← Library‹ 怪奇四十面相 巨大な昆虫

お話はなしは、つぎの金曜きんよう日ひの夜よるにとびます。場所ばしょは博士はかせ邸てい、時間じかんは午後ごご八はち時じすこしまえです。

博士はかせ邸ていの一いち階かいの、うす暗ぐらい、ひろい廊下ろうかを、いっぴきの巨大きょだいな虫むしのようなものが、スーッとはっていくのが見みえました。

その虫むしは、カブトムシのように、黒くろくて、つやつやした、せなかをしているのですが、そのせなかには、エビのように、たくさんのふしがあるのです。まっ黒くろな、サソリといったほうが、よいかもしれません。

しかし、そのものは、かたちは虫むしのようですが、大おおきさは、カブトムシの何なん万まん倍ばいもあるのです。大おおきなイヌほどもある虫むしの化ばけものです。それが六ろく本ほんではなくて、四よん本ほんのあしで、ゴソゴソと、廊下ろうかのおくの、やみの中なかへ消きえていったのです。そこには、地下ちか室しつへの階段かいだんがあるはずです。

うす暗ぐらい廊下ろうかは、そのまま、シーンとしずまりかえっていましたが、やがて、二に階かいからの階段かいだんに人ひとの足音あしおとがして、このまえの夜よると同おなじような、黒くろマントで身みをつつんだ人物じんぶつが、廊下ろうかにあらわれ、地下ちか室しつの階段かいだんのほうへ、ゆっくり、歩あるいていきました。主人しゅじんの博士はかせにちがいありません。黒くろマントの下したにはれいの黄金おうごん骸骨がいこつのシャツを着きているのでしょう。

まもなく、こんどは、玄関げんかんの扉とびらのひらく音おとがして、同おなじ黒くろマントの人物じんぶつが、そとからはいってきました。そして、かげのように、スーッと廊下ろうかを通とおり、地下ちか室しつへと、おりていきました。まだ、もうひとり来くるはずです。でないと、人数にんずうがそろいません。

やがてほどなく、また玄関げんかんに音おとがして、第だい三さんの黒くろマントが、廊下ろうかにあらわれました。そして、地下ちか室しつの階段かいだんのほうへ歩あるいていったのですが、とつぜん、廊下ろうかにならんでいる、ひとつのドアが、パッとひらき、そのまっ黒くろな部屋へやの中なかから、もうひとりの黒くろマントが、とびだしてきました。さきに地下ちか室しつへおりたふたりとは、べつの人物じんぶつです。つまり、第だい四よんの黒くろマントなのです。

それを見みると、玄関げんかんからはいってきた黒くろマントは、びっくりして立たちどまり、

「やあ、おそくなって……。」

と、言いいかけましたが、あいては、ものをも言いわず、いきなり、こちらへ、くみついてきました。

「だ、だれだ、きみは……。」

さけぼうとしたときには、もう、あいてのてのひらが、口くちをふさいでいました。おそろしい無言むごんの格闘かくとうです。ふたりのマントが、コウモリのはねのように、ひるがえり、その下したから金色きんいろの骸骨がいこつの変装へんそうがあらわれ、二にひきの骸骨がいこつが、くんずほぐれつの、あらそいをつづけたのです。

しかし、それも、ちょっとのまでした。ドアからとびだしてきた第だい四よんの人物じんぶつのほうが、たちまち、あいてをたおして、その上うえに馬うまのりになってしまったのです。そして、てばやく、大おおきなハンカチをまるめて、あいての口くちにおしこみ、よういしていたなわをとりだして、身みうごきもできないように、手てあしをしばってしまいました。

それから、勝かちほこった黒くろマントは、しばられたままにたおれている人物じんぶつの足あしを、両手りょうてで持もって、さっき出でてきた、まっ暗くらな部屋へやの中なかへ、ズルズルとひきずりこみました。そして、ふたたび、廊下ろうかに出でると、ドアをピッタリしめて、なにくわぬ顔かおで、ゆっくりと地下ちか室しつの階段かいだんへと歩あるいていくのでした。

この第だい四よんの黒くろマントが、なにものであるか、読者どくしゃ諸君しょくんは、とっくにおわかりでしょうね。そうです、この男おとこは怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうだったのです。かれは、骸骨がいこつのすがたをした人物じんぶつのひとりに化ばけて、地下ちか室しつの会合かいごうの、なかまいりをしようというのです。そして、なかの秘密ひみつを、さぐろうとしているのです。

それにしても、いちばんさいしょ、地下ちか室しつのほうへ消きえていった、あの巨大きょだいな虫むしのような怪物かいぶつは、いったい、なにものだったのでしょう。これも読者どくしゃ諸君しょくんには、だいたい、想像そうぞうがついているかもしれませんね。

いよいよ、奇々きき怪々かいかいの知恵ちえくらべが、はじまろうとしているのです。「黄金おうごんどくろの秘密ひみつ」をめぐって、希代きだいの怪人かいじんと、少年しょうねん名めい探偵たんていの、勝負しょうぶがはじまろうとしているのです。

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