← Library‹ 宇宙怪人 魔法の鏡

北村きたむらさんの話はなしはつづきます。

「そのとき、ぼくは、銀色ぎんいろのひかりの中なかで、トカゲの怪物かいぶつをハッキリ見みたのですが、ぜんたいのかたちが、どことなく人間にんげんに似にているのが、ふしぎでした。手てと足あしがあって、足あしだけで立たつこともできるのです。星ほしの世界せかいでも、いちばん便利べんりなかたちは、やっぱり、地球ちきゅうの人間にんげんとおなじなのかと、みょうな気きがしました。

しかし、この怪物かいぶつは、人間にんげんのおよびもつかない武器ぶきを持もっています。あの大おおきなはねです。地球ちきゅうの人間にんげんは飛行ひこう機きにのらなければ、空そらを飛とぶことができないのに、やつは、自分じぶんで飛とぶことができるのです。そのうえ、手足てあしの指ゆびのあいだに、水みずかきのようなものがついているのをみると、きっと、泳およぎも、うまいのでしょう。ワニのように、水みずをもぐったり、およいだりできるのでしょう。

水みず、陸りく、空そら、どこでも、自由じゆうに動うごきまわれるという怪物かいぶつです。いや、怪物かいぶつどころか、もっとも進歩しんぽした、万能ばんのうの生物せいぶつなのです。

からだには、トカゲのような、うつくしいしまがあります。むらさきとみどりと黄色きいろが、いりみだれて、まるで虹にじのようです。ただ、顔かおだけは、あまり、うつくしくありません。地球ちきゅうの動物どうぶつで言いえば、鳥とりによく似にています。目めの下したに鼻はながなく、すぐ口くちになっているのです。とんがった、大おおきな口くちです。しかし、歯はもきばもありません。むらさき色いろの歯はぐきのようなものが、見みえているだけです。

目めは、きこりが言いっていたとおり、ヘビの目めです。じっと見みられると、電気でんきにでもかかったように、からだがすくんで、身みうごきもできなくなります。地球ちきゅうでは想像そうぞうもできない、おそろしい目めです。あの目めを見みただけで、あらくれ男おとこのきこりが気きをうしないそうになったのも、もっともです。

円盤えんばんにつれこまれたさいしょは、怪物かいぶつのすがたが、あまり、いやらしく、おそろしいので、ぼくはもう、むがむちゅうでした。あいてを見みるのも、こわくて、目めをつぶったまま、うつぶせになっていました。あいつのすがたを、つくづくながめるようになったのは、二に、三み日かたって、いくらか、なれてきたからです。

それからひと月がつのあいだ、ぼくはこの怪物かいぶつといっしょにくらしたのですが、だんだん、なれるにつれて、あいてが、ぼくをとって食くおうというわけでもなし、それに、われわれ地球ちきゅうの人間にんげんには、とてもかなわないほどの、すばらしい知恵ちえを持もっていることも、わかってきましたので、おそろしさが、いくらか、すくなくなりました。あの虹にじのようなトカゲのからだが、かえって、うつくしく思おもわれてきたほどです。」

「だが、そいつは、なんのために、きみをさらっていったのでしょうね。べつに、危害きがいも、くわえなかったのですか。」

明智あけちが、ちょっと口くちをはさみました。

「それを、これからお話はなししようと思おもっていたのです。ぼくをさらったわけは、地球ちきゅうの、人間にんげんのことばを、ならいたかったからですよ。地球ちきゅう人にんのことばといっても、むろん、ぼくは日本にっぽん語ごしか、おしえられませんが、あいつは、日本にっぽん語ごを、わずかひと月がつで、あらかたおぼえてしまったのです。じつに頭あたまがいいのですね。一いち度ど、聞きいたことは、けっして、わすれないのです。まるで、レコードのように、ちゃんと頭あたまの中なかにきざみこんでしまうのです。

すこし話はなしができるようになったとき、ぼくが、地球ちきゅうには何十なんじゅうという国くにがあって、みんなことばがちがうのだと、おしえてやったら、あいつはビックリしていました。星ほしの世界せかいは、ぜんたいが、ひとつのことばなのでしょうね。

では、ぼくのほうでも、あいてのことばをおぼえたかと、おっしゃるのですか。ところが、それは、まったくだめなのです。あいても、なにかペチャペチャしゃべることは、しゃべるのですが、その意味いみは、すこしもわかりません。あいつは日本にっぽん語ごをおぼえるだけで、自分じぶんのことばを、ぼくにおしえようとはしません。だいいち、あいつが、どの星ほしからやってきたかということさえ、いくらたずねても、言いわないのです。円盤えんばんの機械きかいの秘密ひみつなども、これっぽっちも、おしえてはくれません。いくども、たずねると、こわい顔かおをして、おこりだすので、ぼくもあきらめてしまいました。

そんなふうに、せんぽうのことばが、すこしもわからなくて、どうして日本にっぽん語ごを、おしえることができたかと言いいますと、そこが星ほしの世界せかいですね。じつに、便利べんりな道具どうぐがあるのです。ぼくはそれを魔法まほうの鏡かがみとなづけたのですが、まったく魔法まほうの鏡かがみですよ。見みたところは、おぼんのような、まるい銀色ぎんいろの金属きんぞくです。それを顔かおの前まえにもってくると、ふつうの鏡かがみとちがって、顔かおはうつらないで、心こころがうつるのです。鏡かがみをもっている人ひとの、心こころに思おもっているものが、そのまま写真しゃしんのように銀ぎんのおぼんの表面ひょうめんに、あらわれるのです。つまり、心こころの写真しゃしんをうつすフィルムなんですね。どうしてうつるかというわけは、まったくわかりません。なにしろ、宇宙うちゅうのどこにあるかわからない星ほしの世界せかいの科学かがくです。地球ちきゅうの科学かがくでは、けんとうもつきません。魔法まほうとでもいうほかはないのです。

たとえば、あいてが、ぼくの服ふくを見みて、それはなんというものだと、聞ききたいときには、ぼくの服ふくを心こころに思おもえばよいのです。すると、ぼくの服ふくと同おなじものが鏡かがみにうつるので、ぼくはそれを見みて『フク』と、おしえてやればよいわけです。こういうおしえかたは、絵えをかいてもやれますが、魔法まほうの鏡かがみのほうが、どれだけ、手てばやいかわかりませんよ。

そんなふうにして、五いつ日かほどおしえているうちに、もう、ちょっとした会話かいわが、できるようになりました。すると、トカゲ男おとこは、さいしょに、おそろしいことを、ぼくに申もうしわたしました。

『キミ、ニゲル、ハイニナル。』

と、こう言いうのです。『きみが逃にげると、ハイになる。』という意味いみらしいのですが、『ハイ』とはなんでしょう。ハエのことでしょうか。やつは星ほしの世界せかいの魔法まほうで、ぼくをいっぴきのハエにかえてしまうつもりかと、びっくりしていますと、怪人かいじんは、すばやく円盤えんばんのそとへ、とびだしていって、しばらくすると、いっぴきの小こザルを、つかまえて、もどってきました。はねがあるのですから、木きの上うえのサルをとらえることなんか、わけはないのです。

やつは、その小こザルを、れいのやわらかい金属きんぞくで、しばりつけ、逃にげだせないようにしておいて、どこからか、てのひらの中なかにはいるような、銀色ぎんいろの、小ちいさな丸まるいものを持もちだしてきました。それは、一方いっぽうがとがっていて、ちょうどゴムのスポイトのような形かたちをしているのです。

トカゲ男おとこは、そのとがったほうを小こザルにむけて、まるい部分ぶぶんを、ギュッと、にぎりしめました。するとあのやわらかい弾力だんりょくのある金属きんぞくですから、スポイトと同おなじはたらきをして、中なかにはいっていた、なにかのガスが、白しろい煙けむりをはいて、サーッと小こザルにふきつけられたのです。

ああ、思おもいだしても、ゾッとします。あれは、なんという、おそろしいガスでしょう。それを、ふきかけられた小こザルは、アッというまに消きえてしまったのです。そして、小こザルのいたあとに、ひとつかみの灰はいがのこっているばかりでした。いっぴきの動物どうぶつが、一いちしゅんかんに、ひとつかみの灰はいにかわってしまったのです。

これで『ハイ』の意味いみが、わかりました。ハエではなくて、灰はいだったのです。怪人かいじんは、おまえも、逃にげだそうとすれば、このとおり、灰はいにしてしまうぞと、実物じつぶつで見みせてくれたわけです。」

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