつ火山かざんだ。

島しまの北側きたがわへ帰かえるために山やまの上空じょうくうを飛とびながら、僕ぼくは振ふり返かえってみた。巨大きょだいな煙けむりの山やまが天てんに向むかって立たち、後方こうほうの視界しかいを完全かんぜんにふさいでいた。あの月光げっこうの湾わんのチューブ波はの、幻想げんそう的てきな銀色ぎんいろの輝かがやきが、一瞬いっしゅん、目めに見みえた。

噴火ふんかから一いち週間しゅうかん後ご。ボブ・ラインハートの送別そうべつパーティがおこなわれた。島しまの北側きたがわにあるジェニファーの親類しんるいの別荘べっそうに、全員ぜんいんがふたたび集あつまった。グレン・ペパマンと録音ろくおんスタッフは、テープを持もって先さきに帰かえった。LP五ご枚まい分ぶんの歌うたや演奏えんそうを完璧かんぺきにテープに収おさめきったとき、噴火ふんか寸前すんぜんの最初さいしょの地鳴じなりが響ひびいたのだ。

用事ようじでホノルルへいって来きたジェニファーが、僕ぼく宛あてにオフィスに届とどいていた手紙てがみを持もって来きてくれた。東京とうきょうからのが一いち通つうあった。ホームシック・アイランド・ボーイスからだ。

彼かれらの旅たびは四よん泊はく五いつ日かの短みじかい旅たびだった。初はじめてハワイに来きたその初日しょにちに、彼かれらにとっては神かみであるパニオロやその音楽おんがく仲間なかまに会あって大だい感激かんげきし、二ふた日か後ごには録音ろくおんをモニター・ルームで聴きいて打うちのめされ、同時どうじに、ハワイの火山かざんが噴火ふんかするのを目めのあたりにした。そして、あくる日ひ、早はやくも東京とうきょうへ帰かえった。

五ご人にんの名なを僕ぼくは思おもい出だしてみた。トミオ。オサム。ヒロシ。タケアキ。ハルミチ。「なにがなんだかわからないままに、不思議ふしぎなショックがまだ去さりません。僕ぼくたちは、ものすごい体験たいけんをしたのです」。彼かれらは、手紙てがみにそんなふうに書かいていた。

パニオロやラインハートたちの演奏えんそうが始はじまっているテラスに寝ねそべって、僕ぼくはその手紙てがみを読よんだ。夜空よぞらを見上みあげた。月つきが出でていた。たしかにたいへんな体験たいけんの内部ないぶをくぐり抜ぬけて来きたのだという事実じじつを、このとき僕ぼくは初はじめて強つよく実感じっかんした。パニオロたちの音楽おんがくにからめとられ、体たいぜんたいが夜よるの風かぜのなかに軽かるく持もちあげられたようになっている僕ぼくの上うえに、夜空よぞらの無数むすうの星ほしが、いっせいにのしかかった。

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