← Library‹ 怪奇四十面相 骸骨の呪文

骸骨がいこつたちのうしろのかべは、三方みかたとも、本ほんだなになっていて、りっぱな本ほんがギッシリつまっていました。それらの本ほんのせなかの金きん文字もじが、ローソクの光ひかりにてらされて、チカチカと光ひかっています。

小林こばやし君くんは、この、なんともいえぬ、ふしぎな光景こうけいを見みて、自分じぶんの頭あたまが、どうかしたのではないかと、あやしみました。いったい黄金おうごんの骸骨がいこつなんて、この世よにあるものでしょうか。しかも、その金色きんいろの三みつの骸骨がいこつが、まるで生いきた人間にんげんのように、話はなしをしているのです。身みうごきしたり、口くちをきいたりしているのです。そんなばかなことがあってもいいものでしょうか。

一ひとつの骸骨がいこつの、耳みみまでさけた大おおきな口くちが、ガクガクと動うごきました。そして、みょうなしわがれた声こえが聞きこえてくるのです。

「ゆなどき、んがくの、でるろも。」

すると、その右みぎがわの骸骨がいこつが、それにこたえるように、歯はばかりの口くちを、ガクガクやりました。

「むくぐろ、べへれじ、しとよま。」

つづいて、三さん人にんめの骸骨がいこつが、口くちを動うごかしました。

「とだんき、すのをど、すおさく。」

それから、また三さん人にんめの骸骨がいこつは、その同おなじことばを、いくども、くりかえしました。日本にっぽん語ごでも、英語えいごでも、フランス語ごでもないのです。ひょっとしたら、それは骸骨がいこつたちの住すんでいる地獄じごくのことばかもしれません。それとも、なにかの呪文じゅもんなのでしょうか。金色きんいろの骸骨がいこつどもは、おそろしい呪文じゅもんをとなえて、だれかを、のろっているのでしょうか。

「わからん。」

とつぜん、ひとりの骸骨がいこつが、日本にっぽん語ごをしゃべりました。すると、それにつづいて、あとのふたりの骸骨がいこつも日本にっぽん語ごで言いうのです。

「ウン、いくら考かんがえても、わからん。」

「いくら、となえても、わからん。」

「よし、それじゃあ、今夜こんやは、これだけにしておこう。おたがいに、もっとよく考かんがえるんだね……。では、つぎの金曜きんよう日ひ、夜よるの八はち時じ、また、ここであうことにしよう。」

ひとりの骸骨がいこつが、そう言いって、立たちあがりました。そのひょうしに、ローソクのほのおがゆれて、金色きんいろのどくろや、あばら骨ぼねが、キラキラと光ひかりました。

「ウン、それがいい。毎日まいにち、毎日まいにち、考かんがえるんだ。そして、また、金曜きんよう日ひに相談そうだんするんだ。どんなことがあっても、この秘密ひみつは、とかねばならぬ。」

「そうだ。どんなことがあっても。」

あとのふたりも立たちあがりました。そして、三みつの骸骨がいこつは、ゆっくりと、こちらへ、歩あるいてくるのです。

小林こばやし少年しょうねんは、それを見みると、そばにいた少女しょうじょの手てをとって、すばやく、ドアの前まえをはなれ、まっ暗くらな廊下ろうかのおくへ、身みをかくしました。そこの、つきあたりのかべに、少女しょうじょといっしょに、ピッタリからだをくっつけて、骸骨がいこつたちが出でてきても、気きづかれないようにしたのです。

そうして、息いきをころしていますと、スーッとドアがひらいて、ローソクのひかりが、その出入でいり口くちのへんを、ボンヤリと、明あかるくしました。そこへひとりの骸骨がいこつが出でてきましたが、すると、パッと、黒くろい大おおきな布ぬののようなものがひらめいて、金色きんいろの骸骨がいこつを、スッポリとつつんでしまいました。つまり、骸骨がいこつが黒くろいマントのようなものを、頭あたまからかぶったのです。

つぎに出でてきた骸骨がいこつも、おなじように、黒くろいマントをかぶりました。三さん人にんめの骸骨がいこつも、マントをかぶりました。すると、金色きんいろの骨ほねぐみは、まったくかくれてしまって、そこには、まっ黒くろな三みつの影法師かげぼうしのようなものが、立たっているばかりでした。

その三みつの黒くろい影かげ法師ほうしは、小林こばやし少年しょうねんたちのかくれている廊下ろうかの、はんたいのほうへ歩あるいていき、やがて、階段かいだんをのぼるすがたが、その上うえにある電灯でんとうのひかりをうけて、ハッキリと見みえました。

小林こばやし少年しょうねんは、三さん人にんの黒くろ法師ほうしが、階段かいだんをのぼりきってしまったとき、そのあとをつけてやろうと、決心けっしんしました。少女しょうじょが足手あしでまといですが、こわがって、ふるえているのを、おきざりにするわけにはいきません。しかたがないので、少女しょうじょの手てをひいたまま、尾行びこうをすることにしたのです。

少女しょうじょの手てをかたくにぎって、だまって、ついてくるように、あいずをして、足音あしおとをしのばせて、階段かいだんをのぼりました。

階段かいだんの上うえに頭あたまだけだして、のぞいて見みますと、三みつの黒くろ法師ほうしは、うす暗ぐらい廊下ろうかを、むこうのほうへ歩あるいていくのが見みえます。

ひとりの黒くろ法師ほうしは、とちゅうでわかれて、二に階かいへの階段かいだんをあがっていきました。あとの二ふたつの黒くろ法師ほうしは、そのまま、廊下ろうかをまっすぐにすすみ、つきあたりを右みぎへまがりました。そこは、この建物たてものの玄関げんかんの方角ほうがくらしいのです。

小林こばやし君くんは少女しょうじょの手てをひいて、階段かいだんから、廊下ろうかに出でました。そして、ささやき声ごえで、少女しょうじょにたずねます。

「きみのおとうさんのお部屋へやは、二に階かいにあるんだろう?」

「ええ、そうよ。」

少女しょうじょが、ふるえ声ごえで、かすかに、答こたえます。

「よし、それじゃ、こっちへ、おいで。あすこに玄関げんかんがあるんだろう。ふたりのやつは、玄関げんかんのほうへ出でていったんだ。どこへゆくか、見みとどけてやろう。こわいことはないよ。ぼくがついているから、だいじょうぶだよ。」

小林こばやし少年しょうねんは、そうささやいて、グングン少女しょうじょの手てをひっぱるのでした。

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