← Library‹ 怪奇四十面相 洞窟探検

岩いわの上うえの若者わかものは手旗てばたで、「タレカ。」とたずねておいて、またしばらく双眼そうがん鏡きょうを目めにあてていましたが、やがて、にこにこして、岩山いわやまをかけおりてきました。そして、息いきをはずませながら、

「八木やぎさんです。八木やぎさんが、ふたりの人ひとをつれて、いま、着ついたっていうんです。」

と、どなりました。

「よし、それじゃ、すぐに船ふねで、むかえにいくんだ。じいさんに、そう言いってくれたまえ。」

黒井くろい博士はかせが、さしずしますと、若者わかものは、どくろ島とうの岸きしにまっている船ふねのところへ、走はしっていって、年としとった漁師りょうしに、このことをつたえました。すると、その小船こぶねは、ポンポンと発動はつどう機きの音おとをさせて、島しまをはなれていくのでした。

小船こぶねがむこうの岸きしについて、八木やぎさんたちを乗のせてかえってくるのに、一いち時間じかんあまり、かかりました。黒井くろい博士はかせたちは、まちどおしい思おもいをして、それをまっていましたが、やがて、かえってくる小船こぶねの形かたちが、だんだん大おおきくなり、乗のっている人ひとの顔かおも見みわけられるようになりました。

「オヤ、八木やぎさんは、頭あたまに、ほうたいを、まいている。左手ひだりてにもまいている。どうしたんだろう。けがでもしたのかな。」

黒井くろい博士はかせが心配しんぱいらしく、つぶやきました。いかにも、船ふねの上うえに、こちらをむいて立たっている八木やぎさんの頭あたまと、左手ひだりてに、白しろいきれが、まきつけてあるのが見みえます。

しばらくすると、発動はつどう機きのポンポンいう音おとが、パッタリやんで、小船こぶねは、岩いわの入江いりえの中なかへ、しずかにすべりこんできました。そして、八木やぎさんたちの一行いっこうの三さん人にんが上陸じょうりくします。

「どうしたんです。けがをしたのですか。」

まず、それをたずねますと、八木やぎさんは、にが笑わらいをして、

「ころんだのですよ。とちゅうで、自動じどう車しゃをおりて、やすんでいるときに、ちょっとしたがけから、転ころがり落おちたのです。さいわい、消毒しょうどく薬やくやほうたいを用意よういしていたので、その場ばで手てあてをしました。なあに、たいしたことはありません……。それから、ここにいる、ふたりは、東京とうきょうからつれてきた、わたしの知しりあいで、登山とざんの大家おおやです。気きごころもしれていますし、こんどの探検たんけんには、うってつけの人ひとたちです。」

と、そばに立たっている、ふたりの青年せいねんを、紹介しょうかいしました。ふたりとも二十にじゅう五ご、六ろく歳さいで、漁師りょうしの若者わかものにもまけない、りっぱな体格たいかくの、たのもしげな青年せいねんです。

おたがいに、東京とうきょうでわかれてからのことを話はなしあっているうちに、ひきしおの時ときがきたとみえて、漁師りょうしの若者わかものが、洞窟どうくつの滝たきがとまったと、知しらせてきました。

それではというので、漁師りょうしに持もたせてあったリュックの中なかから、べんとうをとりだして、まず、おなかをこしらえてから、岩いわのデコボコ道みちを、洞窟どうくつの入いり口ぐちまでたどりつき、いよいよ、その中なかへ、はいることになりました。

漁師りょうしの若者わかもののふたりは、化ばけものをこわがって、どうしても、はいりませんので、探検たんけん隊たいは、黒井くろい博士はかせ、松野まつのさん、八木やぎさん、小林こばやし少年しょうねん、八木やぎさんのつれてきたふたりの青年せいねんの、つごう六ろく人にんです。

六ろく人にんがめいめい、一ひとつずつ懐中かいちゅう電灯でんとうを持もち、黒井くろい博士はかせたちはステッキを、小林こばやし君くんとふたりの青年せいねんは、登山とざん用ようのピッケルを持もっています。これが、いざというときの武器ぶきにもなるわけです。

洞窟どうくつの中なかには、たくさん枝道えだみちがあって、迷路めいろのようになっていると聞きいていたので、道みちをまよわないために、リュックの中なかに用意よういしてきた、長ながい麻あさひもを、洞窟どうくつの入いり口ぐちの岩いわかどに、しばりつけ、そのひもを持もって、だんだん、のばしながら、すすんでいくことにしました。そうすれば、道みちにまよって、かえれなくなる心配しんぱいがないからです。

登山とざんになれた青年せいねんのひとりが、さきにたち、麻あさひものたばをのばしながらすすむと、そのあとから、黒井くろい博士はかせ、小林こばやし少年しょうねん、松野まつのさん、八木やぎさん、いまひとりの青年せいねんというじゅんで、洞窟どうくつの中なかへ、はいりました。

みんなが、ふりてらす懐中かいちゅう電灯でんとうで、あたりはよく見みえるのですが、頭あたまの上うえからのしかかる、デコボコの黒くろい岩いわはだが、まるで巨大きょだいな怪獣かいじゅうの口くちの中なかのようで、なんともいえぬ、おそろしさです。それに、いつも水みずが流ながれているため、岩いわがヌメヌメと、すべりやすく、ころばないように歩あるくだけでも、たいへんです。

洞窟どうくつの入いり口ぐちは、見みあげるほど、大おおきいのですが、すすむにつれて、だんだん、せまくなり、やがて、道みちがふたつになっているところに、さしかかりました。怪獣かいじゅうの、のどのおくが、ふたつの穴あなにわかれているのです。右みぎの穴あなは、いままでと同おなじヌメヌメした、ひろい道みち。左ひだりの穴あなはせまくて、いきなり、上うえのほうへのぼる坂道さかみちになっています。

「むろん、この小ちいさいほうの穴あなへ、はいるんだよ。暗号あんごうに『ゆんでゆんでとすすむべし』と書かいてあったんだからね。」

黒井くろい博士はかせが、さしずしました。『ゆんで』とは、左ひだりのほうという意味いみの、むかしのことばです。

その小ちいさい穴あなにはいると、坂道さかみちは、かなりきゅうで、よつんばいにならなければ、歩あるけないほどです。

「アア、わかった……。ぼくはふしぎに思おもっていたのですよ。あんなに滝たきのように水みずが流ながれるんだから、もし、穴あなが下したのほうにむいていたら、水みずがたまってしまって、とても、はいれないはずですからね。ところが、こっちの穴あなは、こんな、きゅうな坂さかになっているので、水みずがはいらないのですね。だから、安全あんぜんな、宝たからものの、かくし場所ばしょなんですね。」

小林こばやし君くんが言いいますと、黒井くろい博士はかせも、うなずいて、

「そうだよ。わしも、いま、それを言いおうと思おもっていたところだ。じつに、安全あんぜんなかくし場所ばしょだね。ひきしおの時ときのほかは、水みずが流ながれだしていて、とても、はいれないし、たとえ、水みずがとまっても、まさか、こんなところに、宝たからものが、かくしてあろうとは、だれも考かんがえないからね。」

しばらく、その坂さかになった穴あなをのぼると、たいらな道みちになり、つぎには、くだり坂さかにかわりました。右みぎに左ひだりに、まがりながら、穴あなは、どこまでも、下したへ下したへとおりていきます。二百にひゃくメートルも用意よういした、大おおきな麻あさひものたばが、もう四よん分ぶんの一いちも、のびていました。つまり、入いり口ぐちから五十ごじゅうメートルほど、おくのほうへ、すすんでいたのです。

穴あなはもう、ひどくせまくなって、ところによっては、しゃがまなければ、すすめないほどです。そうかと思おもうと、とつぜん、ひろくなって、懐中かいちゅう電灯でんとうのひかりが、天井てんじょうの岩いわにとどかないほどの場所ばしょもあり、それがまた、にわかに、せまくなるのです。

ずいぶん、ながいあいだ、下したのほうへおりていきましたが、いまでは、ほとんど、たいらな道みちになりました。たいらといっても、岩穴いわあなのことですから、道みちはひどいデコボコで、うっかりしていると、つまずいて、ころぶのです。そのうえ、だんだん、枝道えだみちが多おおくなり、そのたびに左ひだりへ左ひだりへと、すすんでいくのですから、いま、どのへんにいるのか、まるで、けんとうもつきません。

のぼり坂ざかよりはくだり坂さかのほうが、ずっと長ながかったので、もう、海面かいめんよりも下したにいるのでしょうが、それが、入いり口ぐちから、どの方角ほうがくにあたるのか、すこしもわかりません。

いったい、このほらあなは、どこまでつづいているのでしょうか。二百にひゃくメートルの麻あさひもが、すっかりなくなっても、まだ、宝たからのかくし場所ばしょに、たっしなかったら、どうするのでしょう。いや、それよりも、黒井くろい博士はかせや小林こばやし君くんたちは、なにか、おそろしいことに、であうのではないでしょうか。漁師りょうしの若者わかものが見みたという、あの、えたいのしれない化ばけものは、どこにいるのでしょうか。それとも、化ばけものより、もっとおそろしい、なにごとかが、ゆくてのやみのなかに、まちかまえているのではないでしょうか。

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