← Library‹ 怪奇四十面相 明智探偵の登場

小林こばやし少年しょうねんは、四十よんじゅう面相めんそうを、まんまと、二に階かいの部屋へやにとじこめて、古こ道具どうぐ屋やの店みせをかけだすと、見みおぼえておいた、近ちかくの公衆こうしゅう電話でんわまで、ひといきに走はしって、そこにある電話でんわ帳ちょうをしらべました。

小林こばやし君くんは、さっき四十よんじゅう面相めんそうが電話でんわでしゃべっていた、宮永みやながという姓せいと、九きゅう段だんの三さん八はち五ご〇れいという電話でんわ番号ばんごうを、ちゃんとおぼえていました。一いち度ど聞きいたことは、けっしてわすれないという、地獄じごく耳みみです。探偵たんていにとっては、これが、ひじょうにだいじなことです。

小林こばやし君くんは、電話でんわ帳ちょうをひろげ、まず見みだしで宮みやという字じのページをみつけ、宮永みやながという姓せいのならんでいるところをひらいて、その中なかから、九きゅう段だんの三さん八はち五ご〇れい番ばんをさがしました。指ゆびでたどってゆくと、その番号ばんごうが、ありました。宮永みやなが庄太郎しょうたろうという人ひとで、住所じゅうしょは靖国神社やすくにじんじゃの近ちかくの、ある町まちで、番地ばんちもハッキリわかりました。

それをたしかめると、小林こばやし君くんは送話そうわ器きをはずして、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょをよびだし、明智あけち先生せんせいに電話でんわ口くちに出でてくださるように、たのみました。

「先生せんせいですか、ぼく小林こばやしです。いま、あいつを、古こ道具どうぐ屋やの二に階かいにとじこめて、公衆こうしゅう電話でんわまでかけつけたところです。ええ、ふうせんと発煙はつえん筒とうで、うまくやったのです……。あいつは、九きゅう段だんの宮永みやながという人ひとの所ところへ、九きゅう時じに行いくことになっています。その宮永みやながという人ひとが、第だい四よんの黄金おうごんどくろを持もっているらしいのです。あいつは古こ道具どうぐ屋やのじいさんに化ばけて、それを買かいとろうとしているのです。宮永みやながという人ひとの住所じゅうしょは……。」小林こばやし君くんはその所ところの名なと番地ばんちを言いいました。「ぼくはすぐ、そこへかけつけます。先生せんせいも来きてください。ぼくのような子こどもでは、あいてが信用しんようしません。なるべく先生せんせいにごめいわくかけないつもりでしたが、こんどは、たすけてください。でないと、失敗しっぱいするかもしれません。それから、警察けいさつのほうへも、先生せんせいから電話でんわしてください……。エッ、あいつですか、だめです。いまごろは、もう二に階かいのドアをやぶって逃にげだしたかもしれません。ですから、宮永みやながという人ひとに、先生せんせいから電話でんわで、だれが来きても、あわないように、言いってください。番号ばんごうは九きゅう段だんの三さん八はち五ご〇れいです……。じゃあ、ぼくは、タクシーをひろって、宮永みやながさんのところへ、かけつけます。先生せんせいもできるだけ早はやく、来きてください。」

てきぱきと、必要ひつようなだけのことを話はなし、「しょうちした。」という明智あけち先生せんせいの返事へんじをきくと、電話でんわを切きって、公衆こうしゅう電話でんわのそとへ、とびだしました。

タクシーをひろうのに、ちょっと、てまどったので、小林こばやし少年しょうねんが、九きゅう段だんの宮永みやなが家かについたときには、九きゅう時じ十じゅう分ふんになっていました。

宮永みやなが氏しのうちは、靖国やすくに神社じんじゃの近ちかくの、しずかな屋敷やしき町まちにあるりっぱな邸宅ていたくです。その大おおきな門もんをはいって、玄関げんかんのベルをおすと、わかい女中じょちゅうが出でてきました。

「明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの小林こばやしというものです。明智あけち探偵たんていからお電話でんわしたはずですが……。」というと、女中じょちゅうはニッコリ笑わらってみせて、

「ええ、わかっております。明智あけち先生せんせいはもう来きていらっしゃいますよ。あなたが、おいでになることも、うかがっていました。どうかこちらへ……。」

と、先さきに立たって、応接おうせつ間あいだへあんないするのでした。

「やっぱり先生せんせいだなあ。なんて、すばやいのだろう。」

小林こばやし君くんは感心かんしんしながら、女中じょちゅうのあとについて、りっぱな洋ようふうの応接おうせつ間かんにはいりました。見みると、まるいテーブルをかこんで、明智あけち先生せんせいと、主人しゅじんの宮永みやながさんらしい人ひととが、話はなしをしていました。そして、テーブルの上うえには、黒くろい博士はかせ邸ていの地下ちか室しつで見みたのと、そっくりの黄金おうごんどくろが、さんぜんと、かがやいていたではありませんか。

「ああ、小林こばやし君くん、おそかったねえ……。宮永みやながさん、これが助手じょしゅの小林こばやしです。まだ子こどもですが、こんどの事件じけんは、すっかり、ひとりでやっているのですよ。」

明智あけち探偵たんていが、紹介しょうかいしますと、主人しゅじんの宮永みやなが氏しも、にこにこして、

「やあ、小林こばやしくんですか。きみのことは、新聞しんぶんでよく読よんでいますよ。だが、こんなかわいらしい少年しょうねんだとは思おもわなかった。さあ、ここへおかけなさい。いま、先生せんせいから、きみのてがら話はなしをうかがったところですよ。」

と、テーブルのまえの、ソファをすすめるのでした。

宮永みやなが氏しは、五十ごじゅう歳さいぐらいの、りっぱな紳士しんしです。頭あたまは、もうほとんど白しろくなり、にゅうわな目めに、ふちのほそいメガネをかけ、かりこんだ口くちひげのある、つやつやした顔かお、和服わふくのきながしに、へこおびをまきつけて、大おおきなソファに、ゆったりと、かけています。

「宮永みやながさん、いまもお話はなしたとおり、小林こばやし君くんは古こ道具どうぐ屋やに化ばけた四十よんじゅう面相めんそうを、一室いっしつにとじこめてきたのですが、相手あいてが相手あいてですから、けっして、ゆだんはできません。いまごろは、その部屋へやからぬけだして、なにか、思おもいもよらぬ変装へんそうをして、おたくのまわりをうろついているかもしれません。」

明智あけちが言いいますと、宮永みやなが氏しは、きみ悪わるそうに、あたりを見みまわしながら、

「まさか、あの老人ろうじんの道具どうぐ屋やが、有名ゆうめいな四十よんじゅう面相めんそうとは、思おもいもよりませんでした。じつにおどろくべき変装へんそう術じゅつですね。あなたがたが、おいでくださらなかったら、わたしは、この黄金おうごんどくろを、あいつに、売うりわたしてしまうところでした。これは十じゅう年ねんもまえに、ある道具どうぐ屋やから手てに入いれたのですが、そんなふかいいわれがあろうとは、すこしも知しらなかったのですよ。」

「そうでしょう。四十よんじゅう面相めんそうは、そこへ、つけこんだのです。これは、金かねのねうちとしても、たいへんなものですが、それよりも、どくろのあごのうしろに、小ちいさな字じできざんである文句もんくに、おそろしいねうちがあるのです。何百なんびゃく億おく、何千なんぜん億おくという、ねうちがあるのです。四十よんじゅう面相めんそうは、このかなの文句もんくを、見みたことは見みたのでしょうな。」

明智あけちがたずねますと、宮永みやなが氏しはうなずいて、

「むろん、見みております。しかし、わざわざ買かいとろうというのを見みると、まだ、この文句もんくをおぼえていないのかもしれません。それとも、その三さん人にんのかたに買かいとられては、たいへんだと、先手せんてをうったのでしょうかね。」

「おそらく、その、両方りょうほうでしょう。この文句もんくは、すこしも意味いみがわからないのですから、紙かみにうつしでもしなければ、そらでは、ちょっとおぼえにくいでしょうね……。それにしても、これは、じつにふしぎな文句もんくですね。」

明智あけちは、そう言いいながら、前まえにある黄金おうごんどくろを、手てにとって、うらがえして見みるのでした。そこには、豆まめつぶほどの小ちいさな字じで、つぎのような三さん行ぎょうの文句もんくが、ほりつけてありました。

ゆるのり

んなさと

でんがざ

「ゆるのり、んなさと、でんがざ。なんのことか、まるでわかりませんね。宮永みやながさんは、この文句もんくについて、考かんがえてごらんになったことがありますか。」

「なにしろ、たいせつな美術びじゅつ品ひんのことですから、いちおうは考かんがえてみました。友ともだちにも見みせました。しかし、だれにもわからないのです。なにかの暗号あんごうかもしれないとは思おもいましたが、お話はなしのような、おそろしいねうちのある暗号あんごうだなんて、想像そうぞうもしませんでした。」

「フーン、たくさんのお友ともだちに、見みせられたのですね。すると、そのなかに、四十よんじゅう面相めんそうか、四十よんじゅう面相めんそうの手下てしたのやつが、お友ともだちに化ばけて、まじっていたかもしれませんね。でなければ、とつぜん、古こ道具どうぐ屋やに変装へんそうして、買かいにくるはずがありませんよ。」

明智あけちはそう言いって、じっと暗号あんごう文字もじに見入みいっていました。その、意味いみのない文句もんくを、頭あたまの中なかに、きざみこむように、おそろしい目めで、にらみつけていました。

やがて、黄金おうごんどくろをテーブルにおくと、明智あけちは「ちょっと、お手洗てあらいを。」と言いって、立たちあがり、宮永みやなが氏しが呼よんでくれた女中じょちゅうのあとについて、部屋へやを出でてゆきました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%