← Library‹ 鉄塔の怪人 のぞきじいさん

怪物かいぶつ団だんの、ぶきみないたずらは、これだけではすみませんでした。そのおなじ日ひの夕方ゆうがた、高橋たかはし賢二けんじ少年しょうねんのおうちには、もっとおそろしいことが、おこるのです。一いち週間しゅうかんまえ、小林こばやし少年しょうねんに助たすけられた賢二けんじ少年しょうねんの上うえに、またしても、あやしい魔まの手てが、おそいかかってくるのです。

その日ひのおひるすぎ、賢二けんじ君くんが、にいさんの壮一そういち君くんにまもられて、ちょっと、おうちの外そとへ出でますと、その町まちかどに異様いような箱車はこぐるまをひいた、白しろひげのじいさんが、待まちかまえていました。

それは、このお話はなしのさいしょに出でた、あのきみょうな白しろひげのじいさんで、引ひいていたのはあのときののぞきカラクリの車くるまでした。これが、その日ひの、おそろしいできごとのまえぶれだったのです。

白しろひげをはやし、はでなしまの洋服ようふくをきたじいさんは、ふたりの少年しょうねんが出でてきたのを見みると、ニコニコしながら、手てまねきしました。

「さあ、きみたち、ここへおいで。そしてこののぞき穴あなから、中なかをのぞいてごらん。ふしぎなものが見みえるから。」

ふたりの少年しょうねんは、このじいさんを見みるのは、はじめてですから、べつにうたがいもせず、箱車はこぐるまのよこについている、ふたつののぞき穴あなに、それぞれ、目めをあてて、のぞいてみました。

すると、箱はこの中なかには、石いしをつみかさねた、いんきな、広ひろい部屋へやがありました。西洋せいようのむかしの、古ふるいお城しろの中なかとでもいうような感かんじです。それが、ひろびろとして、まるで、ほんとうの部屋へやのように見みえます。

のぞき穴あなには、レンズがはめてあるので、小ちいさな模型もけいが、何百なんびゃく倍ばいにも大おおきく見みえるわけです。

「きみたち、これをどこだとおもうね。日本にっぽんのどこかの山やまおくにある鉄塔てっとう王国おうこくのお城しろの中なかだよ。見みててごらん。いまにおもしろいことが、はじまるから。」

じいさんが、やさしい声こえでいいました。

すると、石いしの部屋へやの一方いっぽうの入口いりぐちから、なにかしら黒くろい虫むしのようなものが、はいだしてきました。それが一いちぴきだけではありません。つぎからつぎと、十じゅう何なんびきも、ゾロゾロはいだしてきたのです。それはカブトムシでした。みんな、背中せなかに白しろいもようがあります。よく見みると、あの気味きみのわるいがい骨こつの顔かおではありませんか。壮一そういち君くんも、賢二けんじ君くんも、びっくりして、のぞき穴あなから、目めをはなそうとしました。ところが、どうしたことか、首くびが動うごかないのです。目めをはなすことができないのです。

それは、ふたりの頭あたまを、じいさんの大おおきな両手りょうてが、グッとおさえつけていたからです。

「もうすこし、がまんしてみなさい。なにもこわいことはない。カブトムシは、箱はこの中なかから出でられやしない。いまに、おもしろいことがおこるから、よく見みているんだよ。」

じいさんは、ふたりの少年しょうねんの頭あたまを、おそろしい力ちからでおさえつけたまま、声こえだけは、ひどくやさしいのです。

レンズのはたらきで、一いちぴきのカブトムシが、人間にんげんほどの大おおきさに見みえます。それが十じゅう何なんびきもはいだしてきたのですから、じつにものすごいありさまです。

少年しょうねんたちは、こわいけれども、見みたい気持きもちもするので、おさえつけられたまま、目めもつぶらないでいました。

すると、やがて、たくさんのカブトムシのなかの、一いちぴきが、コロンとひっくりかえって、腹はらを上うえにして、もがきはじめました。賢二けんじ君くんたちはしりませんが、それは、同おなじ日ひの朝あさ、丸まるビルの中なかで、小林こばやし君くんのはいっている大おおカブトムシが、ひっくりかえったのと、そっくりのかたちでした。

やがて、レンズのむこうのカブトムシも、腹はらが二ふたつにさけたのです。そして、その中なかから、ひとりの少年しょうねんがあらわれたのです。おやっとおもって、見みつめていますと、十じゅう何なんびきのカブトムシが、つぎつぎと、ひっくりかえり、つぎつぎと、おなかがさけて、中なかから、ひとりずつ、かわいらしい少年しょうねんが、あらわれてきました。そして、その少年しょうねんたちは、列れつをつくって、石いしの部屋へやの中なかを、グルグルまわりはじめたのです。

「どうだね。おもしろいだろう。これは鉄塔てっとう王国おうこくのカブトムシ少年しょうねん隊たいだ。賢二けんじ君くん、きみもいまに、この少年しょうねん隊たいにはいるのだよ。そして、カブトムシのよろいをきせられて、訓練くんれんをうけるのだ。アハハハ……。」

じいさんは、長ながい白しろひげをピクピクふるわせながら、大おおきな口くちで笑わらいました。そして、賢二けんじ君くんたちの頭あたまをおさえていた手てをはなしました。

自由じゆうになったので、おもわず、じいさんの顔かおを見みあげますと、しわくちゃのじいさんは、大おおきな口くちをひらいて、赤あかい舌したをヘラヘラさせて、いつまでも笑わらいつづけています。その顔かおが、童話どうわに出でてくる魔法まほうつかいとそっくりに見みえました。

ふたりの少年しょうねんは、まるで背中せなかに氷こおりでもおしつけられたように、ゾーッとして、いきなりおうちのほうへ、かけだしました。うしろからじいさんの笑わらい声ごえがおっかけてくるようで、気きがとおくなりそうでしたが、やっとのことで、おうちの中なかへとびこむことができました。

いきせききってかけこんできた、ふたりの少年しょうねんの話はなしをきくと、おとうさんや書生しょせいなどが、その町まちかどへかけつけてさがしましたが、あのあやしいじいさんも、箱車はこぐるまも、どこへいったのか、かげも形かたちも見みえませんでした。賢二けんじ君くんたちは、まぼろしを見みたのでしょうか。それとも、あのじいさんは、ほんとうの魔法まほうつかいだったのでしょうか。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%