← Library‹ 夏と少年の短篇 which 以下のすべて 4

夕食ゆうしょくのテーブルに、祐子ゆうこと祐一ゆういちがさしむかいで椅子いすにすわっていた。両親りょうしんはそれぞれに用事ようじがあり、出でかけて留守るすだった。ふたりで作つくった夕食ゆうしょくを、彼かれらはふたりだけで食たべていた。

「風祭かざまつり先生せんせいのことを嫌きらってる人ひとが多おおいんだ」

祐一ゆういちが言いった。

「生徒せいとたちが?」

「そう」

「うーむ」

と祐子ゆうこは言いった。

「なぜだろう」

「一般いっぱん受うけは良よくないのね。本当ほんとうはとてもいい女性じょせいなのに、ぱっと見みたときの主観しゅかん的てきな印象いんしょうですべてをきめてしまう人ひとが多おおいから」

「ぱっと見みた印象いんしょうは、嫌いやな女おんななのかな」

「積極せっきょく的てきに反感はんかんを買かうわけではないけれど、冷つめたいとか気きどってるとか、あるいは、すましてるなどと思おもわれてしまうみたいよ。学生がくせいの頃ころからそうだったわね」

「美人びじんすぎるからかな」

「と言いうよりも、優やさしく見みえても芯しんはものすごく強烈きょうれつだから、それがどこかに出でるのね。最初さいしょから強つよい女おんなというものを、日本にっぽんの人ひとたちは好すきではないのよ」

「素敵すてきな人ひとだと思おもうけど」

「祐一ゆういちはそう思おもうのね」

「そう思おもう」

「そう思おもう祐一ゆういちは、すこし変かわってるのよ」

「あの女性じょせいを根拠こんきょもなく嫌きらうほうが、よっぽど変かわってる」

「彼女かのじょは損そんなタイプなのかなあ。私わたくしも心配しんぱいは心配しんぱいなんだけど」

「冷つめたくなんか見みえないのに」

「そうね。言葉ことばだって、ちっともきつくはないし」

「私わたくしたちとは距離きょりがありすぎる、と言いった女おんなのこがいた」

祐一ゆういちの言葉ことばに祐子ゆうこは笑わらった。

「距離きょりがあるのはあたりまえでしょう。田舎いなかの高校こうこう生せいがなにを言いうの」

「言いったのは僕ぼくではないよ」

「誰だれにしろ」

「僕ぼくがこんな話はなしをしたことを、風祭かざまつり先生せんせいに言いわないで」

「言いわないわよ」

「でも、お姉あねさんと友ともだちで良よかった」

「なぜ?」

「たとえば廊下ろうかですれちがうとき、生徒せいとと先生せんせいではなく、親友しんゆうの弟おとうととして、にこっとしてくれる。ものすごく素敵すてきな笑顔えがおだよ」

「きれいすぎる女性じょせいに、一般いっぱんの多おおくの人ひとたちは、意味いみもなく威嚇いかくを感かんじたりするのよ」

「お姉あねさんに伝言でんごんを頼たのまれるときなんか、うれしい」

「祐一ゆういちは百合ゆり絵えのどこが好すきなの?」

姉あねの質問しつもんに、祐一ゆういちは、

「全部ぜんぶが素晴すばらしい」

と即答そくとうした。

「私わたくしは?」

要求ようきゅうする口調くちょうで、祐子ゆうこが言いった。

「みんな素晴すばらしい」

「無理むりしないで」

「無理むりしてない。ごく自然しぜん」

「自然しぜんという言葉ことばで思おもい出だした。ああ、嫌いやだ、海うみなのよ」

顔かおをしかめて、祐子ゆうこは壁かべに掛かけてあるカレンダーを見みた。

「もうじきだ。嫌いやだ、嫌いやだ」

目めを閉とじた顔かおを、祐子ゆうこは片手かたてで覆おおった。

「なにが嫌いやなの?」

祐一ゆういちがきいた。

「海うみ」

祐子ゆうこが答こたえた。

「海うみがどうにかしたの?」

「臨海りんかい学校がっこうの引率いんそつ」

吐はき出だすように、祐子ゆうこが言いった。祐子ゆうこは中ちゅう学校がっこうの先生せんせいをしている。いまは夏休なつやすみだが、まもなく臨海りんかい学校がっこうの引率いんそつをしにいかなくてはならなかった。

「十とお日間かかんも。でも、いいんだ、そのうちの一いち週間しゅうかんは、百合ゆりが来きてくれるから」

「風祭かざまつり先生せんせい?」

祐子ゆうこはうなずいた。

「私わたくしたちが泊とまる旅館りょかんからすこし離はなれたところに、もうちょっとましな旅館りょかんがあって、そこに百合ゆりは泊とまるのよ」

「臨海りんかい学校がっこうを引率いんそつするの?」

「ちがう。私わたくしと過すごすため。こんなときではないと、ふたりともろくに時間じかんが取とれなくなったのよ。積つもる話はなしがたくさんあるわ」

「どこの海岸かいがん?」

祐一ゆういちの質問しつもんに、祐子ゆうこは壁かべのカレンダーを示しめした。

「みんなあそこに書かいてあるわよ。旅館りょかんの名前なまえからなにから」

カレンダーにむけて上体じょうたいをのばし、祐一ゆういちは書かきこみを見みた。体からだをもとに戻もどし、

「ぶらっと遊あそびにいくかもしれない」

と彼かれは言いった。

「来きなさい。私わたくしの先生せんせいぶりを、ちらっとだけなら、見みせてあげる」

そこであのTシャツを風祭かざまつり百合ゆり絵えに進呈しんていすればいいのだ、と祐一ゆういちは思おもった。

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