← Library‹ 怪奇四十面相 校庭の異変

ここは千葉ちば県けん市川いちかわ市しから、あまり遠とおくないS村そんの、S小しょう学校がっこうの校庭こうていです。

世界せかい劇場げきじょうの塔とうから、四十よんじゅう面相めんそうが、アドバルーンでとびさった、あくる日ひのお昼ひるすぎのことです。ちょうど、やすみ時間じかんで、生徒せいとたちは、S小しょう学校がっこうのひろい校庭こうていに、みちあふれていました。

野球やきゅうをするもの、かけっこをするもの、すみのほうにかたまって、女おんなの子こらしいあそびをしている女じょ生徒せいとたち、ほうぼうから、ワーッ、ワーッ、という声こえがあがって、たいへんな、さわがしさでした。

そのとき、まっさおに晴はれわたった空そらの、はるかかなたにポッツリと、黒くろい点てんがあらわれ、それが、すこしずつ大おおきくなっていきました。

その黒くろい点てんが、だんだん、ふくれて、野球やきゅうのボールほどになったとき、校庭こうていであそんでいた生徒せいとのひとりが、やっと、それに気きづきました。

「みてごらん、ホラ、あすこから、へんなものが、とんでくるよ。」

すると、まわりにいた、ほかの生徒せいとたちも、空そらのかなたをみつめました。

「へんだなあ。あれ、空そらとぶ円盤えんばんかもしれないよ。」

「まさか。でも、だんだん大おおきくなるね。こっちへ、とんでくるんだよ。」

そのまるいものが、フットボールぐらいの大おおきさになったときには、校庭こうていにいた生徒せいとのぜんぶが、空そらをみつめていました。何百なんびゃく人にんの男おとこの子こと女おんなの子こが、もう身みうごきもしないで、一ひとつところを、みつめているのです。いままで、さわがしかったのが、シーンと、しずまりかえって、なんだか、おそろしいような感かんじでした。

「やあ、なんだか、さがっているよ。赤あかい字じだよ。」

「ふうせんだ。やあ、銀色ぎんいろに光ひかってらあ、あれ、広告こうこくふうせんだよ。」

はじめは黒くろく見みえていたのが、大おおきくなるにしたがって、銀色ぎんいろに光ひかってきたのです。

「アドバルーンだ。あれ、アドバルーンっていうんだよ。」

みんながガヤガヤ言いっているあいだに、その銀色ぎんいろの大だいふうせんは、風かぜにおくられて、グングンちかづいてきました。

「やあ、へんだなあ。つなに人間にんげんがぶらさがってらあ。まっ黒くろな人間にんげんが、ぶらさがってらあ。」

少年しょうねんたちは、怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうが、アドバルーンにつかまって逃にげたことを、まだ知しりません。ですから、まっ黒くろな人間にんげんのさがったふうせんが、とんできたのが、ふしぎでしかたがありませんでした。

あまり、さわがしいので、先生せんせいたちも、校庭こうていへ出でてこられましたが、先生せんせいにもわけがわかりません。みんなといっしょに、空そらをながめて、ふしぎがるばかりです。

大だいふうせんは、もう、みんなの頭あたまの上うえに、せまっていました。浮うく力ちからをうしなって、おそろしい、いきおいで、落おちてくるのです。ガスがぬけてしまったのか、銀色ぎんいろの大だいふうせんは、いっぱい、しわがよっています。

「わあ、でっかいなあ。」

ほんとうに、でっかいふうせんです。

「あの黒くろい人ひと、死しんでるのかしら。ちっともうごかないわ。」

女おんなの子こが、目めざとく、それに気きづいて、かんだかい声こえで、さけびました。

「ほんとだ。死しんでるのかもしれないね。」

「わあ、たいへんだ。ふうせんは、ここへ落おちてくるよ。」

いかにも、大だいふうせんはS小しょう学校がっこうの校庭こうていをめがけて、グングン落おちてくるのです。

「みんな、あぶないから、教室きょうしつのほうへ、よるんだ。」

先生せんせいのさけび声ごえに、生徒せいとたちは、なだれをうって逃にげまどいます。

「ワーッ、落おちた、落おちた。」

ワーッ、ワーッという、さわぎのなかに大だいふうせんは校庭こうていに落おちてきました。そして地面じめんとすれすれに、フワフワと風かぜにふきおくられています。そのうしろのつなには、かたちのくずれた赤あかい布ぬのの大だい文字もじがくっつき、あのまっ黒くろな人間にんげんも、いっしょに、ズルズルと地面じめんをひきずられていくのです。

上級じょうきゅう生せいのゆうかんな少年しょうねんたちが、十じゅう人にんほど、大だいふうせんにむかって、かけよりました。そして、みんなで、つなにすがりついて、ふうせんが風かぜにふかれるのを、ひきとめてしまいました。

すると、先生せんせいがたも、そこへ、かけつけて、まっ黒くろな人間にんげんを、だきおこそうとしました。

「アッ、これは人間にんげんじゃない。」

「エッ、人間にんげんじゃないって?」

「さわってみたまえ、ゴツゴツしている。こんなかたい人間にんげんって、あるもんか。」

ふたりの男おとこの先生せんせいは、ふしぎそうに、顔かおを見みあわせていましたが、ひとりの先生せんせいが、いきなり、その黒くろい人間にんげんのかぶっていた、ふくめんをはぎとりました。

「なあんだ。こりゃあ人形にんぎょうじゃないか。よくショウウインドウにかざってある、マネキン人形にんぎょうだよ。」

「どうりで、なんだか、かたいとおもった。やっぱり人間にんげんじゃなかったのだね。」

先生せんせいは安心あんしんしたように、つぶやくのでした。それを聞きくと、生徒せいとたちも、ワーッと、そこへかけよりました。そして、黒衣こくいの人形にんぎょうをとりかこんで、押おすな押おすなのさわぎです。

それから、まもなく、学校がっこうの小使こづかいさんの知しらせによって、駐在ちゅうざい所しょの警官けいかんが、かけつけてきました。警官けいかんは怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうがアドバルーンで逃にげたことを、ちゃんと知しっていたのです。しらべてみると、たしかに、世界せかい劇場げきじょうのアドバルーンでした。透とおる、明あきら、怪かい、人ひとという大だい文字もじが、なによりのしょうこです。

それなのに、そのふうせんに、ぶらさがっていたのが、四十よんじゅう面相めんそうではなくて、人形にんぎょうだったとは、いったいどうしたわけなのでしょう。警官けいかんは首くびをかしげて、考かんがえこんでしまいました。

読者どくしゃ諸君しょくん、このわけが、おわかりですか。

あの悪わるがしこい四十よんじゅう面相めんそうが、海うみのまんなかへ落おちるかもしれないアドバルーンなどで逃にげるはずがありません。かれは、いざというときの身みがわりに、まえもって、人形にんぎょうを用意よういしておいたのです。黒くろいシャツを着きせ、黒くろふくめんをさせた人形にんぎょうを、塔とうの屋上おくじょうの、コンクリートの怪獣かいじゅうのかげに、かくしておいたのです。

そして、その人形にんぎょうをアドバルーンのつなに、しばりつけ、さも、自分じぶんが空中くうちゅうへ逃にげたように見みせかけたのです。警官けいかん隊たいも、消防しょうぼう官かんも、この思おもいもよらぬ、ごまかしに、まんまとひっかかってしまったのです。

しかし、それなら、ほんとうの四十よんじゅう面相めんそうは、いったい、どこへ、かくれてしまったのでしょう。警官けいかん隊たいにとりかこまれた、あの塔とうの上うえから、逃にげるみちは、空そらへでものぼるほかには、まったくなかったはずではありませんか。

そこが奇術きじゅつ師しの怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうです。かれは、みんなの目めを、アドバルーンに、ひきつけておいて、そのすきに、ふしぎな手品てじなを、つかったのです。あのおおぜいの警官けいかん隊たいの目めを、みごとに、くらましてしまったのです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%