← Library‹ 少女時代 いなくなりたい 7

自分じぶんの部屋へやの外そとで廊下ろうかに立たち、開ひらいたドアごしに部屋へやのなかを観察かんさつするようにのぞきこんで時ときを過すごすことも、小学しょうがく生せいの頃ころのホミはしばしばおこなった。現在げんざいでもそれをホミは好すいている。ときどきおこなっている。

小しょう学校がっこう五ご年ねん生せいのとき、一いち度どだけ、母親ははおやはそのようなホミを見みたことがあった。絨毯じゅうたんの敷しいてある階段かいだんを、母親ははおやは静しずかにゆっくり、二に階かいへ上あがって来きた。だから母親ははおやの足音あしおとはホミに聞きこえなかった。階段かいだんを上あがりきり、二に階かいの廊下ろうかに立たった母親ははおやは、斜ななめ前方ぜんぽうに娘むすめを見みた。自分じぶんの部屋へやの開ひらいたドアのかたわらに立たち、部屋へやのなかを熱心ねっしんに観察かんさつするように見みているホミのうしろ姿すがたを、母親ははおやは見みた。

「なにをしてるの?」

歩あゆみ寄よった母親ははおやは、ホミのかたわらに立たちどまり、なにげなくそうきいた。返事へんじをせずにじっと部屋へやのなかを見みている娘むすめの顔かおを、母親ははおやはのぞきこむように見みた。娘むすめが涙なみだぐんでいることに、母親ははおやはそのとき気きづいた。

「ホミちゃん」

心配しんぱいする気持きもちは、不可解ふかかいなことに対たいするなかば立腹りっぷくしたような驚おどろきに形かたちを変かえて、母親ははおやの声こえとなった。ホミは母親ははおやをふり仰あおいだ。

「どうしたの、ホミ」

怒おこったような表情ひょうじょうで驚おどろきだけを自分じぶんにむけて来くる母親ははおやの顔かおを見みつめて、ホミは目めに浮うかべていた涙なみだを頬ほおへ落おとした。

「ホミちゃん」

驚おどろきをさらに強つよめ、叫さけぶようにそう言いった母親ははおやに、ホミは優やさしく首くびを振ふってみせた。

「なんでもない」

「泣ないてるじゃないの」

「私わたくしはときどき泣ないている。いまは、そのときどきの、とき」

幼おさない娘むすめの謎なぞのような言いいかたに、母親ははおやは、

「どうしたの? なにかあったの?」

としか、きくことが出来できなかった。

ホミはふたたび首くびを振ふった。

「なにもなかった」

「泣ないてるじゃないの」

「なんでもない」

「部屋へやのなかになにかあるの?」

娘むすめの体からだを自分じぶんに引ひき寄よせながら、母親ははおやは部屋へやのドアにむけて一いち歩ほだけ近寄ちかよった。

「部屋へやのなかには、なにもないの」

ホミが言いった。

「どうして泣ないてるの?」

「悲かなしい」

「なぜ?」

「なぜでも」

「はっきり言いってちょうだい。ママに教おしえて。ママは心配しんぱいだから」

「部屋へやのなかにはなにもないの。でも、悲かなしい」

「なんのことだか、わからないわね」

「さっきまで、私わたくしは部屋へやにいたの。でも、いまはもう、いない」

「ここにいるでしょう」

「ここにいるのは、なぜ?」

「ホミちゃん」

「さっきまで私わたくしがいた部屋へやを見みてたら、悲かなしくなった」

「なんとなく、わかって来きたわ」

「私わたくしが部屋へやのなかにいたのが、ずっと昔むかしのように思おもえて来きて、もう二に度どと私わたくしはこの部屋へやに入いれないかと思おもったの」

「いつでも入いれるわよ。大丈夫だいじょうぶよ。なにも泣なくことはないのよ。元気げんきにしてなさい」

「私わたくしは元気げんき」

「なにか食たべましょうか」

「お腹なかは空あいてない」

「ママは買かい物ものにいくわ。いっしょに来きて」

「いってもいい」

「カーテンを選えらんでちょうだい。夏なつのカーテン。ホミのお部屋へやのも、取とり替かえましょう」

「いっしょにいく」

「したくしてちょうだい」

ホミは母親ははおやから離はなれた。廊下ろうかを階段かいだんまで歩あるいていき、階段かいだんを降おりていった。降ふりきって一いち階かいの間取まどりの奥おくのほうへ歩あるいていく彼女かのじょの気配けはいを確認かくにんしてから、母親ははおやは娘むすめの部屋へやに入はいった。入はいってすぐのところに立たちどまり、部屋へやのあちこちをなにごとかを確認かくにんする視線しせんで眺ながめた。

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