ホミの部屋の隣にクロゼットがあり、そのなかに彼女の服のすべてがあった。赤ちゃんの頃の服から現在にいたるまで、ほとんどすべての服やアクセサリー、そして持ち物などが、丁寧に保管してあった。ものを丁寧に取っておくのは、母親の信条的な方針だった。それを彼女は娘に教えた。
自分が五、六歳だった頃、あるいは七、八歳だった頃の服をクロゼットから出して来ては、ベッドに置いて眺めたり、手にとってさまざまに観察するのが、ホミにとっては大きな楽しみのひとつだ。
幼稚園の制服だったプリーツのあるスカートにジャケット、そして帽子や靴、靴下、鞄などをクロゼットから出して来てベッドにならべると、すべては玩具のようだった。冗談にしか見えないほどに、あらゆるものが小さく、そして可愛かった。その小ささや可愛さ、あるいは冗談のようなたたずまいを、ホミは飽きることなく感じ続けるのが好きだ。
その服を着て幼稚園に通っていた頃の自分が、途方もなく遠い存在として、きわめておぼろげに、たいそう淡く蘇るとき、ホミは現在という時間から完全に切り離されて幸せだった。
この小さな玩具のような服を、自分は本当に着たのだろうか。それは自分ではなく、誰か別の幼い子供だったのではないか。こんな小さな服を、いったいどうすれば着ることが出来るのだろう。本当に自分はかつてこの服を着たのだろうか。そのときの小さな自分は、いったいどこへ消えたのか。
いまのホミが思うことの出来る、ありとあらゆる不思議な思いが、彼女の頭のなかで渦を巻き始める。その渦をさらに複雑にさせ、加速をつけるために、彼女は写真アルバムを本棚から出して来る。幼稚園に通っていた頃の写真が貼ってあるページを開くと、何ページにもわたって、小さな制服を着たかつての自分を撮った写真が何枚も貼ってあるのを、ホミは見る。
見ているとやがて、自分が過去へ戻っていくのを、ホミは感じることが出来る。自分が幼稚園に通っていた頃という、まださほど遠くない過去がアルバムの写真のなかにあり、ホミはそこへ戻っていく。と同時に、過去はあくまでも遠いままに、過去であり続けてもいる。その過去からの遠いこちら側に、いまの自分はいるらしい。
過去から見たいまの自分の遠さを、ホミは堪能する。昨日でさえ、あるいはついさきほどですら、ホミにとっては常に遠すぎるほどに遠い。そしてその自分は、写真のなかでいつまでも小さなままでいる、どうやらかつての自分であるらしい女のこから、ものすごい速度で遠ざかりつつある。その速度に関して目眩のような感覚を覚えるとき、ホミは至福の状態のなかにいる。