← Library‹ 鉄塔の怪人 怪自動車

みんなが、うまい考かんがえもうかばないで、地下ちか室しつに立たちならんだまま、ぼんやりしていたとき、うしろの階段かいだんから、なにか黒くろいかげのようなものが、地下ちか室しつへおりてきました。

「だれだっ、そこへきたのは、だれだっ。」

ひとりの刑事けいじが、それに気きづいて、いきなり懐中かいちゅう電灯でんとうをさしつけながら、どなりました。その電灯でんとうの光ひかりの中なかにうきだしたのは、きたない女おんなこじきでした。夕方ゆうがた、ご用ようききに変装へんそうした刑事けいじが、原はらっぱで出であったあの女おんなこじきでした。

「なあんだ、こじきか。いまごろ、どうしてこんなところへ、やってきたんだ。この地下ちか室しつで寝ねるつもりなんだろう。いけない。いけない。外そとへ出でろ。さあ出でるんだ。」

べつの刑事けいじが、女おんなこじきを、らんぼうにつきとばそうとしました。

ところが、こじきは、つきとばされるどころか、刑事けいじの手てをはねかえして、グングン前まえにすすんできます。みかけによらず力ちからのつよいやつです。そして、高橋たかはしさんの前まえまで来きて、みんなの方ほうにむきなおり、にこにこ笑わらいだしたではありませんか。

「こいつ、きちがいだな。こらっ、ここはおまえなんかの来くる場所ばしょじゃない。出でていけ。出でないと、ひどいめにあうぞ。」

刑事けいじにどなりつけられても、女おんなこじきはへいきです。そして、変へんなことをいいだしました。

「ここは、ぼくの来くる場所ばしょだよ。ぼくが来こなければ、きみたちでは、どうにもできないじゃないか。」

それは、はぎれのよい男おとこの声こえでした。またしても、わけのわからないことがおこりました。

女おんなこじきが、男おとこの声こえでしゃべっているのです。

「ハハハ……、わからないかね。ほら、これを見みたまえ。」

女おんなこじきは、そういいながら、手てをあげて、頭あたまの毛けをつかみ、グッと上うえにもちあげました。すると、きたないかみの毛けが、スポッとぬけて、その下したから男おとこの頭あたまがあらわれたではありませんか。女おんなのかみの毛けは、カツラだったのです。

下したからあらわれたのは、モジャモジャの男おとこの頭あたまでした。顔かおはススでもぬったようにまっ黒くろでしたが、よく見みると、どこか見みおぼえのある顔かおでした。

「あっ、それじゃ、あなたは……。」

「明智あけち小五郎こごろうです。おわかりになりましたか。」

ああ、そのきたない女おんなこじきは、名めい探偵たんてい明智めいちの変装へんそう姿すがただったのです。高橋たかはしさんも刑事けいじたちも、あっけにとられて、しばらくは口くちをきくこともできませんでした。

「ぼくは、ここへ刑事けいじ諸君しょくんをはりこませたら、かえって、あぶないと思おもったのです。怪人かいじん団だんは、もうひとつ、おくの手てを考かんがえるかもしれないとおもったのです。それで、だれにもしらさず、女おんなこじきにばけて夕方ゆうがたから、この原はらっぱを見みはっていました。そして、まんいちの場合ばあいには、とびだしてくるつもりだったのです。」

明智あけちは、まるで演説えんぜつでもするように話はなしはじめました。

「高橋たかはしさんが、札さつたばのふろしきづつみをさげて、地下ちか室しつへはいっていかれるのも見みていました。それから、しばらくして、高橋たかはしさんが、ひとりの少年しょうねんをつれて出でてこられたのも、刑事けいじ諸君しょくんが、そこへかけつけて、地下ちか室しつへおりていくのも見みていました。そして、そっと入口いりぐちの階段かいだんに近ちかづき、中なかのようすを聞ききますと、少年しょうねんが賢二けんじ君くんのかえだまだったことや、怪人かいじんが消きえうせたことがわかりました。

ところがぼくは、一いち度ども目めをはなさないで、この地下ちか室しつを見みはっていたのに、だれも、ここから出でていったものはなかったのです。この地下ちか室しつには、階段かいだんのほかに出入でいり口くちのないことはたしかです。

暗くらくなってから、原はらっぱのむこうに、一いち台だいの自動じどう車しゃがヘッドライトを消けしてとまっていました。ぼくは、ふと思おもいあたることがあったので、その自動じどう車しゃに注意ちゅういしていたのですが、つい今いましがた、それが、どこかへ走はしりさったのです。さっき、この地下ちか室しつで、だれもいないのに、怪人かいじんの声こえが聞きこえましたね。あの声こえのすぐあとで、その自動じどう車しゃは出発しゅっぱつしたのですよ。このいみがわかりますか。」

「では、その自動じどう車しゃに怪人かいじん団だんのやつらが、のっていたとおっしゃるのですか。」

高橋たかはしさんがおもわず、ききかえしました。

「そうです。怪人かいじん団だんの首領しゅりょうが、のっていただろうとおもいます。」

「それを、あなたは、にがしてしまったのですか。自動じどう車しゃに気きづいていながら、なにもしなかったのですか。」

「いや、なにもしなかったのではありません。そこにいるご用ようききにばけた刑事けいじさんは、女おんなこじきが、ひとりの子こどもこじきをつれていたことを、しっているでしょう。あの子こどもこじきは、どこへいったと思おもいます。怪人かいじんの自動じどう車しゃのどこかにかくれて、尾行びこうしているのです。ひじょうな冒険ぼうけんです。しかし、あの少年しょうねんならだいじょうぶですよ。」

「あっ、それじゃあ、あの子こどもこじきは、先生せんせいの助手じょしゅの小林こばやし君くんだったのですか。」

ご用ようききに変装へんそうした刑事けいじが、とんきょうな声こえをたてました。

「そうです。小林こばやしはリスのようにすばしこくって、よく頭あたまのはたらく少年しょうねんです。こういう尾行びこうは、おとなにはできません。からだの小ちいさい少年しょうねんでなくては、うまくいかないのです。小林こばやしはヒルのように、くっついたら、はなれませんよ。そして、怪人かいじん団だんの本拠ほんきょまで、ついていくでしょう。鉄塔てっとう王国おうこくがどこにあるかを、たしかめるまでは、はなれないでしょう。

こじきにばけた小林こばやしは、大おおきなきれの袋ふくろをさげていました。そのなかには、いろいろなものが、はいっているのです。それをつかって、小林こばやしは、きっと目的もくてきをはたすでしょう。ぼくは、あの少年しょうねんの力ちからを信しんじているのです。」

それをきいて、みんなはやっと安心あんしんしました。あの名めい助手じょしゅの小林こばやし少年しょうねんが尾行びこうしたのなら、けっして怪人かいじんをにがすことはないだろうと思おもったからです。

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