← Library‹ 怪奇四十面相 怪人対小林少年

それをきくと、あいては、ギョッとしたように、小林こばやし君くんをつかんでいた手てをゆるめましたが、たちまち、気きをとりなおして、うすきみ悪わるく、ニヤニヤと、笑わらいだすのでした。

「ウフフフ……、えらい、えらい、きみはりこうだねえ。探偵たんていの助手じょしゅにしておくのはおしいくらいだ。おれも、きみのような弟子でしがほしくなったよ……。ところで、おれが四十よんじゅう面相めんそうだったら、きみはどうしようと、言いうんだね。」

そして、明智あけち探偵たんていのふんそうをした四十よんじゅう面相めんそうの顔かおが、グーッと小林こばやしの目めのまえにせまり、両腕りょううでが小林こばやし君くんの肩かたを、おそろしい力ちからで、しめつけてくるのでした。でも、小林こばやし君くんはへいきです。

「どうもしないよ。もう、この劇場げきじょうは、警官けいかん隊たいに、とりかこまれているんだよ。きみは、いまに、つかまるばかりだよ。」

「ウヌッ、それじゃ、きさまは。」

さすがの四十よんじゅう面相めんそうも、サッと顔色かおいろがかわったようです。

「きみが楽屋がくやにいるあいだに、ぼくが明智あけち先生せんせいに電話でんわをかけたんだよ。そして、先生せんせいからすぐに警察けいさつへれんらくしたので、いまごろは、世界せかい劇場げきじょうのまわりは、おまわりさんに、とりかこまれているはずだよ……。それで、きみ、どうするの? もう、とても逃にげられやしないよ。」

そのとき、四十よんじゅう面相めんそうは、すっかり、どきょうをきめたようにみえました。かれは、この危急ききゅうのばあいに、おちつきはらって、ニヤニヤ笑わらいだしたのです。そして、大おおきなてのひらで、小林こばやし少年しょうねんの頭あたまを、さもかわいいといわぬばかりに、なでているのです。なんという、おくそこのしれない怪物かいぶつでしょう。

「警官けいかん隊たいが、この劇場げきじょうをとりまいているというのかい。ハハハ……、ゆかいだねえ。おれは、こういう冒険ぼうけんが三さん度どのめしよりも、すきなんだよ。小林こばやし君くん、見みててごらん。おれは、かならず、逃にげてみせる。みごとに、やってのけるよ。まあ、ゆっくり見物けんぶつしたまえ。」

「で、どうするの?」

「これから舞台ぶたいへ出でて、芝居しばいをやるのさ。」

明智あけちのふんそうをした四十よんじゅう面相めんそうは、小林こばやし少年しょうねんをつきはなすと、そのままあとも見みないで、舞台ぶたいのほうへ立たちさるのでした。ちょうど、そのとき、「透明とうめい怪人かいじん」劇げきに明智あけちのやくが、登場とうじょうする時間じかんがきていたからです。

ああ、なんという大胆だいたん不敵ふてき、警官けいかん隊たいが劇場げきじょうをかこみ、ジリジリとその輪わをせばめているというのに、かれは舞台ぶたいに出でて、満員まんいんの見物けんぶつの前まえで、芝居しばいを演えんじようというのです。かれは、はたして、この難局なんきょくを、うまく切きりぬける自信じしんがあるのでしょうか。

こうして、全ぜん日本にっぽんをおどろかせた、あの世界せかい劇場げきじょうの大だい活劇かつげきがいよいよ、はじまろうとしているのです。

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