← Library‹ 妖怪博士 美少女

その部屋へやは客間きゃくまらしく、まんなかにテーブルがあって、そのまわりに、みょうなかっこうのイスがならんでいました。なんとなくうす暗ぐらい陰気いんきな部屋へやでしたが、すみずみが見みわけられぬほどではありません。

泰たい二に君くんは、忙いそがしく、そこを見みまわしましたが、予期よきに反はんして、さいぜんの老人ろうじんの姿すがたはどこにもありませんでした。そのかわりに、テーブルの足あしのところに、老人ろうじんなどよりは、もっともっとびっくりするようなものがころがっていたのです。

それはうす暗ぐらい部屋へやの中なかに、パッと一いち輪りんのバラの花はなが咲さいたように、美うつくしい色彩しきさいのものでした。ひとりの美うつくしい少女しょうじょなのです。目めもさめるばかり、はでやかな洋装ようそうをした、十じゅう六、七ろくしち歳さいの絵えのように美うつくしい少女しょうじょなのです。

しかし泰たい二に君くんは、そのおねえさまの美うつくしさにおどろいたのではありません。少女しょうじょのむごたらしいありさまにギョッとしたのです。少女しょうじょは洋服ようふくの上うえから、太ふといなわで、手足てあしをグルグル巻まきにしばられていました。口くちには白しろい布ぬので、さるぐつわさえはめてあるのです。

「あの悪者わるものの老人ろうじんが、おねえさまを、こんなひどいめにあわせたんだな。」泰たい二に君くんはそう思おもうと、もうじっとしてはいられませんでした。美うつくしい少女しょうじょがかわいそうでしかたがないのです。あのおいぼれじじいと一騎いっきうちの勝負しょうぶをしても、このおねえさまを救すくわないでおくものかと、少年しょうねんの胸むねには、勇いさましいいきどおりがこみあげてきました。

正面しょうめんのドアはひらいたままになって、その向むこうにズッと廊下ろうかがつづいているのですが、そこにも怪かい老人ろうじんの姿すがたは見みえません。きっと、たったひとりでおるす番ばんをしていた、この少女しょうじょをしばっておいて、何なんかをぬすむために、奥おくのほうへはいっていったのにちがいありません。

「よしッ、このまにおねえさまを助たすけてあげよう。そして、おねえさまにかぎをかりて、老人ろうじんを家いえの中なかへしめこんでしまって、おまわりさんを呼よびに行いくことにしよう。」

泰たい二に君くんはとっさに決心けっしんしますと、窓まどのふちに両手りょうてをかけ、学校がっこうで習ならった器械きかい体操たいそうの腕うでまえで、パッと身みをおどらせ、みごとに部屋へやの中なかへとびこんでしまいました。それから、急いそいで少女しょうじょのそばへかけより、ポケットからナイフを出だして、なわを切きり、

「しっかりしてください。ぼく助たすけに来きたんです。」と、少女しょうじょの安心あんしんするようにささやきながら、だんだん手足てあしのなわをといていきました。

ところがみょうなことには、なわがおおかたとけてしまっても、少女しょうじょは石いしのように身動みうごきさえしないのです。

気きをうしなっているのかしらと、肩かたへ手てをあてて、ソッとゆすり動うごかしてみました。

「しっかりしてください。きみ、しっかりしてください。」

でも、少女しょうじょは少すこしも動うごきません。いや、そればかりか、なんだか手てざわりがへんなのです。やわらかいはずの肩かたの肉にくが、コチコチとかたくてぶきみにつめたいのです。

泰たい二に君くんは、それに気きがつくと、思おもわずゾッとしました。このおねえさまは死しんでいるのかもしれない。そして本ほんで読よんだ死後しごの硬直こうちょく状態じょうたいになっているのかもしれない、と思おもったからです。

泰たい二に君くんは、どうしていいのかわからなくなりましたが、なわをといたのですから、さるぐつわもはずしてあげようと、顔かおの前まえにまわって、その白しろい布ぬのをとりさろうとしました。

そして、少女しょうじょの顔かおをつくづく見みますと、泰たい二に君くんはまたしても仰天ぎょうてんしてしまいました。ああ、なんということでしょう。あんなにも胸むねをドキドキさせて、助たすけてあげようと骨折ほねおったこの少女しょうじょが、人間にんげんではないことがわかったからです。それは、まるで生いきているようによくできた、ろう細工さいくの人形にんぎょうがしばられて、さるぐつわをはめられて、そこにころがっていたのです。

いったいだれが、なんのために、こんなみょうなことをしておいたのでしょう。さいぜんの怪かい老人ろうじんが、わざわざ人形にんぎょうをしばったりなんかするはずはありません。老人ろうじんがここへしのびこむ以前いぜんから、この人形にんぎょうはしばられていたのにちがいないのです。

ろう人形にんぎょうは、そこによこたわったまま、かわいらしいガラスの目めで、じっと、泰たい二に君くんを見みあげていました。ほんとうに生いきているように美うつくしい顔かおです。お友ともだちの桜井さくらい君くんのおねえさまにそっくりです。

泰たい二に君くんは、なんだかこわくなってきました。魔法まほうにでもかけられているような、おそろしい夢ゆめでもみているような、なんともいえないへんてこな気持きもちです。

あの怪かい老人ろうじんはどこへかくれてしまったのか、さっきから、もう十じゅう分ふんほどもたっているのに、もどってくるようすもありません。この古ふるめかしいうす暗ぐらい洋館ようかんの中なかに、たったひとりとりのこされたような、うすきみの悪わるいさびしさです。

泰たい二に君くんはしばらく、ものを考かんがえる力ちからがなくなってしまったように、ぼんやりとそこにたたずんでいましたが、ふと気きがつくと、いつのまにか、部屋へやの中なかがまっくらになっているではありませんか。

「おやッ。」と思おもって、ふりむいてみますと、今いましがたまでひらいたままになっていた、ただ一ひとつの窓まどがいつのまに、だれがしたのか、がんじょうな鉄てつのよろい戸どで、ぴったりとふさがれていることがわかりました。そのよろい戸どが外そとからの光線こうせんをさえぎって、こんなに暗くらくなったのです。泰たい二に君くんはびっくりして、そこにかけより、両手りょうてで力ちからいっぱいよろい戸どをひらこうとしましたが、おしても引ひいてもビクとも動うごきはしないのです。

ああ、なんというへんてこな建物たてものでしょう。外そとから見みただけでも、なんとなくうすきみが悪わるかったのですが、その部屋へやの中なかには、美うつくしい少女しょうじょの人形にんぎょうが、さも生いきた人間にんげんのようなかっこうでしばられていたり、人ひともいないのに、ひとりでに窓まどのよろい戸どがしまったり、まるで化ばけ物もの屋敷やしきではありませんか。

泰たい二に君くんは、とうとう、まっくらな部屋へやの中なかに、とじこめられてしまったのです。出口でぐちをさがそうとすれば、奥おくの廊下ろうかのほうへ出でてみるほかはありませんが、しかし、そちらには、あのきみの悪わるい老人ろうじんが、ニヤニヤ笑わらいながら待まちかまえているかもしれないのです。

泰たい二に君くんはとほうにくれてしまいました。といって、いつまでもこの暗くらい部屋へやに、人形にんぎょうとふたりきりでいるわけにはいきません。だいいち、こわくてたまらないのです。少女しょうじょの人形にんぎょうが、あまりよくできているものですから、暗くらやみの中なかで、ヒョッコリ立たちあがりそうな気きがして、もういたたまれないほどおそろしいのです。

そこで、怪かい老人ろうじんに出であうのはかくごして、とうとうその部屋へやから、廊下ろうかへ逃にげだしてしまいました。

ビクビクしながら、廊下ろうかを見みまわしましたが、そのへんに、あの老人ろうじんがかくれているようすもありません。家いえ中ちゅうがしいんと静しずまりかえって、ほんとうにあき家やのような感かんじです。

廊下ろうかはかぎの手てにまがっていて、そのところどころにドアがついているのですが、どのドアも中なかからかぎがかかっているとみえ、とっ手てをまわしてみてもあくようすもありません。みんなきみの悪わるい「あかずの部屋へや」ばかりです。泰たい二に君くんは今いまにも泣なきだしそうになるのを、やっとの思おもいでこらえながら、とうとう、廊下ろうかのいちばん奥おくにある部屋へやの前まえまでたどりつきました。

見みると、そのいちばん奥おくの部屋へやだけは、ドアが半分はんぶんほどあいているのです。「この中なかにだれかいるのかしら。」と思おもうと、また、みょうにこわくなってきます。ドアがしまっていればしまっているで、うすきみが悪わるいし、あいていればあいているで、やっぱりこわいのです。

でも、いまさらためらっているばあいではありません。泰たい二に君くんは下腹したはらにグッと力ちからを入いれて、勇気ゆうきをふるいおこしました。そして、そのあいたドアの中なかを、ヒョイとのぞきこんだのです。

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