← Library‹ 鉄塔の怪人 山小屋のぬし

それから、小林こばやし君くんは自動じどう車しゃをおりて、そこにぼんやりとつったったまま、あたりをながめていましたが、ふと気きがつくと、遠とおくの方ほうに、モヤモヤと動うごいているものがあるのです。おやっとおもって、よくみますと、それは白しろい、ひとすじの煙けむりでした。むこうの森もりの中なかから煙けむりがたちのぼっているのです。

煙けむりが出でているからには、あのへんに人ひとが住すんでいるのかもしれない。そう考かんがえると小林こばやし君くんは、にわかに元気げんきづいて、その方ほうへ、歩あるきはじめました。やっぱり、道みちもない森もりの中なかを、クマザサをかきわけて歩あるくのです。煙けむりのあがっているところは、すぐそばのように見みえていたのに、森もりの中なかへはいっていくと、方角ほうがくがわからなくなって、なかなか、その場所ばしょがみつかりませんでしたが、ずいぶん歩あるきまわったすえ、やっと、小ちいさな山やま小屋こやをみつけました。

それは、丸太まるたを組くんでつくった七なな―十じゅう平方へいほうメートルの、ほったて小屋こやですが、ちかよって、のぞいて見みると、中なかに人ひとがいるようすなので、入口いりぐちに立たって声こえをかけてみました。

すると「オー」とこたえて、小屋こやのあるじが出でてきました。顔かおじゅうひげにうずまった、おそろしげな男おとこです。かれは小林こばやし君くんのこじき姿すがたを、ジロジロながめていましたが、ふしぎそうに、

「おめえのような子こどもが、いまじぶん、どうしてこんな山やまおくへやってきただ。」

とたずねます。

「道みちにまよったのです。おじさん、ぼくをとめてください。つかれてしまって、おなかがペコペコで、もう歩あるけません。」

小林こばやし君くんは、あわれっぽくもちかけました。

「ふーん、道みちにまよったといって、こんな人ひともとおらぬ山やまおくへまよってくるなんて、おめえ、よっぽど、どうかしているぞ。だが、まあいい、こっちへはいるがいい。めしぐれえ、くわしてやるだ。」

こわい顔かおににあわぬ、しんせつな男おとこでした。小林こばやし君くんは、例れいの大袋おおぶくろを持もったまま、小屋こやの中なかにはいって、いろりのそばに腰こしをおろしました。

やがて、男おとこは、いろりにかけてあるなべの中なかから、ぞうすいのようなものをちゃわんによそって、小林こばやし君くんにたべさせてくれました。小林こばやし君くんは、それをすすりながら、

「おじさんは、こんなところで、なにをしているの?」

と、たずねてみました。

「おれか、おらあ猟師りょうしだよ。この山やまにゃ、いろんな鳥とりやけだものがいるからな。それをとって、ふもとの村むらへ売うりにいくだ。それがおれのしょうべえさ。アハハハ……。」

と、大おおきな口くちをあいて笑わらいました。顔かおじゅうひげだらけで、まっ黒くろですから、ひらいた口くちの中なかが、おそろしく赤あかいように見みえました。

「ぼく、道みちにまよってね、このへんの山やまんなかを歩あるきまわったんだよ。そうすると、このむこうの方ほうに大おおきな鉄てつのお城しろがあったよ。おじさん知しってる?」

「知しってるとも。」

「あれ、だれのお城しろなの? だれがすんでいるの?」

「ばけものがすんでいるさ。」

「えっ、ばけものだって?」

「カブトムシのばけものだ。この山やまんなかに、イノシシほどもあるカブトムシのばけものが、ウジャウジャすんでるだ。ふもとの村むらでも、それを知しってるから、だれもこの山やまへのぼらねえ。おれたちのなかまの猟師りょうしや木きこりも、みんなにげだしてしまった。おれはごうじょうもんだからな、にげねえ。いまじゃ、この山やまんなかに、すんでるのは、おれひとりになっちまった。ワハハハ……。」

男おとこはまた、大おおきなまっかな口くちをひらいて、笑わらいとばすのでした。

「おじさん、そのカブトムシに、であったことあるの?」

「なんどもあるよ。だが、おらあ、カブトムシのばけものだけは、うたねえ。たたりがおっかねえからな。カブトムシがあらわれたら、こっちでにげだすのよ。」

「そのカブトムシが、あの鉄てつの城しろにすんでるの?」

「そうだ。城しろの中なかにゃ、カブトムシの王おうさまがいるだ。ほかのカブトムシは、みんなその王おうさまのけらいだっていうことだ。」

「鉄てつの門もんがピッタリしまっているね。あの門もんがひらくことがあるの?」

「おらあ、ひらいているのを、見みたことがねえ。いつでもピッタリしまってるんだ。おれは、いっぺん、おっかねえ音おとをきいたことがあるぞ。城しろの中なかが見みたいとおもってね、あの鉄てつのへいのまわりを、グルグルまわってみたが、どこにもすきまがねえ。それで、おら、鉄てつの門もんに耳みみをおっつけて、中なかの音おとでも聞きいてやろうとおもっただ。すると、なあ、小僧こぞう、おっかねえ音おとがきこえただ。何百なんびゃくというカブトムシがはいまわってる音おとだ。ゴジョ、ゴジョ、ゴジョ、ゴジョ、何千なんぜん人にんの人ひとが、ないしょ話はなしをしているような、いやあな音おとだった。おら、ゾーッとして、いちもくさんに、にげだしただ。それからというもの、いくら命いのちしらずのおらでも、気味きみがわるくて、あの城しろにゃ、近ちかよる気きがしねえ。遠とおくから、チラッとあの鉄てつの塔とうのてっぺんが見みえても、おら、おじけをふるって、にげだすだよ。」

山やま小屋こやのぬしの大男おおおとこは目めを異様いように光ひからせてあたりを見みまわしながら、さもこわそうにいうのでした。

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