← Library‹ 虎の牙 少年尾行隊

それから、いよいよ怪かい屋やの中なかを捜索そうさくして、二十にじゅう面相めんそうをさがしだすことになり、明智あけち探偵たんていと警部けいぶ補ほと、警官けいかんたちの一隊いったいは、怪かい屋やの正面しょうめんにやってきました。

正面しょうめんの入いり口ぐちの石段いしだんの両方りょうほうに、ふたりの警官けいかんが見みはりをつとめています。

「べつに、かわったことはなかったかね。」

警部けいぶ補ほがたずねますと、ひとりが答こたえました。

「ハア、あやしいやつは通とおりませんでした。」

「ここから出入でいりしたものは、ひとりもなかっただろうね。」

「ずっとまえに、明智あけちさんの少年しょうねん助手じょしゅと、四よん人にんの子こどもが出でて行いきました。それから、ついいましがた、明智あけちさんがひとりで出でて行いかれました。」

「えッ、明智あけちさんが? 明智あけちさんはここにいらっしゃるが、この明智あけちさんが、ここから出でて行いかれたのかね。」

「ハア、そうです。その明智あけちさんです。ちょっと急用きゅうようができたからと言いって、大おおいそぎで、門もんの外そとへ出でて行いかれました。」

これを聞きくと、明智あけち探偵たんていはツカツカと、その警官けいかんの前まえに、すすみ出でました。

「その男おとこは、どこかぼくと、ちがってはいなかったかね。」

そして、よく顔かおが見みえるように、月つきの光ひかりのほうを向むいて、警官けいかんの鼻はなの先さきに、近ちかづくのでした。

警官けいかんはこまったような顔かおをして、モジモジしました。

「あなたではなかったのでしょうか。ほんとうに、そっくりだったのですが。」

「ぼくじゃない。怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうはぼくに化ばけるのが、とくいなんだよ。」

「えッ、それでは、あいつが……。」

警官けいかんたちのあいだに、ただならぬざわめきがおこりました。警部けいぶ補ほは顔色かおいろをかえて、

「しまった。明智あけちさん。あなたの説明せつめいなんか聞きいているのじゃなかった。ゆだんでした。明智あけちさん、どうしたものでしょう。いまから追おっかけたって、まにあわないし……。」

と、じだんだをふまんばかりです。

しかし、明智あけちはさわぐけしきもありません。

「イヤ、まだぼくの負まけじゃありませんよ。ぼくのほうには万々一まんまんいちの用意よういがしてある。あいつがぼくに化ばけて、逃にげるかもしれないということは、ちゃんと考かんがえに入いれてあったのですよ。天野あまの勇一ゆういち君くんはまだ小ちいさいので、横浜よこはまのぼくの友人ゆうじんのうちへひきあげさせたが、小林こばやしと三さん人にんの少年しょうねんは、帰かえったわけではありません。万一まんいち、怪人かいじんが逃にげだした時とき、尾行びこうするために、この門もんの外そとの立たち木ぎのかげに、待機たいきしていたのです。」

「しかし、あいつが明智あけちさんに化ばけたのでは、子こどもたちも見みのがしたかもしれませんね。」

「それはだいじょうぶです。小林こばやしは、そういうことになれています。それに、たとえぼくとそっくりのやつでも、ひとりで門もんを出でる男おとこがあったら、かならず尾行びこうするように命めいじておきました。イヤ、そればかりではありません。もっとおもしろい計画けいかくがあるのです。見みていてごらんなさい。いまに少年しょうねんたちが報告ほうこくに来きますよ。」

明智あけちがおちつきはらっているので、警官けいかんたちもひとまず胸むねをなでおろしました。そうして、まだほんとうに信しんじきれないという顔かおつきで、門もんのほうをながめるのでした。

しばらくすると、あんのじょう、くらい門もんの外そとから、リスのように、三さん人にんの少年しょうねんがすべりこんできました。そして、すばやく明智あけち探偵たんていの姿すがたを見みつけると、その前まえにかけてきました。読者どくしゃ諸君しょくんがよくごぞんじの、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いん、花田はなだ、石川いしかわ、田村たむらの三さん少年しょうねんです。

「先生せんせいッ。」

花田はなだ君くんが、息いきせききって、何なんか言いおうとしています。

「あいつがぼくに変装へんそうして逃にげたのを、尾行びこうしたんだね。」

明智あけち探偵たんていのほうから、報告ほうこくをしやすくしてやりました。

「そうです。ぼくたち、あいつに見みつからないように、うまく尾行びこうしました。」

「大通おおどおりのほうへ出でて行いったんだね。」

「そうです。そのほかに、逃にげ道みちはありません。ぼくたち三さん人にんは、あいつの五十ごじゅうメートルほどあとから、電信でんしん柱はしらや、ごみ箱ばこや、いろんなもののかげに、かくれながら、尾行びこうしました。」

「あいつは、すこしも気きづかなかったかね。」

「ええ、ちっとも。ぼくたち、小林こばやし団長だんちょうにおそわって、いつも練習れんしゅうしていますから。」

「ウン、感心かんしん、感心かんしん、それで、あいつは、うまく自動じどう車しゃに乗のったのかい。」

「ええ、うまくいきました。なんにも知しらないで、自動じどう車しゃに乗のってしまいました。」

「行ゆく先さきはわからなかっただろうね。」

「いいえ、ぼく、こっそり自動じどう車しゃに近ちかづいて、耳みみをすましていました。」

「ホウ、えらいね。すると?」

「東京とうきょうへ、と言いう声こえが聞きこえました。自動じどう車しゃは東京とうきょうのほうへ走はしって行いったのです。」

「よし、それでいい。きみたち、ごくろうだったね。あとはわたしがうまくやるから、きみたちは夜よるが明あけたら、警察けいさつのおじさんに、おくってもらって、天野あまの君くんもつれて、東京とうきょうに帰かえりたまえ。きみたちの慰労いろう会かいは、あとでゆっくりやるよ。」

そして、明智あけちは警部けいぶ補ほに向むかって、三さん少年しょうねんと天野あまの勇一ゆういち君くんとを、だれか警官けいかんをつけて、東京とうきょうのおうちへ、おくりとどけてくれるように、たのむのでした。

警部けいぶ補ほはむろん、それをしょうちしましたが、しかし、どうも、ふにおちないという顔かおつきで、

「自動じどう車しゃで逃にがしてしまっても、だいじょうぶなのですか。その自動じどう車しゃというのは、あなたのごぞんじの車くるまなのですか。」と、しんぱいそうに、たずねました。すると、明智あけちはクスクス笑わらいながら、

「じつは、ぼくのほうで、あいつがその自動じどう車しゃに乗のるように、しむけたのですよ。運転うんてん台だいには小林こばやしが助手じょしゅに化ばけて、乗のりこんでいます。小林こばやしは変装へんそうもなかなかうまいですよ。小林こばやしはぼくの知しっているガレージへ行いって、しっかりした運転うんてん手しゅの乗のった車くるまを一いち台だい借かりだしたのです。そして、夜よふけの客きゃくをおくった帰かえり道みちのように見みせかけて、この向むこうの大通おおどおりに待まっていたのです。もし二十にじゅう面相めんそうが逃にげだせば、車庫しゃこをおさえてあるのだから、歩あるくほかはない。その時とき、目めの前まえにあき自動じどう車しゃがいたら、きっとそれに乗のるにちがいないと考かんがえたのですよ。」

「フーン、じつによく考かんがえられたものですね。明智あけちさんには、ほんとうに、かぶとをぬぎますよ。それにしても、その運転うんてん手しゅと小林こばやし君くんだけで、だいじょうぶでしょうか。あいては、おくそこのしれない魔法まほう使つかいですからね、どんな手てがあるかもしれませんぜ。」

「イヤ、それはもう、ぼくにはだいたいわかっているのです。あいつがひとりで逃にげだしたとすれば、行いく先さきは一いちヵ所かしょしかありません。あいつのさいごのとっておきの手てをもちいるのです。それがどんな手てだか、ぼくにはもうわかっています。大だい活劇かつげきですな。いや、大だい魔術まじゅつと言いったほうがいいかもしれません。こんどはぼくが魔術まじゅつ師しになるのです。」

明智あけち探偵たんていはニコニコしながら、ひとりの警官けいかんのほうをふりむきました。

「きみ、お手数てすうですが、二十にじゅう面相めんそうの車庫しゃこの自動じどう車しゃに、ガソリンを入いれさせてくれませんか。そして、どなたか運転うんてんのうまいかたがあったら、東京とうきょうまでとばしてほしいのですが……。あいつの車くるまはなかなか優秀ゆうしゅうですからね。競走きょうそうにはもってこいです。」

私服しふく警官けいかんの中なかにひとり、もと飛行ひこう隊たいにいたことのある、運転うんてんの名手めいしゅがいました。そして、わたしがやりましょうと名なのって出でたのです。

明智あけち探偵たんていはいまから二十にじゅう面相めんそうの自動じどう車しゃを、追おっかけるつもりなのでしょうか。それとも、なにかべつの考かんがえがあるのでしょうか。

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