← Library‹ 怪奇四十面相 少女の父

玄関げんかんにたどりついて、ソッとドアをあけてのぞきますと、ふたりの黒くろ法師ほうしは、むこうに見みえる石いしの門もんの、スカシもようの鉄てつの扉とびらをひらいて、そとへ出でていくところでした。

玄関げんかんはまっ暗くらですし、そとには、門もんの上うえに電灯でんとうがひとつ、ついているだけですから、ものかげにかくれてゆけば、あいてに、さとられる心配しんぱいはありません。小林こばやし君くんは、少女しょうじょの手てをひっぱって、門もんのところまでしのんでいきました。

門もんの石いしの柱はしらに身みをかくして、そとを見みますと、すぐ目めの前まえに、ヘッド・ライトを消けした一いち台だいの自動じどう車しゃが、とまっていました。黒くろマントをかぶった、ふたつの骸骨がいこつは、いま、その自動じどう車しゃにのりこんでいるところです。自動じどう車しゃのドアがひらいて、ふたりのまっ黒くろな海うみぼうずのような怪物かいぶつが、そのなかへ、すいこまれるように消きえていきました。

そして、エンジンの音おとが、かすかにしたかと思おもうと、自動じどう車しゃは、スーッと動うごきだし、見みるまに、やみのなかへ、とけこんでいきました。あとは、いちめんの暗くらやみです。なにも見みえません。なにも聞きこえません。死しんでしまったような、しずけさです。

骸骨がいこつが自動じどう車しゃにのって、どこかへ行いったのです。いったい、これはほんとうのできごとなのでしょうか。小林こばやし君くんは、おそろしい夢ゆめを見みたのではないでしょうか。いや、夢ゆめではありません。夢ゆめでないことが、やがてわかってきます。そして、夢ゆめよりも、もっとおそろしいことが、おこるのです。

小林こばやし君くんと少女しょうじょとは、しばらく、門もんの柱はしらのところへ立たちつくしていました。少女しょうじょはブルブルふるえながら、しっかりと小林こばやし君くんに、だきついていました。

「さあ、もうおうちへはいろう。そして、きみはおとうさんの部屋へやへ、いくんだな。」

小林こばやし君くんは少女しょうじょの手てをとって、玄関げんかんのほうへ歩あるきながら、言いうのでした。

「だって、おとうさまは、まだおかえりにならないわ。」

「いや、きっと、もうおかえりになっているよ。二に階かいのお部屋へやへ、いってごらん。ぼくも部屋へやのそとまで、ついていってあげるよ。でもね、おとうさんに、ぼくのこと言いうんじゃないよ。骸骨がいこつを見みたことも、言いうんじゃないよ。いいかい。」

「どうして? どうして言いっちゃいけないの?」

「もし、きみがおとうさんに話はなすと、骸骨がいこつが、きみをひどいめに、あわせに来くるからさ。」

「ほんと? ほんとに来くるの? じゃあ、あたし、話はなさないわ。」

少女しょうじょは、またブルブルふるえだすのでした。

ふたりは玄関げんかんをはいって、廊下ろうかを、おくのほうへすすんでいきました。そして、さいぜん、ひとりの骸骨がいこつがのぼっていった階段かいだんの下したまできたとき、少女しょうじょがギョッとしたように、立たちどまりました。

「いけない。二に階かいへいっちゃいけない。二に階かいに、さっきのお化ばけがいるわ。まだ、きっと、いるわ。」

「だいじょうぶだよ。もういやしないよ。二に階かいには、お化ばけでなくて、きみのおとうさんがいるばかりだよ。」

少女しょうじょは、階段かいだんの下したの柱はしらにつかまって、動うごこうともしませんでしたが、小林こばやし君くんはささやき声ごえで、いろいろと、ときつけて、やっと二に階かいへあがることを、しょうちさせました。

「いいかい、ぼくはおとうさんの部屋へやのそとまで、いくだけだよ。きみはひとりで、部屋へやへはいるんだよ。そして、ぼくのことは、おとうさんに、なにも言いわないんだよ。わかった?」

少女しょうじょがうなずくのを見みると、小林こばやし君くんはその手てをとって、音おとをたてないように気きをつけながら、階段かいだんをのぼりました。そして、廊下ろうかをすこしゆくと、少女しょうじょがひとつのドアをゆびさしました。それがおとうさんの部屋へやだったのです。

少女しょうじょはまだこわがっていましたけれど、小林こばやし君くんにせきたてられて、そのドアを、ソッとほそめにひらいて、部屋へやのなかをのぞきました。小林こばやし君くんも、少女しょうじょの頭あたまの上うえから、そのドアのすきまに目めをあてました。

部屋へやのなかには、さっきの骸骨がいこつがいたのでしょうか。いや、そうではありません。そこの安楽あんらくイスには、ひとりの、りっぱな紳士しんしが、ゆったりと腰こしかけていました。言いうまでもなく、少女しょうじょの父ちちの博士はかせなのです。

黒くろい背広せびろをきた五十ごじゅう歳さいぐらいの紳士しんしで、はんぶん白しろくなったかみをオールバックにし、黒くろいふちのロイドめがねをかけ、口くちひげと、三角さんかくがたのあごひげを、はやしています。いかにも、学者がくしゃらしい顔かおつきです。

それにしても、いったい、この博士はかせは、いつのまに、かえってきたのでしょう。小林こばやし君くんも少女しょうじょも、さっきから門もんのところにいたのですから、博士はかせがかえってくれば、であったはずです。どうも、おかしいではありませんか。

つい、さいぜん、ひとりの骸骨がいこつが、二に階かいへあがっていきました。そして、いま来きてみると、骸骨がいこつのすがたは、どこにもなくて、そのかわりに、少女しょうじょのおとうさんの博士はかせが、いつのまにか、あらわれていたのです。これは、いったい、どうしたわけなのでしょうか。

小林こばやし君くんは、もう、ちゃんと、そのわけを知しっていました。しかし、少女しょうじょに話はなしてきかせるには、およびません。そこにいたのは、少女しょうじょのおとうさんに、ちがいないのです。小林こばやし君くんは、だまって、少女しょうじょのせなかを押おして、部屋へやの中なかへはいれという、あいずをしました。

少女しょうじょはドアをひらいて、「おとうさま。」とさけびながら、かけこんでいきました。博士はかせはそれを見みると、にこにこ笑わらって、両手りょうてをひろげます。少女しょうじょはその両手りょうてのなかへ、たおれこむようにして、博士はかせのひざにすがりつきました。

「おとうさま、どこへいらしったの? あたし、こわかったわ。ひとりぼっちなんですもの。」

「おお、ごめん、ごめん。おとうさまはね、だいじなご用ようがあったんだよ。それに、ばあやが、もっとはやく、かえると思おもったんだよ。さびしかったかい。ごめんね。だが、こわいことなんか、ありゃしないよ。なにも、こわいものなんか、いやしないよ。」

「いたわ、お化ばけが……。」

「エッ、お化ばけが? どこにさ。」

「地下ちか室しつよ。」

「なんだって? おまえ、地下ちか室しつへ行いったのか。地下ちか室しつで、なんか見みたのか。」

大おおきなメガネのなかで、博士はかせの目めがギラギラと光ひかりました。そして、おそろしい顔かおで、少女しょうじょをにらみつけているのです。

少女しょうじょは、ハッとしたように、口くちをつぐみました。さっき小林こばやし君くんに言いわれたことを、思おもいだしたからです。あのことをおとうさまに言いえば、おそろしい骸骨がいこつが、またやってくるにちがいないと、思おもったからです。

「地下ちか室しつで、なんだか音おとがしたの。」

「それだけかい。おまえ、地下ちか室しつへ行いったんじゃないのかい。」

「行いったんじゃないわ。こわいんですもの。」

それを聞きくと、博士はかせは、やっと安心あんしんしたように、目めをほそくして、にこにこ笑わらいだしました。

「いい子こだ、いい子こだ。もう、けっして、ひとりぼっちにしないからね。ごめんよ。さあ、おとうさまが、おもしろいお話はなしをしてあげよう。ひざの上うえにおのり。」

「ええ、おもしろいのよ。こわいお話はなしはいやよ。」

少女しょうじょは、父ちちのひざに腰こしかけて、あまえるように言いうのでした。

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