← Library‹ 宇宙怪人 樹上の名探偵

ゆりかさんをかかえた怪人かいじんは、走はしりにはしって、れいの巨大きょだいなカシの木きのある、あき地ちまでたどりつきました。そして、カシの木きの幹みきに、もたれかかって、ホッと、ひといきついているようすでした。

宇宙うちゅう怪人かいじんは、いつも、このカシの木きの上うえから、空そらに飛とびたったのです。今夜こんやも、そうするつもりなのでしょう。ひとやすみすると、ゆりかさんをかかえなおして、グッと上うえのほうを、にらみました。

四方しほうに枝えだをのばして、あき地ちぜんたいを、おおいかくすほど、よくしげった、大おおきなカシの木きです。

怪人かいじんが見みあげていますと、枝えだと枝えだ、葉はと葉はが、かさなりあって、まっくらな中なかから、かすかなもの音おとが、聞きこえました。そして、その音おとが、だんだん、大おおきくなってくるのです。ガサガサと、なにか生いきものが、高たかい枝えだの上うえを、はっているような音おとでした。

怪人かいじんは、ふしぎそうに、その音おとのするほうを、見みあげましたが、なにも見みえません。ただ、ガサガサいう音おとが、ますます、ひどくなるばかりです。

音おとのようすでは、小ちいさな動物どうぶつではありません。よほど大おおきなやつです。しかし、東京とうきょうの町まちのなかに、サルがいるはずはないのです。いったい、なにものが、木きの上うえに、ひそんでいるのでしょう。

怪人かいじんは、よほどふしぎに思おもったらしく、銀ぎん仮面かめんを空そらにむけて、身みうごきもせず見みつめていましたが、やがて、たまらなくなったのか、

「ダレダ、ソコニイルヒト、コタエナサイ、ダレダ。」と、奇妙きみょうな、しわがれごえで、どなりました。

すると……

「ハハハハ……。」

高たかい木きの枝えだの上うえから、いきなり、人間にんげんの笑わらいごえがきこえました。そして、ガサガサと葉はのすれあう音おとがして、下したから見みえる大おおきな枝えだの上うえに、黒くろいものがあらわれました。人間にんげんです。黒くろい洋服ようふくをきた人間にんげんです。遠とおくの街灯がいとうのひかりで、おぼろげに、そのすがたが見みわけられるのです。

「ダレダ、キミ、ダレダ。」

怪人かいじんが、おびえたような声こえで、どなりました。

「ハハハハ……、人間にんげんだよ。明智あけち小五郎こごろうという日本にっぽん人にんだよ。」

木きの上うえの人ひとが答こたえました。ああ、明智あけち探偵たんていはこんなところにかくれていたのです。それにしても、木きの枝えだの上うえの名めい探偵たんていとは、なんという、ふしぎな、とりあわせでしょう。

「ア、ケ、チ、コ、ゴ、ロ……、ア、ケ、チ、コ、ゴ、ロ……。」

怪人かいじんは、ひとりごとのように、つぶやきました。

「りこうなきみは、ぼくの名なを、ちゃんと知しっているはずだ。きみにとっては、いちばん、おそろしい敵てきなんだからね。」

「アケチ、シッテル、アケチ、ナゼ、キノウエニ、イルカ。」

「きみがくるのを、まっていたのさ。きみは、このカシの木きの上うえから、飛とびたつにきまっているのだからね。ぼくは、ここにがんばって、きみの神通力じんつうりきのじゃまをしているんだよ。わかったかね。」

樹上じゅじょうの名めい探偵たんていは、なぞのようなことを言いいました。しかし、怪人かいじんには、その意味いみがわかったものとみえて、きゅうに、あわてだしたようです。そして、いきなり、ゆりかさんを、地面じめんにおいたまま、その場ばを逃にげだしました。ものをも言いわず、ひじょうな早はやさで、カシの木きの下したから走はしりさり、またたくまに、そのすがたは、やみの中なかに消きえうせてしまいました。

明智あけち探偵たんていは、ゆっくり、木きの上うえからおりると、怪人かいじんを追おっかけようともせず、そこにたおれていたゆりかさんを、だきおこし、ハンカチのさるぐつわをとって、かいほうするのでした。

こうして、ゆりかさんは、たすかったのです。しかし、なぜ、宇宙うちゅう怪人かいじんは、ゆりかさんをすてて逃にげだしたのでしょう。星ほしの世界せかいの怪人かいじんが、明智あけち探偵たんていを、それほどおそれるわけがあるのでしょうか。じつにふしぎです。さっき、木きの上うえから、明智あけち探偵たんていが言いったことばに、なにか秘密ひみつがあるのかもしれません。まるで魔法まほうのような力ちからでした。怪人かいじんではなく、ぎゃくに、明智あけちのほうが、魔法まほうつかいになったように見みえるのでした。

それから、明智あけちはゆりかさんを、ぶじにおうちへつれかえり、おとうさんや一郎いちろう君くんに、手てわたしました。そのころには、コンクリートのくらのほうにいた捜査そうさ課か長ちょうをはじめ、おおぜいの人ひとが、平野ひらの君くんのおうちへ来きていましたので、それらの人々ひとびとが、明智あけち探偵たんていをとりかこんで、そのてがらを、ほめたたえるのでした。

明智あけちは、ただ、笑わらっているばかりで、くわしいことは、なにも言いいません。名めい探偵たんていだけが知しっている秘密ひみつがあるのです。しかし、まだ、それをうちあけることができないのです。ああ、いったい、それは、どんな秘密ひみつだったのでしょうか。

ところが、そのよく朝あさ、東京とうきょうじゅうの人ひとをアッと言いわせるような、ふしぎなことが、おこりました。

上野うえの公園こうえんの五ご重じゅうの塔とうのてっぺんの、あのヤリのような鉄棒てつぼうに、ひとりの少年しょうねんがつかまって、ふるえていたのです。ボロボロにやぶれた服ふくをきた、乞食こじきのような少年しょうねんでした。それに気きづくと、塔とうのまわりは、おそろしい人ひとだかりになりました。あの子こどもは、いったいどうして、あんな高たかいところへ、のぼることができたのかと、それが、なにより、ふしぎでした。

それから、警察けいさつや消防しょうぼう署しょの人々ひとびとが、かけつけ、塔とうのいちばん上うえの階きざはしから、まるたで足場あしばを組くんで、半日はんにちがかりで、やっと少年しょうねんをたすけおろしたのですが、これが、その日ひの夕刊ゆうかんに、大おおきな写真しゃしん入いりでのったものですから、東京とうきょうじゅうの人ひとが、そのさわぎを知しって、びっくりしてしまいました。その少年しょうねんは、チンピラ別働べつどう隊たいのひとりでした。宇宙うちゅう怪人かいじんは、明智あけち探偵たんていにじゃまをされたのを、おこって、そのしかえしのために、チンピラ隊たいのひとりをとらえて、空そらをとび、五ご重じゅう塔とうのてっぺんに、おきざりにしたのです。少年しょうねんの話はなしで、それがわかりました。

「こわかったぜ。大おおきなコウモリのようなはねで、フワフワと、空そらを飛とぶんだもん。まるで飛行ひこう機きにのってるみたいだった。だが、塔とうのてっぺんにおきざりにされたときは、もう、死しぬかと思おもった。夜よるがあけるまで、だれも来きてくれないんだもん。ほんとにおそろしかったよ。」

少年しょうねんはチンピラ隊たいのなかまへ帰かえったとき、身みぶるいしながらそんなふうに話はなして聞きかせるのでした。

さて、ゆりかさんをつれさることに失敗しっぱいした怪人かいじんは、つぎには、どんなおそろしいことを、たくらむのでしょう。

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