十四歳の高村帆奈美は、学校の友人たちからは、ホミと呼ばれていた。ホナミと読む名を省略して。ホミだ。
夏休みに入る直前、彼女が通っている私立中学校では、生徒生活意識動態調査、という名の調査がおこなわれた。調査とは言っても、数枚の書式を生徒たちに配り、その書式に印刷してある妙に答えにくい質問項目に対して、生徒たち自身に回答を記入させただけだ。ホーム・ルームの時間を使って生徒たちに記入させたその書式を、先生が回収した。
数枚にわたっていたその書式のおしまいのほうに、『将来の希望』とだけ書かれた空白の欄があった。縦が五センチ、そして横が七センチほどのその長方形の空白のなかに、将来の自分に関してどのような希望を持っているか、生徒たちは書きこまなくてはいけなかった。
『将来の希望』というその空白のスペースに、高村帆奈美つまりホミは、「いなくなりたいです」と、まず2Bの鉛筆で書きこんだ。そしてしばらく考えてから、行を変えて次のように加えた。「とは言っても、死ぬということではありません」そしてさらにそのあとへ、おなじく行を変えて、ホミは次のとおり書いた。「私はこれまでずっと、自分の家にいました。そこが私にとっての自分の場所であり、いつも私はそこにいるのですが、そこに私はもういなくて、どこにいるのか誰にもわからないように、なってみたいのです」これで充分だとホミは思った。しかし、書式が回収される寸前、彼女はさらに一行だけ、次のとおりつけ加えた。「私は成長していきたいということです」この最後の一行は、ホミの本心というよりは、先生に対するエチケットと言ったほうが正確だった。