← Library‹ 少女時代 いなくなりたい 1

十じゅう四よん歳さいの高村こうむら帆奈美なみは、学校がっこうの友人ゆうじんたちからは、ホミと呼よばれていた。ホナミと読よむ名なを省略しょうりゃくして。ホミだ。

夏休なつやすみに入はいる直前ちょくぜん、彼女かのじょが通かよっている私立しりつ中ちゅう学校がっこうでは、生徒せいと生活せいかつ意識いしき動態どうたい調査ちょうさ、という名なの調査ちょうさがおこなわれた。調査ちょうさとは言いっても、数すう枚まいの書式しょしきを生徒せいとたちに配くばり、その書式しょしきに印刷いんさつしてある妙みょうに答こたえにくい質問しつもん項目こうもくに対たいして、生徒せいとたち自身じしんに回答かいとうを記入きにゅうさせただけだ。ホーム・ルームの時間じかんを使つかって生徒せいとたちに記入きにゅうさせたその書式しょしきを、先生せんせいが回収かいしゅうした。

数すう枚まいにわたっていたその書式しょしきのおしまいのほうに、『将来しょうらいの希望きぼう』とだけ書かかれた空白くうはくの欄らんがあった。縦たてが五ごセンチ、そして横よこが七ななセンチほどのその長ちょう方形ほうけいの空白くうはくのなかに、将来しょうらいの自分じぶんに関かんしてどのような希望きぼうを持もっているか、生徒せいとたちは書かきこまなくてはいけなかった。

『将来しょうらいの希望きぼう』というその空白くうはくのスペースに、高村こうむら帆奈美つまりホミは、「いなくなりたいです」と、まず2Bの鉛筆えんぴつで書かきこんだ。そしてしばらく考かんがえてから、行ぎょうを変かえて次つぎのように加くわえた。「とは言いっても、死しぬということではありません」そしてさらにそのあとへ、おなじく行ぎょうを変かえて、ホミは次つぎのとおり書かいた。「私わたくしはこれまでずっと、自分じぶんの家いえにいました。そこが私わたくしにとっての自分じぶんの場所ばしょであり、いつも私わたくしはそこにいるのですが、そこに私わたくしはもういなくて、どこにいるのか誰だれにもわからないように、なってみたいのです」これで充分じゅうぶんだとホミは思おもった。しかし、書式しょしきが回収かいしゅうされる寸前すんぜん、彼女かのじょはさらに一いち行ぎょうだけ、次つぎのとおりつけ加くわえた。「私わたくしは成長せいちょうしていきたいということです」この最後さいごの一行いっこうは、ホミの本心ほんしんというよりは、先生せんせいに対たいするエチケットと言いったほうが正確せいかくだった。

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