← Library‹ 怪奇四十面相 まっ黒な目

飛行ひこう機きには小林こばやし少年しょうねんと、三さん人にんの黄金おうごんどくろの持もちぬしのうちの、黒井くろい博士はかせと松野まつのさんが乗のって、さきに出発しゅっぱつし、もうひとりの八木やぎさんは、どくろ島とう探検たんけんの助手じょしゅをやとって、あとから、汽車きしゃで行いくことになりました。

黒井くろい博士はかせと松野まつのさんと小林こばやし少年しょうねんとは、双眼そうがん鏡きょう、懐中かいちゅう電灯でんとう、長ながいロープ、登山とざん用ようのピッケルなど、怪かい島とう探検たんけんの道具どうぐを、いろいろ用意よういし、みがるな服装ふくそうで、飛行ひこう場じょうにいそぎ、ぶじ新聞しんぶん社しゃの飛行ひこう機きにのりこみました。

その小型こがた飛行ひこう機きは、一いち時間じかんもかからないで、名古屋なごや市しの郊外こうがいの飛行ひこう場じょうに着陸ちゃくりく、そこには、電話でんわでたのんでおいた自動じどう車しゃが、まちかまえていました。三さん人にんはやすむひまもなく、その自動じどう車しゃにのりこんで、急行きゅうこう電鉄でんてつの駅えきにかけつけ、電車でんしゃで三重みえ県けんの南みなみの終点しゅうてんまで、それからまた自動じどう車しゃをやとって、森戸もりと崎さきの近ちかくのさびしい漁師りょうし町ちょうにつきました。

明智あけちが暗号あんごう文ぶんをといて、新聞しんぶん社しゃとうちあわせ、いそぎにいそいで、出発しゅっぱつの用意よういをととのえたのが、午後ごご三さん時じでした。名古屋なごやまでは一いち時間じかんでも、それからさきが四よん時間じかんほどかかったので、森戸もりと崎さきについたのは、もう夜よるの八はち時じ半はんごろでした。

その漁師りょうし町ちょうには、さいわい、小ちいさな宿屋やどやがありましたので、三さん人にんは、そこへとまることにし、東京とうきょうの明智あけち探偵たんていのところへ電報でんぽうをうち、また、急行きゅうこう電鉄でんてつの終点しゅうてんの駅えきに、とめおきの電報でんぽうで、あとからくる八木やぎさんにあてて、町まちの名なと宿屋やどやの名なを知しらせました。

もし、四十よんじゅう面相めんそうが、三さん人にんよりはやく、東京とうきょうを出発しゅっぱつしたとしても、せいぜい二に時間じかんか三さん時間じかんのちがいしかないはずです。旅客りょかく機きでとぼうとしても、時間じかんがうまくあいませんから、汽車きしゃで来くるほかはないのです。それなら、いまごろは、まだ汽車きしゃに乗のっているか、終点しゅうてんの駅えきについたばかりでしょう。その駅えきから、汽車きしゃも電車でんしゃもない道みちが、ひじょうに長ながいのですから、とても今夜こんやのまには、あいません。どこかで、ひとばんとまって、あすの朝あさ、自動じどう車しゃをたのむことになるでしょう。ですから三さん人にんが、あすの夜よあけに、船ふねに乗のれば、四十よんじゅう面相めんそうに、先手せんてをうたれる心配しんぱいは、すこしもないわけです。

三さん人にんは、二に通つうの電報でんぽうをうたせたあとで、宿屋やどやの主人しゅじんを呼よんで、どくろ島とうのことをたずねてみました。

主人しゅじんは六十ろくじゅう歳さいにちかい、正直しょうじきそうなじいさんでしたが、三さん人にんが、どくろ島とうを探検たんけんすると聞きくと、「とんでもない。」といわぬばかりに目めをまるくして、顔かおのまえで、手てをふってみせるのでした。

「どんな事情じじょうが、おありか、ぞんじませんが、それは、およしなさいませ。あれは魔まの島しまです。おそろしい主ぬしがすんでいるのです。」と、さも、こわそうに言いうのです。黒井くろい博士はかせは、にこにこして、

「いったい、どんな主ぬしがすんでいるのですか。」

と、たずねました。

「それは、だれも知しりません。その主ぬしを見みたものは、死しんでしまったからです。もう五ご、六ろく年ねんまえのことですが、みんなが、とめるのもきかずに、このまちの、ひとりの若わかい漁師りょうしが、どくろ島とうのほらあなのなかへ、はいったのです。それは『底そこなしのほらあな』と言いわれているのですが、その漁師りょうしは、どこまで、穴あながつづいているか、さぐってみるのだと言いって、懐中かいちゅう電灯でんとうをもって、ひとりで、おくへ、おくへと、はいっていったのです。

友ともだちの漁師りょうしたちは、ほらあなのそとで、長ながいあいだ、まっておりました。いまに出でてくるか、いまに出でてくるかと、まっておったのです。すると……。」

宿屋やどやの主人しゅじんのじいさんは、そこで、ことばをきって、さも、おそろしそうに、あたりを見みまわすのでした。

「すると、どうしたのですか。」

小林こばやし少年しょうねんが、まちかねて、たずねます。

「すると、ほらあなの、ずうっと、おくのほうから、かすかに、キャーッという、悲鳴ひめいが聞きこえてきたのです。みんなが、まっさおになって、顔かおみあわせていますと、しばらくして、ほらあなの中なかから、その若わかい漁師りょうしが、ころがるように、とびだしてきました。

見みると、魔まものにひきさかれたのか、岩いわかどでやぶれたのか、着物きものはズタズタにちぎれ、顔色かおいろは土つちのようで、『たすけてくれッ。』と、さけんで、そこにたおれたまま、気きをうしなってしまいました。

友ともだちたちは、その若者わかものをかいほうして、船ふねに乗のせ、うちまでとどけてやりましたが、若者わかものは、それから熱病ねつびょうになって、床とこについたまま、みんなが、なにをたずねても、返事へんじもせず、みょうなうわごとばかり口くちばしりながら、ひと月がつもたたないうちに、死しんでしまいました。魔まものにみいられて、とり殺ころされたのです。」

「それで、その若者わかものは、どんなうわごとを、口くちばしったのですか。」

黒井くろい博士はかせが、たずねますと、じいさんは、また、こわそうに、あたりを見みまわして、

「いろんなことを、言いったそうです。しかし、そのわけは、だれにもわかりません。さようです。こんなことを言いったそうです。ええと……、『おそろしいッ。たすけてくれッ。でっかい、まっ黒くろな目めが、にらんでいる。』とね。まっ黒くろな目めというのは、どんな目めだか、わかりませんが、それが、たえず、まぼろしのように、あの男おとこに、つきまとっていたらしいのですよ。

それからもうひとつ、おぼえていますが、『金色きんいろの化ばけものだ。金色きんいろのまさかりのような歯はで、おれをくい殺ころそうとした。』と、いうようなことを、口くちばしったそうです。なんにしても、あのほらあなのおくには、えたいのしれない、化ばけものがすんでいるにちがいありません。

それからというもの、漁師りょうしたちは、けっして、あのどくろ島とうへ、ちかよらないのです。悪わるいことはもうしません。だんなさまがたも、すいきょうなまねは、およしなさるが、よろしゅうございます。だいいち、あの島しまへ、船ふねを出だせとおっしゃっても、みんな、こわがっておりますから、だれも、しょうちいたしますまい。」

じいさんの話はなしをきいて、三さん人にんは顔かおを見みあわせました。化ばけものなどを、信しんじもしなければ、こわがるわけでもありませんが、船ふねをたのむことができないというのは、じつに、こまった話はなしです。黒井くろい博士はかせはしばらく考かんがえたあとで、ひざをのりだして、じいさんを、ときつけようとしました。

「いや、わたしたちの探検たんけんには、ふかいわけがあるので、けっして、やめることはできないのです。それに、その化ばけものは、ほらあなのおくにいるのでしょう。だから、ほらあなへ、はいらなければいいじゃありませんか。ただ、船ふねを、あの島しまへつけてくれればいいのですよ。お礼れいはじゅうぶん出だします。勇気ゆうきのある人ひとをさがしてください。」

そんなふうに、たのんでも、じいさんは、なかなか、しょうちしませんでしたが、黒井くろい博士はかせは、お礼れいの金高きんだかを、だんだん、せりあげて、しまいには、船ふねの持もちぬしにも、船ふねをこいでくれる人ひとにも、また、島しまのあんないをしてくれる人ひとにも、ひとりに十じゅう万まん円えんずつ、お礼れいをすると、言いいだしたものですから、じいさんも考かんがえなおして、「それじゃあ、ひとつ、心こころあたりを、たずねてみましょう。」ということになり、部屋へやを出でてゆきましたが、三十さんじゅう分ふんほどして、三さん人にんのたくましい漁師りょうしをつれて、かえってきました。

「この三さん人にんが、十じゅう万まん円えんずつくださるなら、船ふねを出だすともうしております。しかし、島しまにあがって、ごあんないはしますが、けっしてほらあなの中なかへは、はいらないから、それだけは、念ねんをおしておいてくれ、と言いうのです。」

見みますと、ひとりは船ふねの持もちぬしという五十ごじゅうぐらいの漁師りょうしで、あとのふたりは、二十にじゅう四、五しご歳さいの、くっきょうな若者わかものです。

そこで、黒井くろい博士はかせは、松野まつのさんや小林こばやし少年しょうねんとも、相談そうだんして、この三さん人にんをやとうことにきめ、あすの朝あさ、夜よるがあけしだい、船ふねを出だすようにたのみ、そのほかの、こまごましたことを、いろいろ、うちあわせたうえ、漁師りょうしたちをかえし、三さん人にんも、床ゆかにつきました。

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