← Library‹ 宇宙怪人 ヘリコプター

平野ひらのゆりかさんは、ひとまず、ぶじにすみました。しかし、宇宙うちゅう怪人かいじんの地球ちきゅうへの来襲らいしゅうは、そんな小ちいさな事件じけんでおわるものではありません。宇宙うちゅう怪人かいじんのひとりが、ふと、ゆりかさんのかわいらしさにひかされて、みちくさをしていたのです。ゆりかさんが、ぶじにたすかったその日ひのことです。世界せかいの空そらを、電波でんぱがとびちがっていました。そして、世界せかいじゅうのラジオがわめき、世界せかいじゅうの新聞しんぶんが、大おおきな活字かつじで、おそろしいことを書かきたてました。

どこかの遠とおい星ほしの世界せかいから、地球ちきゅうのようすをさぐりにやってきた、トカゲ怪人かいじんは、まず、日本にっぽんとアメリカにあらわれたばかりでなく、こんどは、ソビエトの都とモスクワの空そらに、七ななつの円盤えんばんがとんだのです。そして、それがモスクワの郊外こうがいの、どこかに着陸ちゃくりくして、中なかから、トカゲ怪人かいじんがあらわれたことも、日本にっぽんやアメリカと、そっくりでした。

それからの一いち週間しゅうかんには、つぎからつぎと、おそろしいことがおこり、世界せかいじゅうが、ひっくりかえるような、さわぎになったのです。

空そらとぶ円盤えんばんは、ドイツの都とベルリンにもあらわれました。フランスのパリからも、円盤えんばんの飛とぶのを見みたという無電むでんがはいりました。イギリスにも、おなじようなうわさがおこり、そのほか、インドにも、中国ちゅうごくにも、アフリカにさえも、円盤えんばんが飛とんだというしらせがあり、ラジオは、きちがいのようにわめきたて、号外ごうがいのすずが、町々まちまちに、ひびきわたりました。

ほんとうに、地球ちきゅうはじまっていらいのさわぎです。こうして何千なんぜん、何なん万まんという怪かい円盤えんばんが、地球ちきゅうにおしよせ、その中なかから、トカゲのからだにコウモリのはねをもった、あの怪かい人種じんしゅが、何なん万まん、何十なんじゅう万まんとあらわれたら、いったい、この地球ちきゅうの人間にんげんは、どうなるのでしょう。それを考かんがえると、世界せかい戦争せんそうどころのさわぎではありません。

世界せかいじゅうの人々ひとびとが、おそろしさに、ふるえあがってしまいました。いまにも、地球ちきゅうの空そらが、かぞえきれない円盤えんばんと、トカゲ怪人かいじんで、まっ黒くろにおおわれてしまうのではないか。そして、地球ちきゅうの人間にんげんの全滅ぜんめつするときが、近ちかづいたのではないかと、もう生いきたそらもないのでした。

どこの国くにでも、政府せいふは、科学かがく者しゃをよびあつめ、軍ぐんの参謀さんぼう部ぶと連絡れんらくして、宇宙うちゅう怪人かいじん征伐せいばつのてだてを、しんけんに相談そうだんしました。そして、このことで、国際こくさい会議かいぎがひらかれるうわささえありました。

日本にっぽんでも、だんだん、おそろしいことがおこっていました。えらい科学かがく者しゃが、ゆくえ不明ふめいになりました。有名ゆうめいな俳優はいゆうが、どこかへ、すがたをけしてしまいました。アメリカでも、日本にっぽんでも、世間せけんにしられた、えらい人ひとが、つぎつぎとさらわれていくのです。ラジオも、新聞しんぶん記事きじも、毎日まいにち毎日まいにち、そのことばかりです。

そのうちに、日本にっぽんにいる宇宙うちゅう怪人かいじんが、けっして、ひとりでないことがわかってきました。

ある日ひ、東京とうきょうの新聞しんぶん社しゃの写真しゃしん部ぶ員いんが、空そらからのけしきを、写真しゃしんにとるために、操縦そうじゅう士しとふたりで、ヘリコプターにのって、神奈川かながわ県けんのほうをまわって、夕ゆうがた、東京とうきょうに帰かえってきたのですが、そのとちゅうはるかに東京とうきょうの町まちが見みえはじめたころ、目めのまえの空中くうちゅうに、みょうなものが、飛とんでいるのに気きがつきました。

「オイ、あれ、カラスじゃないね。へんな鳥とりだね。」

写真しゃしん部ぶ員いんが操縦そうじゅう士しに言いいました。

「コウモリみたいだね。」

「そうじゃない。よく見みたまえ、はねはコウモリとそっくりだが、からだが、ちがうよ。アレッ、へんだな、あの鳥とり、洋服ようふくをきているよ。」

そう言いったかとおもうと、写真しゃしん部ぶ員いんは、まっさおになってしまいました。

一ひとつ、二ふたつ、三みつ、四よんつ……、かぞえてみると、同おなじかたちのやつが、八ようつも、飛とんでいるのです。遠とおくのやつは小ちいさく、点てんのように、近ちかくのやつは大おおきく、奇妙きみょうな洋服ようふくすがたが、ハッキリ見みえます。

「オイッ、宇宙うちゅう怪人かいじんだぜ。どうする?」

どうすると言いって、武器ぶきをもたないヘリコプターでは、どうすることもできません。ただ、できるだけ早はやく、東京とうきょうについて、応援おうえんを、もとめるほかはないのです。

やがて、近ちかくを飛とんでいた宇宙うちゅう怪人かいじんが、すぐ目めのまえに、あらわれました。

ヘリコプターのガラスばりの操縦そうじゅう席せきと、スレスレのところを、二にひきの怪人かいじんが、大おおきなコウモリのはねをひろげて、飛とんでいるのです。

逃にげようともしません。おそいかかってくるわけでもありません。

二にひきの宇宙うちゅう怪人かいじんは、こちらが、なにもできないことを知しって、ヘリコプターの中なかの人間にんげんを、からかっているのです。へんな飛とびかたをして見みせたり、ガラスに顔かおをくっつけるばかりにして、あざけっているのです。

二にひきの怪人かいじんは、れいの銀ぎん仮面かめんをかぶっていました。帽子ぼうしは、おりたたんで、ポケットへでも、しまっているのでしょう。頭あたまも、かみの毛けのかたちも銀色ぎんいろです。

ヘリコプターの中なかのふたりは、くやしいけれども、どうすることもできません。ただ、東京とうきょうの本社ほんしゃへと、いそぐばかりです。

やがて、宇宙うちゅう怪人かいじんは、いつまでもからかっていては、あぶないと思おもったのか、ヘリコプターのそばをはなれて、はるかむこうの、なかまのほうへ、飛とびさっていきました。そして、八ようつの怪かいコウモリのすがたは、だんだん小ちいさくなり、まもなく、夕空ゆうぞらにとけこむように、見みえなくなってしまいました。

機上きじょうのふたりは、あまりのことに、しばらくは、口くちもきけませんでした。おそろしい夢ゆめを見みたような気持きもちでした。しかし、やがて、東京とうきょうの町まちの上うえにさしかかると、ふたりは、やっと、声こえが出でるようになりました。

「オイ、とくだねだぜ、こいつは……。八はちぴきいたね。宇宙うちゅう怪人かいじんが、八はちぴきも東京とうきょうにいるなんて、だれも知しらないんだからね。」

「そうだよ。しかも写真しゃしん入いりの特大とくだい記事きじだ。」

「エッ、きみ、写真しゃしんとったのか。」

「ウン、むがむちゅうで、シャッターを切きったよ。あいつらに、さとられないようにね。そこは、おれの本職ほんしょくだからね。宇宙うちゅう怪人かいじんの写真しゃしんをとったのは、おれが世界せかいでさいしょだろうぜ。」

写真しゃしん部ぶ員いんは、ほこらしげに言いうのでした。

まもなく、ヘリコプターが新聞しんぶん社しゃにもどり、編集へんしゅう部ぶの全員ぜんいんが、ふたりのまわりを、とりかこんで、この話はなしをきいたのです。そのときの新聞しんぶん社しゃのさわぎも、たいへんでしたが、よく日ひ、この記事きじと写真しゃしんを見みた東京とうきょう都民とみんのおどろきは、ことばでは、言いいつくせないほどのものでした。

いつかは、宇宙うちゅう怪人かいじんのむれで、東京とうきょうの空そらが、まっ黒くろになるかもしれない。そして、地球ちきゅうのさいごが来くるかもしれないというおそれが、人々ひとびとをふるえあがらせてしまったのです。

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