← Library‹ 怪奇四十面相 やみの中の少女

四十よんじゅう面相めんそうがコンクリート塀へいの中なかへ、消きえたあと、町まちはまたシーンと、しずまりかえって、なんの動うごくものもありません。映画えいがの回転かいてんが、とつぜん、ピッタリと、とまってしまったような感かんじです。

まちどおしい時間じかんが、ノロノロとすぎて、やがて五ご分ふんもたったころです。さっき四十よんじゅう面相めんそうの、にせポストが立たっていた町まちかどの、こちらから、小ちいさな人間にんげんのすがたが、ヒョイと、街灯がいとうのひかりの中なかにあらわれました。ボロボロの服ふくを着きた乞食こじき少年しょうねんです。

小林こばやし君くんは、立たちさったと見みせかけて、町まちかどのこちらがわの、まっ暗くらなところに、かくれていたのです。そして、四十よんじゅう面相めんそうが塀へいの中なかへ、はいってしまっても、用心ようじんぶかく、しばらく、ようすをうかがってから、あらわれたのです。

小林こばやし君くんはチョコチョコと、れいの電柱でんちゅうのところまで、走はしっていって、そこでまた、じっと耳みみをすましていましたが、やっと決心けっしんしたように、電柱でんちゅうにとびつくと、スルスルと、それをのぼって、四十よんじゅう面相めんそうと同おなじように、コンクリート塀へいの上うえにまたがり、ヒラリと、中なかへとびおりました。

そこは、ひろい庭にわで、大おおきな木きが林はやしのように、ならんでいます。小林こばやし君くんは、もの音おとをたてぬように、気きをつけながら、そのまっ黒くろな木きの幹みきのあいだを、用心ようじんぶかく、すすんでいきました。

どこからか、赤あかいひかりが、さしています。それを目めあてに、あるいていきますと、やがて、林はやしのようなところをぬけて、ひろい場所ばしょに出でました。

むこうに、洋館ようかんがヌーッと黒くろい巨人きょじんのように、そびえています。その一いち階かいの右みぎのすみの窓まどが一ひとつだけ、明あかるく光ひかっているのです。

小林こばやし君くんは、その窓まどのほうへ、歩あるきかけたのですが、とつぜん、ハッとして、立たちどまりました。すぐ横よこの、大おおきな木きの下したに、なにか動うごいているものがあったからです。

四十よんじゅう面相めんそうが、まちぶせしていたのでしょうか。いや、そうではありません。そこに立たっていたのは、もっと小ちいさな人間にんげんだったのです。小しょう学校がっこう一いち年ねん生せいぐらいの、かわいい女おんなの子こだったのです。オカッパ頭あたまの赤あかい色いろの洋服ようふくをきた女おんなの子こが、両手りょうてを目めにあてて、シクシクと泣ないていたのです。

そんな小ちいさな女おんなの子こが、たったひとりで、まっ暗くらな庭にわに立たっているなんて、ただごとではありません。どこか、近ちかくにおとながいるのではないかと、しばらく、ようすを見みていましたが、どこにも、それらしいすがたは見みえないのです。

小林こばやし君くんは、思おもいきって、女おんなの子このそばにより、ソッと、その肩かたに手てをのせました。すると、女おんなの子こはビクッとして、小林こばやし君くんを見みあげましたが、乞食こじきの少年しょうねんのすがたを、こわがって、逃にげだすかと思おもうと、逃にげだすどころか、いきなり、おそろしいいきおいで、小林こばやし君くんにすがりついてきました。そして、小林こばやし君くんのからだを、だきしめるようにして、ブルブルふるえているではありませんか。

「どうしたの? きみ、ここのうちの子こなの?」

小林こばやし君くんがささやき声ごえでたずねますと、少女しょうじょは、コックリとうなずいてみせました。

「どうして、こんなところに、いるの?」

「あたしこわいの。」

少女しょうじょも、あたりをはばかるように、ささやき声ごえで答こたえました。

「こわいって、なにがさ。」

「地下ちか室しつにいるの。お化ばけがいるの。」

小林こばやし君くんは、いくらお化ばけがいるにしても、こんなまっ暗くらな庭にわのほうが、もっとこわいはずではないかと思おもいました。こわければ、おとうさんかおかあさんのところへ、行いけばいいのにと思おもいました。

「きみのおとうさんは、おうちにいないの?」

「いないの。さがしても、いないの。」

「おかあさんは?」

「死しんだの。もうせん、死しんじゃったの。」

「女中じょちゅうさんは?」

「ばあやでしょう。ばあやは、おつかいに行いったの。」

「じゃあ、きみのうちは、おとうさんと、きみと、ばあやと、三さん人にんきりなの?」

「ウン。」

「すると、きみは、ひとりぼっちなんだね。」

「ウン。」

どうもへんです。こんな大おおきな洋館ようかんに、たった三さん人にんで住すんでいるのでしょうか。しかも、おとなはふたりとも、どこかへ行いってしまって、小ちいさな女おんなの子こを、ひとりぼっちにしておくなんて、なんというじゃけんな人ひとたちでしょう。いったい、ここの主人しゅじんというのは、なにをしている人ひとでしょうか。

「きみのおとうさんは、どんな人ひとなの? おつとめがあるの?」

「博士はかせなの。」

「エ、博士はかせだって? じゃあ、学者がくしゃなんだね。」

「そうよ、えらい博士はかせなのよ。」

「なんの博士はかせなの?」

「ご本ほんの博士はかせなの。ご本ほんがどっさりあるの。」

少女しょうじょには、それ以上いじょうのことは、わからないようです。

「きみ、いつから、この庭にわにいるの。」

「いまよ。いま逃にげてきたのよ。」

「どこから?」

「地下ちか室しつから。」

「きみのお部屋へやは、地下ちか室しつにあるの?」

「ううん、あたしのお部屋へやは、あすこよ。」

少女しょうじょは、たった一ひとつ電灯でんとうのついている窓まどを、ゆびさしました。

「じゃあ、どうして地下ちか室しつへ、いったの?」

「音おとがしたからよ。」

「で、地下ちか室しつに、何なんがいたの?」

「お化ばけよ。お化ばけが三さんびきいるの。」

少女しょうじょは、ふるえ声ごえで答こたえて、もっとつよく、しがみついてきました。

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