← Library‹ 怪奇四十面相 どくろの秘密

しばらくすると、骸骨がいこつすがたの博士はかせが、ヒョイと、うしろをふりむきました。小林こばやし君くんの息いきが、博士はかせの耳みみのうしろを、くすぐったからです。

骸骨がいこつのふたつの大おおきな目めと、百科ひゃっか事典じてんの化ばけものの少年しょうねんの目めとが、火ひばなをちらすように、にらみあいました。

「きみはだれだ。どこから、はいってきた。」

金色きんいろの骸骨がいこつの口くちが、パクパクうごいて、ぶきみな、ひくい声こえがもれてきました。

「ぼくは四十よんじゅう面相めんそうを追おっかけているのです。明智あけち探偵たんていの助手じょしゅの小林こばやしっていうのです。」

「フーン、そうか。明智あけち探偵たんていの名なはよく知しっている。小林こばやしという、すばしっこい少年しょうねん助手じょしゅがいることも、話はなしにきいている。しかし、その小林こばやし君くんが、どうして、わしのうちへ、はいってきたのかね。ここには四十よんじゅう面相めんそうなんて、いやしないじゃないか。」

「いたのですよ。いましがた、ここを出でていったばかりです。」

「ばかなことを言いいなさい。ここには、わしのほかに、ふたりの骸骨がいこつがいたばかりだ。ふたりとも、わしの親戚しんせきのものだ……。わしたちは、ある秘密ひみつの相談そうだんをするために、こんな骸骨がいこつのシャツを着きて、会議かいぎをひらいているが、けっして、悪事あくじをはたらいているのではない。四十よんじゅう面相めんそうなどとは、なんのかんけいもない。」

「ところが、あの骸骨がいこつのひとりに、四十よんじゅう面相めんそうが化ばけていたのですよ。あいつは、そうして、あなたがたの秘密ひみつを、さぐりだしにきたのです。」

「いや、そんなことはない。にせものなれば、黄金おうごんどくろを持もっているはずがない。わたしたちは、みんな一ひとつずつ、黄金おうごんどくろを持もっている。それがなによりのしょうこなのだ。」

「じゃあ、ぼくもしょうこを見みせてあげましょう。それはたぶん、一いち階かいのどこかの部屋へやに、ころがっているはずですよ。」

小林こばやし君くんは、博士はかせを手てまねきしながら、ドアのそとへ出でていきます。博士はかせは、そうまで言いわれて、もしやという、うたがいがおこったのでしょう。そのまま、小林こばやし君くんといっしょに、地下ちか室しつの階段かいだんをのぼって、一いち階かいの廊下ろうかに出でました。

小林こばやし君くんはさきに立たって、廊下ろうかにならんでいるドアを、つぎつぎとひらいて、なかをのぞいてゆきましたが、ある部屋へやのドアをひらくと、ハッとしたように立たちどまって、博士はかせのほうをふりむき、目めで「ここだ。」という、あいずをしました。

博士はかせもいそいで、その部屋へやにはいってみますと、ガランとしたあき部屋へやのゆかに、金色きんいろの骸骨がいこつが、ながながと、横よこたわっていました。口くちには、さるぐつわをはめられ、手てと足あしを、グルグルまきに、しばられているのです。

ふたりはおどろいて、そのそばにかけよりさるぐつわをとり、なわをといて、ようすをたずねますと、その人ひとは、まさしく、博士はかせの親戚しんせきの人ひとのひとりで、廊下ろうかを歩あるいていると、とつぜん、自分じぶんとおなじ骸骨がいこつのシャツを着きた男おとこが、とびだしてきて、アッと思おもうまに、こんなめにあわされてしまった。そのとき黄金おうごんどくろも、とられてしまった、と言いうのでした。

博士はかせは、この骸骨がいこつ男おとこと、小林こばやし君くんを、書斎しょさいにあんないして、イスをすすめ、骸骨がいこつのふくめんをとって、顔かおをあらわしました。

小林こばやし君くんが、このまえすきみした、主人しゅじんの博士はかせにちがいありません。半分はんぶん白しろくなったオールバックの頭あたまと三角さんかくがたのあごひげに見みおぼえがあります。博士はかせはデスクの上うえからロイドめがねをとって、かけました。すると、いよいよ、あのときの博士はかせの顔かおと、そっくりになるのでした。

あき部屋へやにたおれた骸骨がいこつ男おとこも、ふくめんをとりさりました。これも五十ごじゅう歳さいをこした中老ちゅうろうの、りっぱな紳士しんしです。頭あたまの毛けはうすく、でっぷりふとった、あから顔かおで、ひげはありません。

博士はかせはその紳士しんしに、いままでのことを、ひととおり説明せつめいしたあとで、小林こばやし君くんのほうに、向むきなおりました。

「小林こばやし君くん、きみは、わしたちの味方みかただろうね。つまり、四十よんじゅう面相めんそうの怪人かいじんは、おたがいの敵てきというわけだね。」

「もちろんです。ぼくは四十よんじゅう面相めんそうのやつには、ふかいうらみがあるのです。ですから、四十よんじゅう面相めんそうが、あなたがたの秘密ひみつを、ぬすんだとすれば、ぼくは、あなたがたの味方みかたになって、四十よんじゅう面相めんそうのじゃまをしてやりますよ。それにしても、黄金おうごんどくろの秘密ひみつというのが、なんのことだか、ぼくには、すこしもわかりません。それを話はなしてください。」

小林こばやし君くんが、ハキハキした口調くちょうで、たずねました。

「ウン、黄金おうごんどくろの暗号あんごうの文句もんくは、きみも、すっかり聞きいてしまったのだから、かくしてもしかたがない。じつは、わたしたちは、何百なんびゃく億おく、何千なんぜん億おくという、ばくだいな宝たからのありかを、さがしている。さっき、地下ちか室しつで、きみが聞きいた暗号あんごうをとけば、その宝たからのありかが、わかるのだ。

くわしいことは、あとで話はなすが、いまから百ひゃく年ねんばかりまえに、ある人ひとが、ばくだいな金かねのかたまりを、どこかへかくして、そのかくし場所ばしょを、三みつの黄金おうごんどくろに、暗号あんごうでほりつけておいたのだ。

わしは、ながいあいだ苦心くしんをして、そのことを発見はっけんした。黄金おうごんどくろの秘密ひみつは、わしが持もっているが、あとのふたつをさがすのに、ずいぶんほねをおった。そして、やっと、ふたつのどくろの持主もちぬしをみつけて、暗号あんごうのけんきゅうをはじめたところなのだ。

だが、わしたちは、けっしてどろぼうをやるのじゃない。百ひゃく年ねんまえに金かねのかたまりをかくしたのは、大阪おおさかの大おお金持かねもちの、黒井惣右衛門くろいそうえもんという人ひとだが、わしは、その四よん代だいめの子孫しそんにあたる黒井十吉くろいじゅうきちというものだ。ついこのあいだまで、大学だいがくでドイツ文学ぶんがくをおしえていた。ここにおられるのは松野まつのさんという、ミシン製造せいぞう会社かいしゃの社長しゃちょうさんで、やはり惣右衛門そうえもんの子孫しそんだ。それからさきに帰かえったもうひとりは、八木やぎさんという貿易ぼうえき会社かいしゃの社長しゃちょうさんで、やっぱり惣右衛門そうえもんの子孫しそんなのだ。つまり、わしたちは、先祖せんぞの宝物たからものをさがしだそうとしているのさ。」

「わかりました。ところが、黄金おうごんどくろをもっている、惣右衛門そうえもんさんの子孫しそんは、三さん人にんだと思おもっていたのが、そうではなくて、四よん人にんだったことがわかったのですね。」

小林こばやし少年しょうねんは、さっき地下ちか室しつで聞きいたことをすばやく思おもいだして、たずねました。

「そうなんだ。そのほかに、考かんがえようが、ないのだ。」

「ああ、きっとそうです。四十よんじゅう面相めんそうのやつが、そのもうひとつの黄金おうごんどくろの、ありかを知しっているのですよ。でなければ、あんな苦労くろうをして、あなたがたの会議かいぎの席せきへしのびこむわけがありません。」

それを聞きくと、黒井くろい博士はかせは顔色かおいろをかえて、思おもわずイスから立たちあがりました。

「ウーン、そうか。しまった。すると、あいつは、もう、すっかり暗号あんごうをといてしまったかもしれない。小林こばやし君くん、なぜ、もっとはやく、わしにおしえてくれないのだ。あいつを逃にがしては、とりかえしがつかないじゃないか。」

「いいえ、逃にがしゃあしません。ちゃんと、つかまえています。」

「エッ、つかまえているって? どこに……。」

「ぼくには、チンピラ別働べつどう隊たいという、たくさんの部下ぶかがあります。今夜こんや、ぼくが、ここへしのびこむまえに、そのうちの、二十にじゅう人にんのすばしっこい少年しょうねんたちを、おたくのまわりへ、配置はいちしておきました。けっして、四十よんじゅう面相めんそうを逃にがすようなことはありません。いまに、なにか知しらせがあります。ぼくは、チンピラどもの腕うでまえを、信しんじています。」

小林こばやし君くんは、リンゴのようなほおを、いっそう赤あかくして、さも、自信じしんありげに、言いいきるのでした。

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