← Library‹ 怪奇四十面相 悪魔の知恵

黒井くろい博士はかせは、大だいどくろの黄金おうごん板いたを、指ゆびでコツコツたたいて、鋲びょうでとめたぐあいを、しらべていましたが、そばにいる松野まつのさんと八木やぎさんにむかって、言いうのでした。

「この何千なんぜん枚まいという、金かねの板いたをはがすのは、大おおしごとですね。道具どうぐも、持もってこなかったし、われわれ六ろく人にんの力ちからでは、ちょっと、むりかもしれませんね。」

「そうですよ。われわれは、いったん陸りくにかえって、てきとうな技師ぎしをたのんで、おおぜいの人ひとをつれて、もう一いち度ど、出でなおしてくるほかはないでしょうね。それに、土地とちの警察けいさつにも、とどけでて、保護ほごをねがう必要ひつようがあります。なにしろ、この宝たからものは、怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうが、ねらっているのですからね。」

松野まつのさんが考かんがえぶかく言いいました。

「わたしも、それがいいと思おもう。しかし、手てぶらで、かえったのでは、なかなか、土地とちの人ひとが、信用しんようしないだろうから、この金かねの板いたを二、三にさん枚まいはがして、しょうこに持もってかえることにしよう。道具どうぐがなくても、二に枚まいや三さん枚まい、はがすのは、なんでもありませんよ。」

博士はかせは、そういって、大だいどくろのあごのへんを、コツコツたたいていましたが、

「なんにしても、めでたい。われわれは、とうとう、もくてきをたっしたのです。これだけの黄金おうごんは、じつに、ばくだいなねうちですよ。われわれは、これを国庫こっこにおさめて、そのかわりに、紙幣しへいをもらえばいいのだから、国くにのためにも、たいへんな、利益りえきになるわけです。ながいあいだ、暗号あんごうを研究けんきゅうした、かいがありましたね。おたがいに、こんなうれしいことはない……。しかし、しごとにかかるまえに、いっぷくしましょう。みなさんも、ずいぶん、つかれたでしょう。」

博士はかせは、洞窟どうくつの一方いっぽうのすみに、腰こしをおろし、ポケットから、タバコを出だして、火ひをつけました。人々ひとびとも、それにならって、思おもい思おもいの場所ばしょに、腰こしをおろして、水筒すいとうの水みずをのんだり、タバコをすったりするのでした。

そうして、しばらくやすんでいるうちに、ふしぎなことがおこりました。まず松野まつのさんが、コックリ、コックリと、いねむりをはじめ、それから、八木やぎさんも、小林こばやし少年しょうねんも、ふたりの青年せいねんも、つぎつぎと、おなじように、コックリ、コックリ、やりだしました。しばらくすると、腰こしをおろしていたのが、グッタリと、横よこになり、つめたい岩いわの上うえに、ながながと、ねそべるものもあり、グーグーと、いびきの音おとさえ聞きこえ、みんな、前後ぜんごも知しらず、ねこんでしまったようすです。

六ろく人にんのうちで、たったひとり、おきていたのは黒井くろい博士はかせです。博士はかせはみんなの肩かたを、つぎつぎとゆりうごかして、ほんとうに寝ねてしまったことをたしかめると、なぜか、ニヤリと笑わらいました。半白はんぱくのフサフサしたかみの毛け、太ふといふちのロイドめがね、三角さんかくがたのあごひげ、その、ひとくせありげな博士はかせの顔かおが、うすきみ悪わるく、ニヤリと、笑わらったのです。

「オヤオヤ、みなさん、たわいもなく、寝ねこんでしまいましたね。これはどうしたことです。わたしひとり、のこされては、さびしいじゃありませんか。だが、みなさん、これから、どんなことが、おこると思おもいますね。いいですか。一いっそうの快速かいそく艇ていが、どこからともなく、この島しまへやってくるのです。それには、十じゅう人にんの、わしの友ともだちが乗のっている。うでっぷしの強つよいやつばかりです。

快速かいそく艇ていは、もういまごろは、島しまの岸きしについている。十じゅう人にんの友ともだちが上陸じょうりくして、小船こぶねの番ばんをしている、じいさんの漁師りょうしを、ひっとらえ、それから、洞窟どうくつの入いり口ぐちにまっている、ふたりの若者わかものを、ひっとらえ、三さん人にんとも、しばりあげてしまう。

そうしておいて、十じゅう人にんの友ともだちは、この穴あなへはいってくる。麻あさひもの道みちしるべがあるから、まよう気きづかいはない。いま、じきに、ここへやって来きますよ。そして、ねむっているみなさんを、しばってしまう。あとには、わしと、十じゅう人にんの友ともだちだけだ。なにをしようと、だれも、じゃまをするものはない。そこで、わしたちは、なにをはじめると思おもいますね。ウフフフ……。」

黒井くろい博士はかせは、そう言いって、さもうれしそうに、ぶきみな笑わらいをもらすのでした。

そのとき、ねむっていた五ご人にんの中なかから、人ひとの声こえが聞きこえてきました。

「むろんきみたちは、金かねの板いたを、すっかり、はがしてしまうのさ。そして、それを穴あなのそとへ、はこびだし、快速かいそく艇ていにつみこんで、どこともしれず、ゆくえをくらます。フフン、じつに、うまく考かんがえたねえ。悪魔あくまの知恵ちえは、おくそこが知しれないねえ。ワハハハ……。」

ひともなげな、たかわらいが、洞窟どうくつに反響はんきょうして、ワーン、ワーンと、おそろしい、ひびきをたてました。

黒井くろい博士はかせは、ギョッとして、思おもわず身みがまえました。

「だれだッ、いま、笑わらったのは、だれだッ。」

「ぼくだよ。きみのひとりごとが、あんまりおもしろかったので、つい目めがさめてしまったのだよ。」

そう言いって、ノコノコおきあがってきたのは、顔かおにほうたいをした八木やぎさんでした。

「さては、きみは、さっきのコーヒーを、のまなかったな。」

「のまなかったよ。なんだか、すこし、にがすぎたのでね。」

さっき、とちゅうで、黒井くろい博士はかせが、みんなにのませたコーヒーには、ねむりグスリが、はいっていたのです。みんなは、そうとも知しらず、コーヒーをのんだので、こんなに、ねむりこんでしまったのです。しかし、六ろく人にんのうち、ほんとうに、コーヒーをのんだのは三さん人にんだけでした。あとの三さん人にんは、のむまねをして、のまなかったのです。それは黒井くろい博士はかせと八木やぎさんと、それからもうひとり……。そのひとりが、だれであったか、読者どくしゃ諸君しょくんは、もうおわかりでしょうね。

「フーン、すると、八木やぎさんは、いまの、わしのひとりごとを、すっかり、聞きいたのですか。」

黒井くろい博士はかせが、いちじのおどろきから立たちなおって、おちつきはらった声こえで、たずねました。

「聞ききましたよ。そして、悪魔あくまの知恵ちえに、すっかり、感心かんしんしてしまったのです。」

八木やぎさんは、博士はかせのほうへ、近ちかづきながら、これも、おちついた声こえで答こたえました。ふたりとも、左手ひだりてに懐中かいちゅう電灯でんとうをもって、おたがいの顔かおをてらしあいながら、話はなしているのです。

「で、きみはどうするつもりです。わしの味方みかたになりますか、それとも、敵てきにまわりますか。」

「味方みかたになれば、この黄金おうごんを、ふたりで山やまわけにしよう、と言いうのですか。」

「マア、そんなことですね。山やまわけでは、これだけの計画けいかくをたてた、わしのほうが、ちと、ひきあわないがね。」

「しかし、山やまわけでは、ぼくは、ふしょうちですよ。」

「エッ、ふしょうちだって? それじゃ、どうすればいいのだ。」

「みんなもらいたい。きみはこの黄金おうごんについて、なんの権利けんりも、持もっていないのだ。」

八木やぎさんの声こえは、だんだん、強つよくなってきました。博士はかせはそれを聞きくと、またギョッとしたように、ひと足あし、うしろにさがりました。三角さんかくひげが、異様いようにふるえ、ロイドめがねの中なかの、両眼りょうめがグッとほそくなって、みるみる、邪悪じゃあくの形相ぎょうそうにかわってきました。

「ナニッ、この黒井くろい博士はかせが、なんの権利けんりも、持もっていないというのかッ。」

「黒井くろい博士はかせは権利けんりを持もっている。だが、きみは黒井くろい博士はかせじゃない。まっかな、にせものだッ。」

八木やぎさんのはげしい声こえが、洞窟どうくつ内ないにひびきわたりました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%