それから一週間ばかり、なにごともなく、すぎさりました。その夜、虎井博士邸から帰った小林少年が、明智探偵に、ことのしだいを、くわしく報告したことは、いうまでもありません。
その一週間のあいだ、虎井博士から明智探偵事務所に、まいにちのように、電話が、かかってきました。虎井博士は、あの晩、小林少年だけをよこして、かんじんの明智探偵がきてくれなかったことを、残念に思っているのです。
「明智さん、あんたは、なぜ、わしのねがいを、聞いてくれないのですか。わしは、怪物にねらわれている。今夜にも、あいつに、さらわれてしまうかもしれない。すぐに来てください。そして、わしをたすけてください。」
虎井博士は、電話口で、いつもきまったように、そんなことを言うのでした。ところが、明智探偵はなぜか、すぐに行くとは、いいません。その返事もきまりきっているのです。
「わかりました。できるだけはやく、おたくへいきます。もうすこし待ってください。ぼくは、いそがしいのです。それもほかの仕事ではありません。やっぱり、宇宙怪人のことです。ぼくは、べつの方面から、あいつをしらべているのです。そのために、まいにち、すこしも、ひまがないのです。ぼくは、いま、あいつを見はっています。ですから、ぼくがおたくへいくまでは、あいつはけっして、あなたに害をくわえるようなことはありません。ご安心ください。」
そういって、いつも電話をきってしまうのでした。
その一週間というもの、明智探偵は、たえず、どこかへ出かけて、いそがしく、はたらいていましたが、事務所へ帰ってきたときには、なんだかイライラしたような心配そうな顔をしていました。
やがて、一週間がすぎさった、ある日のこと、警視庁から電話がかかってくると、にわかに、明智の顔が、はれやかになりました。そして、ニコニコしながら、ほうぼうへ、しきりと電話をかけたり、自動車をよんで、どこかへ、でかけたりしていましたが、その夕方、
「サア、いよいよ解決だ。小林君、虎井博士に電話をかけて、これからすぐいきますといってくれたまえ。博士をよろこばせてやるんだよ。もう宇宙怪人は、ふたたびあらわれないんだからね。」
と、小林君にいいつけました。そして、博士から、よろこんでお待ちしてますという返事をきくと、明智探偵と、小林少年は、自動車をとばして、江東区の虎井博士邸にいそぐのでした。
博士邸のげんかんには、れいの黒んぼうの自動人形が待ちかまえていて、
「ドウゾ、コチラヘ。」
と、ふたりを広い応接間へ、あんないしました。
「あれが、のぞき見をする鏡だね。」
明智探偵が、一方のかべの大きな鏡を、ゆびさしました。
「ええ、そうです。博士は、あのむこうがわから、ぼくたちを見にくるかもしれませんよ。」
すると、ドアのところに、ひょっこり、虎井博士の奇妙なすがたがあらわれ、
「いや、いや、明智先生にたいして、けっして、そんな失礼なことはしませんよ。」
と、ニヤニヤ笑いながら、テーブルの方へ近づいてくるのでした。
博士と明智探偵とが、あいさつのことばをかわして、イスにかけますと、そこへ、れいの美少年の助手が、コーヒーをはこんできました。
「明智先生、きょうは、なにかよい話を、もってきてくださったということで、わしは、たのしみにしておりましたよ。宇宙怪人のかくれがが、わかったのですか。」
博士がたずねますと、明智はニコニコして、
「そうです。かくれがを見つけたところではありません。宇宙怪人は、もう二どと、すがたをあらわさないのです。」
「ホウ、それはまた、どういうわけで?」
博士が、ふしぎそうな顔をしました。
「さっきから、窓のそとが、さわがしいようですね。なにか、かわったことが、おこったのではありませんか。」
明智は、そういって、へやの一方の窓のそばへ歩いていきました。すると、庭のむこうから、見はりをつとめている刑事のひとりが、かけよってきました。
「円盤です。円盤です。空とぶ円盤が、あらわれました。隅田川の船の人たちが見つけて、あんなにさわいでいるのです。」
それをきくと、虎井博士もふたりの少年も、窓ぎわへ、とんできました。
「どこに、どこに……。」
みんな、窓から、からだをのりだして、空を見あげるのでした。
「そこからは、見えません。庭へ出なければ見えません。」
応接間の四人は、大いそぎで、ろうかから庭へ、かけだしました。
見あげると、もう、うすぐらくなった夕方の空に、白いおさらのようなかたちのものが、一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、おお、やっぱり五つです。いつか銀座の空をとんだときと同じです。それが、千葉県の方にむかって、ひじょうな速さで、とんでいくのです。そして、みるみるうちに、五つのおさらは空のかなたにとけこむように、そのすがたをかくしました。
「さいしょ、日本へ来たのは、五つの円盤でしたね。いま、太平洋の方へ、とびさったのも五つだ。すると……。」
庭のまんなかに立って、空を見あげていた虎井博士が、となりの明智探偵の顔に目をうつして、つぶやきました。
「そうです。宇宙怪人は、日本をたちさったのです。そして、星の世界へかえっていくのです。もう、あのきみのわるい怪物が、われわれの前に、すがたをあらわすこともないでしょう。」
明智が、意味ありげにいいました。
「おやおや、すると、とうとう、逃がしてしまったというわけですか。さすがの名探偵も、星の世界の怪物には、かなわなかったというわけですか。」
「いや、逃がしたのじゃありません。ぼくは、宇宙怪人を、とりこにしたのです。」
「え、とりこにした。どこに、どこに?」
「それは、へやにはいって、ゆっくりお話しましょう。怪人の魔法のたねも、いろいろ、お目にかけますよ。」
庭には、七人の刑事が、円盤を見るために集まって、明智探偵のまわりをかこんでいました。
「きみたちは、やはり、そとをまもってください。まだ、ゆだんはできませんよ。」
明智はそういって、刑事たちに目くばせをしました。そして虎井博士とならんで、ふたりの少年をともない、うちのなかへはいっていきました。