← Library‹ 怪奇四十面相 小林少年の危難

さて、そのあくる日ひの午前ごぜん八はち時じごろのことです。

四十よんじゅう面相めんそうが化ばけた古こ道具どうぐ屋やのおやじは、大おおきな仏像ぶつぞうや、古ふるいよろいや、人形にんぎょうや、刀剣とうけんなどにかこまれて、れいの小机こづくえの前まえに腰こしかけ、電話でんわの受話じゅわ器きを耳みみにあてていました。

「モシ、モシ、宮永みやながさんですか。エ、ちがいますか、モシ、モシ、九きゅう段だんの三さん八はち五ご〇れい番ばんではありませんか。ヤッ、しつれいしました。」

老人ろうじんは、舌したうちしながら、受話じゅわ器きをかけて、もう一いち度ど、ダイヤルをまわしました。

「モシ、モシ、九きゅう段だんの三さん八はち五ご〇れい番ばんですか。宮永みやながさんですね。てまえは、美術びじゅつ商しょうの福井ふくいでございますが、ご主人しゅじんさまは、おめざめでございましょうか。ハイ、ハイ、では、ちょっと、お話はなしもうしあげたいんですが……。」

老人ろうじんが、むちゅうになって、話はなしているとき、そのうしろのほうで、なにかユラユラと動うごいたものがあります。ゴタゴタといろいろなものがならべてあるので、昼ひるでもうす暗ぐらい部屋へやです。その中なかに、もののけのように、ゆらぐものがあったのです。

老人ろうじんのうしろのほうに、古ふるいよろいがかざってありました。鉄てつはさび、糸いとはボロボロになった、きたないよろいですが、すねあても、ちゃんとそろっていて、人間にんげんが着きて立たっているように、かざってあるのです。頭あたまにはかぶとがのせられ、その下したから、赤銅色しゃくどういろのお面めんのようなほおあてが見みえています。

そのよろいが、まるで生せいあるもののように、動うごいたのです。上じょう半身はんしんが、機械きかいじかけのように、ジリジリと、前まえのほうにかたむき、ちょうど、老人ろうじんの電話でんわの声こえに、聞きき入いっているようなかたちになったのです。そのとき、かぶととほおあてのすきまに、なにかキラッと光ひかったものがあります。ガラスのようでもあり、人間にんげんの目めのようでもありました。

老人ろうじんは、それにはすこしも気きがつかず、電話でんわで話はなしつづけています。

「アア、宮永みやながさんでいらっしゃいますか。どうも、お呼よびたていたしまして。てまえ、福井ふくいのおやじでございます。おはようございます。ハイ、ハイ、れいの品しなでございますが、じつは、ぜひおゆずりねがいたいとぞんじまして。ハイ、すっかり、ほれこんでしまいました。あれほどの細工さいくは、めったにあるものではございません。エッ、代金だいきんでございますか。それは、もう、おおせのとおり、いかほどでも。エヘヘヘ、ハイ、ハイ、ともかく、一いち度どお目めにかかりまして……。これから、すぐに、おうかがいいたしても、よろしゅうございましょうか。ハイ、九きゅう時じごろには、そちらさまへ、つくようにいたします。では、ごめんくださいまし。」

受話じゅわ器きをおくと、老人ろうじんはニヤリと、ぶきみな笑わらいをうかべました。それにしても、じつにうまく化ばけたものです。しわだらけの顔かお、まっ白しろなふといまゆ、モジャモジャのしらが頭あたま、老眼ろうがん鏡きょうのなかで光ひかっている目めの色いろまで、すっかり老人ろうじんになりきっています。

老人ろうじんは、イスから立たって、帽子ぼうしかけのほうへゆこうとしましたが、なにを思おもったのか、びっくりしたように、その場ばに立たちどまってしまいました。そして、立たっているうちに、老人ろうじんのしわだらけの口くちの両りょうはじが、キューとつりあがって、なんともいえぬ、いやな笑わらい顔がおになり、目めはじっと、ひとつところを、にらみつけています。そこには、あのあやしいよろいが立たっているのでした。

「ああ、よかった。うっかり見みのがすところだった。このよろいはどうかしている。たしかにへんだ。」

じっとみつめていると、まるで息いきでもしているように、よろいが、かすかに、かすかに、動うごいているではありませんか。

「ウフフフ、こわいのかね。なんだかふるえているじゃないか。よろいがふるえるわけはなかろう。むろん、なかに人間にんげんがかくれているのだ。あさはかなさるぢえだよ。

おまえ、だれだね。あててみようか。チンピラ探偵たんていさんじゃろう。エッ、ちがうかね。ドレ、ドレ、ひとつお顔かおを、はいけんしよう。」

老人ろうじんは、いきなり手てをのばしてかぶとをはねのけ、ほおあてをめくりとってしまいました。すると、その下したから、あんのじょう、小林こばやし少年しょうねんの、かわいい顔かおがあらわれたではありませんか。

「ホーラね、わしの思おもったとおりじゃ。いつもながら、きみはすばしっこいねえ。どうしてここがわかったんだね。このしらがのおやじが、四十よんじゅう面相めんそうだと、どうして感かんづいたんだね。わしはこわくなってきたよ。だが、わしの目めは、なんでも見みとおしだ。とても、ごまかすことはできやしない。オイ、小林こばやし君くん、いままでは、あまい顔かおをみせていたが、もう、こんどはゆるせないぞ。しばらく苦くるしい思おもいをさせてやる。」

そう言いったかと思おもうと、老人ろうじんはポケットから、大おおきなハンカチをとりだして、いきなり小林こばやし君くんの口くちの中なかへおしこんで、まず、声こえをたてられないようにしてしまいました。そして、よろいをはぎとり、小林こばやし君くんの小ちいさいからだを、こわきにかかえて、部屋へやのすみの階段かいだんを、二に階かいへとのぼってゆきました。

二に階かいには、がんじょうな板戸いたどをはめた部屋へやがあり、しかも、その板戸いたどには、大おおきな錠じょうまえがついているのです。

老人ろうじんは板戸いたどをあけて、中なかにはいりました。そして、すみの押おしいれから長ながいほそびきをとりだすと、たたみの上うえに、小林こばやし君くんをころがしておいて、手ても足あしも、グルグルまきに、しばりあげてしまいました。

「サァ、これでいい。しばらく、がまんしているんだ。まさか、うえ死じには、させやしないからね。」

老人ろうじんは、そう言いいすてて、部屋へやのそとに出でると、板戸いたどをしめて錠じょうまえにガチンとかぎをかけました。そして、階段かいだんをおりてゆく足音あしおとがきえたあとは、あたりはひっそりと、しずまりかえってしまいました。

小林こばやし君くんは、ころがったまま、部屋へやの中なかを見みまわしました。右みぎと左ひだりはかべ、いっぽうは板戸いたど、のこるいっぽうは窓まどになっていますが、そこには、がんじょうな鉄てつのこうしがとりつけてあるのです。これでは、逃にげだす見みこみは、まったくありません。

小林こばやし君くんは、とうとう、まけてしまったのでしょうか。四十よんじゅう面相めんそうが、さっき、かけていた電話でんわは、なにを意味いみするのでしょう。「れいの品しな」というのは、第だい四よんの黄金おうごんのどくろのことではないのでしょうか。もしそうだとすると、小林こばやし君くんが、ここにかんきんされているあいだに、四十よんじゅう面相めんそうは、やすやすと、第だい四よんの黄金おうごんどくろを手てに入いれ、暗号あんごうをといてしまうかもしれません。そして、ほんとうの持主もちぬしである博士はかせたちを、だしぬいて、財宝ざいほうのありかを、発見はっけんしてしまうかもしれません。

小林こばやし君くんはほんとうに、まけたのでしょうか。いや、いや、まだ、まけたとはきまりません。少年しょうねんながらも、おそろしい知恵ちえをもっている小林こばやし君くんのことです。どんな切きり札ふだを用意よういしていないともかぎりません。

それにしても、四十よんじゅう面相めんそうが宮永みやながという人ひとと、やくそくした九きゅう時じまでには、もう四十よんじゅう分ふんほどしかありません。どこにも出口でぐちのない密室みっしつにかんきんされ、しかも、グルグルまきにしばられて身みうごきもできない小林こばやし君くんが、そのわずかの時間じかんに、どうして、四十よんじゅう面相めんそうのじゃまをすることができるのでしょう。まったく、見みこみがないように、みえるではありませんか。では、小林こばやし君くんは、やっぱり、まけてしまったのでしょうか。

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