← Library‹ 青銅の魔人 あばかれたトリック

明智あけち探偵たんていの話はなしはつづきます。

「しばらくして、それに気きづいたぼくは、おどろいて現場げんばへとんで行いって、スイッチをおして、モーターを動うごかし、水みずをすいあげさせて、三さん人にんを助たすけた。この寒さむいのに、頭あたまから水みずびたしになっていたので、魔人まじんのよろいをぬがせて、からだをふきとり、三さん人にんをすいじ場ばの電気でんきストーブのところへつれて行いって、あたためてやったものだ。ぼくは魔人まじんのよろいをぬがせる鍵かぎも、その時ときはもう、ちゃんと手てに入いれていたのだよ。

そして、三さん人にんの子供こどもにまたもとの魔人まじんのよろいを着きせておいたんだが、中村なかむら君くん、なぜだかわかるかね。なにも、あんなよろいなんか着きせなくても、三さん人にんがここへつれられて来きた時ときの服ふくは、ちゃんととってあるんだから、それを着きせればいいわけだがね。ぼくはわざとよろいのほうを着きせた。そのわけは今いまにわかるよ。」

明智あけちはそこで、意味いみありげにニヤリと笑わらいました。なにかしら、明智あけちのほかにはだれも知しらない秘密ひみつがあるのでしょう。

「その二ふた日かのあいだに、ぼくは魔人まじんのトリックをすっかり見みやぶってしまった。ぼくたちは今いままで、青銅せいどうの魔人まじんというのは、一ひとつのきまった形かたちをしていると思おもいこんでいた。ここに大おおきなまちがいがあったのだよ。どこへあらわれる魔人まじんも、みな同おなじ姿すがたをしていたが、そのじつは、三さん種類しゅるいの魔人まじんがあって、ばあいによって、そのうちのどれか一ひとつが姿すがたをあらわしていたのだ。そこに、あいつのじつに悪わるがしこいトリックがあったのだ。

第だい一いち種しゅの魔人まじんは、今いまぼくが着きているこのよろいの姿すがただ。中なかに人間にんげんがはいっているのだから、自由じゆうに動うごける。よつんばいになって、かけだすことだってできる。よつんばいになったからといって早はやく走はしれるわけではないのだが、魔人まじんのやつは、あんな走はしりかたをして、さも機械きかいじかけのように見みせかけたのだよ。

第だい二に種しゅの魔人まじんは、このあいだ煙突えんとつの上うえからホースの水みずでおとされたやつだ。こいつは腹はらの中なかまで機械きかいばかりでできていて、ピストルでうたれてもへいきなんだよ。だから、相手あいてが近づけちかずけないような場所ばしょには、こいつをあらわして、わざとピストルにうたれ、ビクともしないところを見みせつけるというわけだ。

この魔人まじんはにせものだから、自分じぶんでは歩あるけない。ほんものの魔人まじんが夜よるにまぎれて、ある場所ばしょへ持もって来きたり、また持もちさったりするのだ。このあいだの煙突えんとつの時ときなども、煙突えんとつのてっぺんにあがるまでは、ほんものの魔人まじんで、それからあとは、にせものと、とりかえたのだな。

どうしてとりかえたかというのかい。それはね、あの時ときは、逃にげるさきは煙突えんとつのてっぺんと、ちゃんときまっていたのだ。そこで、前まえもって、あの腹はらの中なかが歯車はぐるまばかりでできている、かえだまを煙突えんとつのてっぺんの内うちがわにつるしておいて、ほんものの魔人まじんは、そのかえだまを煙突えんとつの上うえに腰こしかけさせ、自分じぶんは、これも前まえもって、煙突えんとつの内うちがわにかけておいた長ながい縄なわばしごをつたって、下したまでおり、そこで魔人まじんのよろいを手てばやくぬいで、ふつうの人間にんげんの姿すがたになり、あのさわぎにまぎれて、逃にげさったのだ。むろん、よろいと縄なわばしごは、ふろしきにつつんで持もって行いった。現場げんばに証拠しょうこをのこすようなヘマはしない。

つぎに第だい三さん種しゅの魔人まじんは、さっき空気くうきをぬいて見みせたゴム人形にんぎょうだよ。こいつが煙けむりのように消きえうせる役目やくめをつとめていたのだ。手塚てづかさんのうちの湯殿ゆどのと、納戸なんどと、蔵くらの中なかと、それから、ゆうべは、手塚てづかさんの寝室しんしつにあらわれた、あの魔人まじんはみんなゴム人形にんぎょうだったのさ。

手塚てづかさんのうちのどこかに、エア・コンプレッサーがかくしてある。そこからくだをひっぱって、ゴム人形にんぎょうに空気くうきを入いれて、うす暗ぐらいところに立たたせておく。だれかがそれを見みつけて逃にげだしたすきに、人形にんぎょうの両足りょうあしのとめ金がねをはずして、いっぺんに空気くうきをぬいてしまう。両足りょうあしの底そこが全部ぜんぶひらくようになっているんだから、アッと思おもうまにペチャンコになってしまう。一いち度ど逃にげだした人ひとが、みんなといっしょに、ひきかえして来きた時ときには、もう人形にんぎょうは影かげも形かたちもなくなっている。というわけなんだな。

ギリギリというあの音おとをだす機械きかいは置おけ時計とけいぐらいの大おおきさだから、どこにでもかくせる。そのネジをまいておけば、あのいやな音おとがするのだよ。

そうしてペチャンコになったゴム人形にんぎょうは、小ちいさくたたんで、どこかへかくしてしまうのだが、湯殿ゆどののときには一時いちじ桶おけの中なかにつめて、ふせておいたのかもしれない。納戸なんどのときは、たぶん、たんすのひきだしの中なかへ入いれたのだろう。蔵くらの中なかでは、電球でんきゅうがわれて、まっくらになったすきに、着物きもののはいっている大おおきな箱はこの底そこへかくしたのだ。

あの時ときは、みんなで蔵くらの中なかを念入ねんいりにしらべたけれども、銅像どうぞうみたいな大おおきなやつをさがしたのだから、それが着物きもののように小ちいさくたたまれて、箱はこの底そこにかくされているなんて、思おもいもよらないことだった。それから、ゆうべの、手塚てづかさんの寝室しんしつでは、あすこにある洋ようだんすのひきだしの中なかか、あるいはベッドのシーツの下したか……。」

「明智あけち君くん、ちょっと。それじゃあ、あれはどう説明せつめいすればいいんだい? 魔人まじんのやつは町まちを走はしっていて、ふいに消きえてしまうことが、たびたびあったが、ゴム人形にんぎょうは走はしれないじゃないか。」

中村なかむら警部けいぶが明智あけちのことばの切きれるのをまちかねて、たずねます。

「ウン、それにはまた、別べつのトリックがあるんだ。魔人まじんのやつはね、私設しせつマンホールをほうぼうにこしらえていたんだ。エ、わかるかい。なかなか味あじな思おもいつきだよ。下水げすいのマンホールね、あれはどこの町まちにもあるが、だれでもその上うえを歩あるいていて、さてマンホールがどこにあるかと聞きかれても、ちょっと思おもいだせないものだ。毎日まいにちかよっている学校がっこうの階段かいだんの段だんのかずがいくつあるか、だれも知しらないのと同おなじわけだよ。

つまり、人間にんげんの注意ちゅうい力りょくのすきまだね。このすきまにつけこんで、魔人まじんのやつは、何なんか仕事しごとをしてから、逃にげだそうと思おもう方角ほうがくへ、夜中よなかに、たこつぼのような穴あなをほり、その上うえにマンホールのふたをかぶせて、ちゃんと用意よういしておくのだ。銀座ぎんざの白宝はくほう堂どうから時計とけいを盗ぬすみだしたときも、ガードのそばで消きえてしまったが、あの人通ひとどおりのすくない場所ばしょに、にせのマンホールがつくってあったのだよ。魔人まじんのやつは、その中なかへとびこんで、中なかから鉄てつのふたをしめて、じっと息いきを殺ころしていたのだ。

小林こばやしにきいてみるとね、例れいの煙突えんとつさわぎの時とき、小林こばやしはうしろから大おおきなふろしきのようなものをかぶせられ、アッと思おもうまに、地ちの下したへおちこんで行いくような気きがしたといっているが、これもあの現場げんばににせのマンホールがつくってあったのだ。小林こばやしは一時いちじその中なかへほうりこまれたのだよ。」

「フーム。そんな手てだったか。」

中村なかむら警部けいぶは腕うでをくんで、考かんがえこんでしまいました。そんな子供こどもだましのトリックに、ごまかされていたのかと思おもうと、残念ざんねんでしかたがありません。

「それにしても、青銅せいどうのよろいや、ゴム人形にんぎょうなどを、いく組くみもつくるのは、これも、よういなことじゃないが……。」

警部けいぶが、ふしんをうつと、明智あけちは、こともなげに答こたえます。

「やつは、秘密ひみつの小しょう工場こうじょうを持もっているんだ。その場所ばしょもわかっているから、いずれ、おさえてしまうつもりだがね。そこで、二に年ねんもかかって、製造せいぞうしたものだよ。」

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%