← Library‹ 青銅の魔人 ゴム人形

「中村なかむら君くん、青銅せいどうの魔人まじんの正体しょうたいはこれだよ。」

明智あけちがニコニコしながらいいました。

中村なかむら警部けいぶたちは、あまりのことに、夢ゆめでも見みているのではないかと、きゅうには返事へんじもできません。

「ハハハヽヽヽヽ、おどろいたかい。ごらんのとおり、こいつは厚あついゴムでできた、ゴム人形にんぎょうなんだよ。両足りょうあしのうらに大おおきな穴あながあって、それがとめ金がねでおさえてある。ぼくは今いま、そのとめ金がねをはずしたんだよ。パチンと音おとがしたのが、それだ。足あしのうらの二ふたつの大穴おおあなからいっぺんに空気くうきがぬけるので、たちまちペチャンコになってしまったのさ。」

アア、なんという、とほうもないことでしょう。あのおそろしい青銅せいどうの魔人まじんが、ゴム風船ふうせんのような人形にんぎょうだったなんて、まるで信しんじられないことです。たましいのないゴム人形にんぎょうが、物ものを盗ぬすんだり、かけだしたり、できるわけがありません。中村なかむら警部けいぶはあっけにとられて目めをパチクリするばかりでした。

「こいつを、もとの魔人まじんにするのも、わけはないのだよ。ちょっとやって見みるからね。」

明智あけちはそういって、幕まくのうしろへはいって行いきましたが、すぐに一いち本ほんのガス管かんのような長ながいくだのさきを持もって、出でて来きました。

「このくだは、かべのうしろのエア・コンプレッサーにつづいているんだよ。ボタンをおすと、その機械きかいがうごいて、おそろしいいきおいで、このくだから空気くうきがふきだすのだ。自動じどう車しゃのタイヤに空気くうきを入いれる、あのエア・コンプレッサーと同おなじしかけなのさ。」

明智あけちはペチャンコになったゴムのかたまりを、あちこちとさがして、空気くうきを入いれる小ちいさな穴あなを見みつけだすと、そこへくだのさきのネジを、はめこみました。すると、シューッと音おとがして、ぞうきんのかたまりみたいに見みえていたゴム人形にんぎょうが、ムクムクと動うごき、すこしずつ、すこしずつふくれてきたではありませんか。

「足あしのうらのとめ金がねをはめて、しばらくこうしていれば、もとの青銅せいどうの魔人まじんになるんだが、そこまでやらなくてもいいだろう。ただ、ゴム人形にんぎょうのしかけさえ、わかればいいのだからね。」

とめ金がねをはめなくても、空気くうきのいきおいが強つよいものですから、見みるみるふくれあがって、青黒あおぐろい大おおきな海亀うみがめがはっているような形かたちになりました。首くびのほうにも空気くうきがはいって、あのぶきみな魔人まじんの顔かおが、半分はんぶんぐらいの大おおきさで、しわだらけで、ビクンビクンと動うごいています。

「アア、わかった。かえだまだね。そいつはほんとうの魔人まじんではなくて、魔人まじんのかえだまなんだね。」

中村なかむら警部けいぶはやっとそこへ気きがつきました。

「そうだよ。ゴム人形にんぎょうは自分じぶんで動うごけないからね。魔人まじんのるすのあいだ、この幕まくのうしろに立たっていて、代理だいりをつとめるというわけさ。それには人間にんげんの助手じょしゅがいなくちゃどうにもならない。幕まくをちょっとひらいて、魔人まじんの姿すがたを見みせるのにも、例れいの歯車はぐるまの音おとをさせるのにも、人手ひとでがいり用ようだ。それにはね、魔人まじんのけらいで、道化どうけ師しのふうをした、へんなやつがここにいるんだよ。」

明智あけちはそこで、ふとことばをきって、ツカツカと中村なかむら警部けいぶのそばによると、耳みみに口くちをつけて、なにかボソボソとささやきました。すると、中村なかむら警部けいぶは入口いりぐちに立たちはだかっていた刑事けいじを、手てまねきして、なにかまたささやきます。

明智あけちはつぎに手塚てづかさんのほうへ近ちかづこうとして、びっくりしたように、立たちどまりました。

「オヤ、手塚てづかさん、顔色かおいろがよくないですね。気分きぶんがわるいのですか。」

手塚てづかさんは、魔人まじんにしばられた手足てあしの縄なわを、警部けいぶたちにといてもらっていましたが、ひどくつかれているようすで、もとの場所ばしょにグッタリと、うずくまったまま、青あおざめた顔かおをしていました。

「イヤ、なんでもありません。だいじょうぶです。」

歯はをくいしばるようにして、ひくい声こえでこたえるのです。

「中村なかむら君くん、手塚てづかさんのそばについていてあげてくれたまえ。ひどく気分きぶんがわるいようだったら、ひとまずここを出でてもいいのだが……。」

中村なかむら警部けいぶと刑事けいじとは、手塚てづかさんの両りょうがわに、すりよって、手塚てづかさんを、だきかかえんばかりにして、気きをくばっています。

「イヤ、それほどでもありません。それよりも、昌一しょういちと雪子ゆきこのことが心配しんぱいです。ふたりはどうしたのでしょう。どこにいるのでしょう。」

手塚てづかさんは、ふたりの愛児あいじをほうっておいて、魔人まじんのすみかを立たちさる気きには、なれないようすです。

アア、昌一しょういち君くん、雪子ゆきこちゃん、それから、われらの小林こばやし少年しょうねん、あの三さん人にんは、いったいどうしたのでしょう。古ふる井戸いどの底そこで水みずぜめになり、今いまにもおぼれようとしていたのですが、うまく助たすかることができたのでしょうか。

「ご安心あんしんなさい。昌一しょういち君くんも雪子ゆきこちゃんもぶじです。今いまにあわせてあげますよ。」

明智あけちは手塚てづかさんを、やさしくなぐさめました。やっぱり三さん人にんは助たすけられていたのです。それにしても、だれが、どうして助たすけたのでしょう。

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