← Library‹ 怪奇四十面相 通り魔

その笑わらい声ごえをきくと、小林こばやし君くんは、ハッとして、思おもわず逃にげだしそうになりました。骸骨がいこつが、いまにもとびかかってきて、小林こばやし君くんをこわきにかかえ、どこかへ、つれさるのではないかと、思おもったからです。

「ワハハハハ……、こわいか。ふるえているじゃないか。」

四十よんじゅう面相めんそうの骸骨がいこつが、ユラリと一いち歩ほ、小林こばやし君くんのほうに近ちかづいて、しわがれ声こえで言いいました。

「こわいもんか。ただ、きみにつかまらないように、用心ようじんしているだけさ。」

小林こばやし少年しょうねんもまけてはいません。

「ハハハ……、やっぱりこわいんじゃないか。だが、安心あんしんしたまえ。なにもしやしないよ。きみはかわいいからね。きみがおれを尾行びこうしたり、ふいにおれの前まえに、あらわれたりするのが、じつにたのしいのだよ。きみはおれの秘密ひみつを、なんでも見みやぶってしまうからね。あいてにとって、じつにゆかいなんだよ。」

「フフン、それで、きみは、これからどうするつもりなの。ぼくは、どこまでも、しゅうねんぶかく、きみにつきまとってやるよ」

「おもしろい。そこがすきなんだよ。だが、今夜こんやは、これでおわかれだ。きみは、もう、おれを尾行びこうすることは、できないのだよ。」

「じゃあ、逃にげるのかい。」

「フフフフ……、まあ、逃にげるのだろうね。しかし、また、じきにあえるよ。きみはきっと、おれの前まえにあらわれるからね。」

「で、どうして、逃にげるの?」

「きいてごらん。なんだか音おとがしているねえ。エンジンの音おとのようだね。遠とおくのほうから、だんだん近ちかづいてくる。ホラね。」

しずまりかえった夜よるの空気くうきをふるわせて、かすかに自動じどう車しゃの近ちかづいてくる音おとが、聞きこえています。小林こばやし君くんは、とっさに、その意味いみをさとりました。しかし、どうすることもできません。金色きんいろの骸骨がいこつは、サッと身みをひるがえして、もう走はしりだしていました。小林こばやし君くんも、思おもわず、そのあとを追おいましたが、遠とおくのひかりをうけて、ときどき、キラッキラッと光ひかる金色きんいろの骸骨がいこつは、林はやしの中なかをくぐりぬけて、うらのコンクリート塀へいに近ちかづき、いきなり、パッと、とびあがったとみるまに、たちまち、塀へいの頂上ちょうじょうに、よじのぼっていました。

からだの小ちいさい小林こばやし君くんには、とても、そのまねはできません。やっと塀へいにとびついて、ひじょうな苦心くしんをして、塀へいの上うえに顔かおをだしたときには、四十よんじゅう面相めんそうは、もう、そとがわへとびおりていたのです。

それは、じつに、みごとな曲芸きょくげいでした。小林こばやし君くんは、そのはなれわざを見みて、敵てきながら、すっかり感心かんしんしてしまったほどです。

一いち台だいのオープン・カー(屋根やねのない自動じどう車しゃ)が、むこうの町まちかどから、矢やのように走はしってきました。そして、それが四十よんじゅう面相めんそうののぼりついた塀へいの下したを、通とおりすぎたとき、金色きんいろの骸骨がいこつのからだが、サーッと空中くうちゅうにおどり、アッと思おもうまに、自動じどう車しゃの座席ざせきの中なかへおちていきました。つまり、四十よんじゅう面相めんそうは塀へいの上うえから、走はしっている自動じどう車しゃに、とびのったのです。じつに、あざやかな演技えんぎでした。

自動じどう車しゃは、すこしも速度そくどをゆるめず、そのまま、べつの町まちかどをまがって、消きえていきました。むろん、まえもって、うちあわせてあったのでしょう。その自動じどう車しゃの運転うんてん手しゅは、四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかにきまっています。

まるで通とおり魔まのようなできごとでした。アッというまに、今いままでそこにいた骸骨がいこつも、自動じどう車しゃも、見みえなくなり、あとには、死しにたえたような、夜よるのしずけさがあるばかりでした。

小林こばやし君くんは、ゆっくりと、塀へいのそとへおりて、自動じどう車しゃの消きえさったほうをながめながら立たっていました。敵てきのためにみごとに、だしぬかれたのです。では、小林こばやし君くんはまけたのでしょうか。いや、どうも、そうではなさそうです。そのしょうこに、小林こばやし君くんは、ニヤニヤ笑わらっていたのです。笑わらいながら、こんなひとりごとを言いっていたのです。

「四十よんじゅう面相めんそう君くん、気きのどくだが、きみは、逃にげられないんだよ。このつぎの金曜きんよう日ひには、きみはどうしても、ここへ来こないわけにはいかないんだ。勝負しょうぶはそのときだよ。こんどこそ、ぼくのおくの手てをだして、アッと言いわせてやるからね。ああ、金曜きんよう日ひがまちどおしいなあ。」

小林こばやし君くんは、そう言いって、またニヤリと、ふしぎな笑わらいをもらすのでした。

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