← Library‹ 青銅の魔人 天空の怪物

小林こばやし少年しょうねんはふたりのチンピラ君くんといっしょに、手塚てづか家かの裏手うらての、いちばんさびしいばしょに陣じんどって、しんぼう強つよく待まっていました。塀へいのそばの、ちょっとした木きのしげみのかげに、むしろをしいて、寒さむいので、三さん人にんがだきあうようにして、暗くらやみの中なかを見みつめていました。

もう十じゅう時じをすぎていました。魔人まじんがやくそくをまもったとすれば、とっくに蔵くらの中なかへ姿すがたをあらわしたはずです。

「明智あけち先生せんせいはうまく魔人まじんをとらえてくださったかしら。もしつかまったとすれば、先生せんせいからあいずがあるわけだが、あいずがないところを見みると、魔人まじんはうまく逃にげたのかもしれない。それとも、あの手紙てがみはただのおどかしだったのかしら。」

小林こばやし君くんがそんなことを考かんがえていた時とき、十じゅうメートルばかりむこうの塀へいの前まえに、人間にんげんほどの大おおきさの黒くろい影かげが、フワッと浮うきだすようにあらわれました。

「アッ、あいつだッ。」

小林こばやし君くんは思おもわず両りょうがわにいるチンピラ君くんの肩かたを、つよくだきしめました。

月つきのないまっ暗くらな晩ばんでしたが、白しろいコンクリートの塀へいの前まえに、黒くろい姿すがたがあらわれたので、よく見みわけられたのです。その黒くろい影かげはじつにへんなかっこうをしていました。黒くろいダブダブのオーバーを着きて、そのえりを立たて、あごをかくし、ソフト帽ぼうのひさしをグッと目めのへんまでさげています。ふつうの人間にんげんなら、帽子ぼうしの下したの顔かおのところが、ボンヤリ白しろく見みえるはずですが、この男おとこの顔かおはなんだかおそろしくドス黒ぐろいのです。

そればかりではありません。そいつがむこうのほうへ歩あるきだしたかっこう! まるで機械きかいのような、あのぎごちない歩あるきかた。そのうえ、耳みみをすますと、アア、やっぱりそうです。話はなしにきいていた歯はぎしりのようなギリギリという音おとが、きこえてくるではありませんか。

小林こばやし君くんはふたりのチンピラ君くんにあいずをして、立たちあがりました。そして、相手あいてにさとられぬように気きをつけながら、怪物かいぶつのあとをつけはじめたのです。チンピラ君くんたちも、すばやく小林こばやし少年しょうねんの気持きもちをさっし、グッと背せをかがめて、用心ようじんぶかくあとからついて来きます。

すこし行いくと、焼やけあとの広ひろい原はらっぱに出でました。こわれたコンクリート塀へいがところどころにのこっていたり、煉瓦れんがのかたまりが、うす高たかくつんであったりするほかは何なんもないさびしい所ところです。はるかむこうのほうに、工場こうじょうのあとにのこったコンクリートの煙突えんとつだけが、空そら高たかくそびえているのがかすかにみえています。

怪物かいぶつは尾行びこうされているとも知しらず、コックリコックリと、へんなかっこうで、大おおまたに歩あるいて行いきます。ときどき歯車はぐるまの音おとがびっくりするほど強つよくなるかと思おもうと、またまるできこえないほど、弱よわくなることもあります。強つよくなる時ときには、怪物かいぶつが何なんか腹はらだたしいことを思おもいだして、おこっているのかもしれません。

小林こばやし君くんたちは、今いまにも怪物かいぶつがうしろを向むいて、ガーッと歯車はぐるまの音おとを立たてて、追おっかけてくるのではないかと、ビクビクものでしたが、さいわい魔人まじんは一いち度どもうしろを見みないで、まっすぐに進すすんで行いきました。むこうの空そらにそびえている煙突えんとつが、だんだん大おおきくなって来きます。つまり怪物かいぶつはその煙突えんとつのほうへグングン近ちかづいて行いくのです。

そして、とうとう煙突えんとつの根ねもとまで来きてしまいました。そこにはもとボイラーがすえつけてあったらしい煉瓦れんがづくりの小屋こやのようなものがのこっています。屋根やねはなく、四方しほうのかべも半分はんぶんはこわれているのですが、それでもまあ小屋こやのかっこうにはなっているのです。怪物かいぶつはその煉瓦れんが小屋こやの中なかへはいって行いきました。

「オヤ、へんだぞ。もしかしたら、あの中なかに地下ちか室しつでもあるのじゃないかしら。そして、そこが魔人まじんのかくれがになっているんじゃないかしら。」

小林こばやし君くんは遠とおくのほうから、オズオズと小屋こやの中なかをのぞいて見みました。暗くらくてよく見みえないけれど、怪物かいぶつは地下ちかに姿すがたを消けすこともなく、小屋こやの奥おくの石いしの段だんのようなものの上うえに腰こしかけて、じっと休やすんでいます。しばらく見みていても、急きゅうに動うごきだすようすがありません。

小林こばやし君くんは「今いまだ。」と思おもいました。このまに手塚てづか家かへとってかえして、明智あけち先生せんせいに話はなし、まわりから警官けいかん隊たいでとりまいてもらえば、怪物かいぶつは袋ふくろのネズミだと考かんがえたのです。そこで、ふたりのチンピラ君くんに、げんじゅうに見みはりをすること、もし怪物かいぶつがあるきだしたら、どこまでもあとをつけるようにと、ソッとささやいておいて、やみの中なかを、大おおいそぎで手塚てづか家かへひきかえしました。

十分じゅうぶん、二十にじゅう分ふん、チンピラ君くんたちはビクビクしながら、見みはりをつづけていましたが、どうしたものか、怪物かいぶつはもとのところに腰こしかけたまま身みうごきもしません。いったいこの機械きかい人間にんげんは何なんを考かんがえているのでしょう。

まもなく、あたりのやみの中なかに、あちらにもこちらにも、物もののうごめくけはいが感かんじられました。黒くろいかげぼうしが、四方しほうから近ちかづいてくるのです。

「オイ、お巡まわりさんが大おおぜい来きたんだよ。それから、きみたちのなかまも、みんなひっぱって来きたよ。」

チンピラ君くんの耳みみもとで、小林こばやし少年しょうねんのささやき声ごえがしました。すると、小林こばやし君くんのからだのうしろから、兄弟きょうだいぶんのチンピラ君くんの顔かおが、ヒョイとのぞいて、コックリとうなずいて見みせるのです。

そのうちに、警官けいかん隊たいは煉瓦れんが小屋こやを完全かんぜんにとりまいてしまったらしく、とつぜん、ビリリリリと呼子よびこがなりひびき、大型おおがた懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりが、いくすじも、煉瓦れんが小屋こやの中なかに集中しゅうちゅうされ、いきなりパン、パンとピストルの音おとがつづきました。

警官けいかん隊たいは怪物かいぶつをうち殺ころしてはいけないという命令めいれいをうけていたので、わざとまとをはずしてうっているのです。

青銅せいどうの魔人まじんはかさなりあう懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりのなかに、スックと立たちあがりました。そして、かれのからだの中なかから、キーッ、キーッという金属きんぞくをこすりあわせるようなおそろしい音おとがひびきました。怪物かいぶつは人間にんげんのことばではなく、機械きかいのことばで何なんかわめき叫さけんでいるのです。青銅せいどうの口くちがパクパク動うごき、ほら穴あなのような両眼りょうめのなかから、ギラギラと、あやしい光ひかりがかがやいています。そして、かれの銅像どうぞうのような巨体きょたいが、ガクリ、ガクリとこちらへ近ちかづいて来くるではありませんか。

警官けいかん隊たいはあまりのおそろしさに「ワーッ」と声こえをあげてあとじさりしましたが、おどかしのピストルは、いっそうはげしくうちつづけられます。

怪物かいぶつは煉瓦れんが小屋こやのそとに出でて、つっ立たったまま、あたりを見みまわしていましたが、四方しかた八方はっぽうから懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりがそそがれ、それにもましてはげしいピストルの音おとに、とても、逃にげられないと考かんがえたのか、いきなりそこの煙突えんとつの根ねもとに近ちかづき、コンクリートの表面ひょうめんにうちつけてある梯子はしごがわりの金物かなものに、手足てあしをかけて、グングン煙突えんとつをのぼりはじめました。

空そらへ逃にげようとでもいうのでしょうか。しかし、いくら煙突えんとつをのぼってみても、まわりをとりかこまれていては、逃にげられるはずがありません。ひょっとしたら、怪物かいぶつは煙突えんとつの頂上ちょうじょうまでのぼると、風船ふうせんのように身みが軽かるくなって、やみ夜よの空そら高たかく飛とびさってしまうのではないでしょうか。

お湯屋ゆやの煙突えんとつなどよりもずっと高たかい煙突えんとつです。怪物かいぶつはそれを機械きかいでできたサルのように、すこしも休やすまず、非常ひじょうな早はやさでのぼって行いき、もう懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりもとどかなくなってしまいました。しかし、やみ夜よにもほの白しろくそびえている煙突えんとつを、黒くろい影かげがグングンのぼって行いくのが見みえます。

黒くろい影かげは上うえに行いくほど小ちいさくなって、とうとう大だい煙突えんとつの頂いただきにたどりつきました。そして、そのはるかの天空てんくうから、あの金属きんぞくをすりあわせるような、キーッ、キーッという、いやな物音ものおとが、下界げかいの人々ひとびとをあざ笑わらうように、気味きみわるくひびいて来くるのでした。

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