← Library‹ 少女時代 いなくなりたい 6

ホミの自宅じたくから小しょう学校がっこうまで、歩あるいて七、八しちはち分ふんだった。彼女かのじょが三さん年ねん生せい、四よん年ねん生せい、そして五ご年ねん生せいだった頃ころを中心ちゅうしんに、通学つうがく途中とちゅうでよその家いえの前まえに立たちどまり、じっとその家いえを見みることを、彼女かのじょは頻繁ひんぱんにおこなっていた。通学つうがく路ろは住宅じゅうたく地ちのなかだ。歩あるいていく道みちの両側りょうがわには、なんの変かわりばえもしない民家みんかが、平凡へいぼんに連続れんぞくしていた。特定とくていの一いち軒けんではなく、ふと気きになった一いち軒けんの前まえに立たちどまり、飽あきることなくいつまでも、彼女かのじょはその家いえを眺ながめて過すごした。

そのようなときのホミを、母親ははおやは、一いち度どだけ目撃もくげきしたことがあった。立たちどまったホミがじっと一いち軒けんの家いえを見みている道みちを、偶然ぐうぜんに母親ははおやがとおりかかったからだ。その家いえを、母親ははおやは、ホミの友ともだちの家いえだと思おもった。友ともだちが家いえから出でてくるのを娘むすめは待まっているのだと、母親ははおやは思おもった。

娘むすめのかたわらに立たちどまってしばらく待まった母親ははおやは、

「来こないわね。どうしたのかしら」

と言いった。

「どうもしてないよ」

ホミが答こたえた。

「呼よんでらっしゃいよ」

「誰だれを?」

「友ともだち」

「誰だれの友ともだち?」

「友ともだちを待まってるのじゃないの?」

その民家みんかを示しめして、母親ははおやはホミにきいた。ホミは首くびを振ふった。

「いいえ」

「まあ」

「見みてたの」

「なにを?」

「このお家いえを」

「なぜ?」

「この家いえにも私わたくしのような女おんなのこが住すんでるのかなあと思おもって」

「住すんでるのかしら」

「知しらない」

「お家いえを見みてたの?」

「見みて想像そうぞうしてたの。私わたくしとおなじような女おんなのこが住すんでるのを想像そうぞうしてたら、その女おんなのこと私わたくしがどんどんひとつに重かさなって、私わたくしはこの家いえの子供こどもになってしまった」

まだ小学しょうがく生せいの娘むすめを、母親ははおやは不思議ふしぎそうに見みつめた。そして、

「お家いえへ帰かえりましょう」

と言いった。

「どこのお家いえ?」

ホミはききかえした。

「ホミのお家いえ」

「私わたくしはここ」

立たちどまって見みていたその民家みんかを、ホミは示しめした。

「ここはよそのお家いえでしょう」

「女おんなのこがいるの」

「いませんよ」

「いる」

「わからないわ、そんなこと」

「私わたくしとおんなじ女おんなのこ」

「ホミ。帰かえりましょう。ママもちょうどお家いえへ帰かえるとこだったの。よかったわ、会あえて。予定よていより遅おそくなったから、急いそいでたのよ。学校がっこうは早はやく終おわったの?」

母親ははおやの質問しつもんにホミは小ちいさく一いち度どうなずいた。

「帰かえりましょう」

母親ははおやは娘むすめに片手かたてをさしのべた。ホミはその手てを取とった。母親ははおやは歩あるき始はじめ、ホミもともに歩あるいた。歩あるき始はじめてすぐに、ホミはその家いえをふりかえった。

「私わたくしがふたつに分わかれた」

と、ホミは母親ははおやに言いった。

「ひとりはあの家いえにいて、もうひとりはここにいます」

「ホミは全部ぜんぶここよ」

ホミの小ちいさな手てを握にぎっている自分じぶんの手てに、母親ははおやは力ちからをこめなおした。しばらくそのまま歩あるいてから、

「痛いたいよ、ママ」

と、ホミは言いった。手てにこめた力ちからを、母親ははおやは少すこしだけゆるめた。

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