← Library‹ 青銅の魔人 明智小五郎と小林少年

青銅せいどうで作つくったロボットのような、おそろしい怪物かいぶつが、昌一しょういち少年しょうねんをおびやかした翌日よくじつの午前ごぜんのことです。

千代田ちよだ区くの明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの書斎しょさいで、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうと助手じょしゅの小林こばやし少年しょうねんが話はなしあっていました。

ひろい洋風ようふう書斎しょさいの四方しほうのかべは、天井てんじょうの近ちかくまで本棚ほんだなになっていて、金きん文字もじの本ほんがぎっしりつまっています。部屋へやのまん中なかには、畳たたみ一いち枚まい分ぶんもあるような大おおきなデスクがすえられ、もたれに彫刻ちょうこくのある古風こふうなイスがデスクをはさんで向むかいあっておいてあります。

明智あけち小五郎こごろうは、そのイスに腰こしかけ、デスクに頬ほおづえをついて、一方いっぽうの手てで例れいのモジャモジャの髪かみの毛けをもてあそんでいます。

リンゴのような頬ほおをした小林こばやし少年しょうねんは、名めい探偵たんていと向むかいあって腰こしかけ、ひどく熱心ねっしんな調子ちょうしで話はなしかけているのです。

「先生せんせい、少年しょうねん探偵たんてい団だんの連中れんちゅうが、ぼくにやかましくいってくるんです。なぜ先生せんせいは何なんもしないで、だまっていらっしゃるのかってぼくをせめるんですよ。」

「少年しょうねん探偵たんてい団だん」という本ほんを読よまれた読者どくしゃはおぼえているでしょう。小林こばやし君くんは小学しょうがく上級じょうきゅう生せいや中学ちゅうがく生せいで作つくった少年しょうねん探偵たんてい団だんの団長だんちょうなのです。

「そんなにさわがなくても、今いまにぼくの所ところへ依頼いらい者しゃがやってくるよ。青銅せいどうの魔人まじんといわれているやつは、機械きかいだか人間にんげんだか、えたいの知しれない怪物かいぶつだ。敵てきにとってふそくはないね。小林こばやし君くん、久ひさしぶりで大おおいに腕うでをふるうんだね。」

明智あけち探偵たんていは、愛用あいようのパイプをくわえると、ゆっくり紫色むらさきいろの煙けむりをはきだしながら、若々わかわかしい顔かおをニッコリほころばせました。

「先生せんせい、あいつは機械きかいじかけで動うごく青銅せいどうの人形にんぎょうでしょうか。ピストルでうたれても平気へいきだっていいますね。でも、その機械きかいじかけの人形にんぎょうが、煙けむりのように消きえてしまうのはなぜでしょう。ぼくにはそれがどうしてもわからないんです。」

「それにはいろいろ考かんがえかたがあるんだがね。いずれにしても幽霊ゆうれいではないし、また火星かせいの人類じんるいというようなものではないことはたしかだ。人間にんげんだよ。非常ひじょうに悪わるがしこいやつが、とんでもないことを考かんがえだしたんだ。その悪あく知恵ぢえに勝かてばいいんだ。知恵ちえの戦たたかいだよ。」

「そうですね。でも、この戦たたかいに勝かつためには、まず、あいつの秘密ひみつを見みやぶらなくちゃなりませんね。」

小林こばやし君くんはリンゴのような頬ほおをいっそう赤あかくして、意気いきごんでいうのでした。

「そうだよ。それにはね、見みててごらん、今いまに依頼いらい者しゃがやってくるよ。青銅せいどうの魔人まじんもこんなに有名ゆうめいになっては、だんだん仕事しごとがしにくくなる。そこで、あいつはきっと、どろぼうの予告よこくをはじめる。ああいう悪わるがしこいやつになると、ふつうの考かんがえの逆ぎゃくをやるものだよ。そうすれば予告よこくをうけた人ひとは、かならずぼくのところへ相談そうだんにくる。なんだかきょうあたりは、その依頼いらい者しゃがやって来きそうな気きがするね。」

明智あけち探偵たんていはそういって、じっと空間くうかんを見みつめていましたが、とつぜん、いたずらっぽい顔かおになって、小林こばやし君くんに笑わらいかけました。

「ホラ、表ひょうのベルが鳴なったね。きっとこの事件じけんの依頼いらい者しゃだよ。」

それを聞きくと、小林こばやし少年しょうねんはいきおいこんでイスを立たちあがり、玄関げんかんのほうへかけだして行いきましたが、まもなく、はりきった顔かおつきでもどって来きました。

「先生せんせい、やっぱりそうでした。少年しょうねん探偵たんてい団だんの篠崎しのざき君くんのお友ともだちですって、それで篠崎しのざき君くんから聞きいてきたんだといって、手塚てづか昌一しょういち君くんという小学しょうがく生せいと、そのおとうさんです。応接おうせつ間かんのほうへ通とおしておきました。」

明智あけち探偵たんていと小林こばやし君くんが応接おうせつ間あいだへはいって行いきますと、四十よんじゅう歳さい余あまりのりっぱな紳士しんしと、学生がくせい服ふくのかわいらしい少年しょうねんがイスから立たちあがってあいさつしました。ひととおりあいさつがすんだあとで、手塚てづか君くんのおとうさんは、小林こばやし少年しょうねんのリンゴのような頬ほおをながめながら、

「このかたが小林こばやしさんですか。篠崎しのざき君くんからいろいろあんたの手てがら話はなしを聞ききましたよ。うちの昌一しょういちとは二ふたつ三みつしか年としがちがわないようだが、そんな小ちいさいなりをして、えらいものですなあ。」

とほめあげるのでした。昌一しょういち君くんも、尊敬そんけいのまなざしで小林こばやし少年しょうねんを見みつめています。小林こばやし君くんの頬ほおはまたしてもいっそう赤あかくなりました。

みんながイスにかけると、昌一しょういち君くんのおとうさんは、「皇帝こうていの夜光やこうの時計とけい」という、非常ひじょうにたいせつな家宝かほうを持もっていること、青銅せいどうの魔人まじんがそれをねらって今晩こんばんやってくるらしいことを話はなし、きのうの夕方ゆうがた庭にわの木立こだちの中なかで、魔人まじんが昌一しょういち君くんの前まえに残のこして行いった紙かみきれをテーブルの上うえにひろげました。

「フーン、これは気味きみのわるい字じですね。」

明智あけち探偵たんていが紙かみきれを手てにとって、つぶやきます。

「そうでしょう。まるできちがいが書かいたようなうす気味きみのわるい字じです。ちょっと見みたのでは字じだか絵えだかわかりませんね。しかし、よく見みていると、カタカナらしいことがわかって来きます。」

「アスノバン十じゅうジですかね。それからヤコウノトケイですね。」

「あすの晩ばん十じゅう時じと書かいてあるだけで、よくわかりませんが、あの時計とけいきちがいのような魔人まじんのことですから、むろん、十じゅう時じに時計とけいを取とりに行いくぞという意味いみでしょう。そのほかに考かんがえかたがありません。」

「あすの晩ばんというのは、つまり今夜こんやのことですね。それで、警察けいさつにはおとどけになりましたか。」

「ゆうべとどけました。警視けいし庁ちょうの捜査そうさ課かの中村なかむら係かかり長ちょうとはちょっと知しりあいだものですから、お会あいしてお願ねがいしたのですが、その時とき先生せんせいのことを申もうしましたところが、中村なかむら係かかり長ちょうも、明智あけちさんなら立たちあっていただいてもさしつかえないといっておられました。」

「そうでしょう。中村なかむら君くんとはずっと懇意こんいにしていますからね。ところで手塚てづかさん、その問題もんだいの夜光やこうの時計とけいは、どこに置おいてあるのですか。」

「コンクリートの蔵くらの中なかの金庫きんこの中なかです。」

「ホウ、厳重げんじゅうな場所ばしょですね。」

「あれを盗ぬすむためには、コンクリートの蔵くらのかべを破やぶって、それからまた、金庫きんこを破やぶらなければなりません。いくら魔人まじんだって、そうやすやす盗ぬすみだせるものではありません。夜光やこうの時計とけいをどこか銀行ぎんこうの地下ちか金庫きんこへでもあずけようかと考かんがえましたが、持もって行いく道みちがあぶないと思おもいましてね、やっぱり元もとの場所ばしょへおくことにして、そのかわりに、ゆうべから十じゅう人にんに近ちかいお巡まわりさんが、蔵くらのまわりや庭にわの要所ようしょ要所ようしょに見みはり番ばんをしていてくださるのです。あたりまえの賊ぞくなれば、こんな大おおさわぎをするにもおよばないのですが、なにしろ相手あいてが魔物まもののことですから、警察けいさつでも特別とくべつにはからってくださったわけです。」

「わかりました。それでは小林こばやし君くんをつれてお宅たくへうかがうことにしましょう。二三にさん用意よういしておきたいこともありますし、いくら魔物まものでも明あかるいうちにやって来くることはないでしょうから、きょう日ひがくれてからおじゃまします。」

明智あけち探偵たんていの承諾しょうだくを得えたので、手塚てづかさんと昌一しょういち君くんとは喜よろこんで帰かえって行いきました。

それを見送みおくったあとで、小林こばやし少年しょうねんは何なにごとか明智あけち探偵たんていにささやいて、いそがしくどこかへ出でかけて行いき、明智あけち探偵たんていは電話でんわ機きの前まえに腰こしかけると、しきりにダイヤルを回まわしはじめました。

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