← Library‹ 灰色の巨人 サーカスの道化師

そのあくる日ひの午後ごご、小林こばやし団長だんちょうは、ゆうべの少年しょうねんたちのほかに、たくさんの団員だんいんをさそって、そうぜい二十にじゅう人にんの少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんが、そのサーカスを見物けんぶつすることになりました。そして、二十にじゅう人にんの四十よんじゅうの目めでサーカスを監視かんしし、もし、あやしいことがあったら、すぐに、明智あけち先生せんせいに電話でんわをかけて、応援おうえんしてもらうつもりなのです。

サーカスの大だいテントの中なかでは、二にとうのゾウの曲芸きょくげいがすんだところで、つぎには「馬うまにのる十じゅう人にんの女王じょおうさま」という、だしものがあるのですが、いまは、そのあいだのつなぎの場面ばめんで、場内じょうない中央ちゅうおうのひろい砂場すなばに、へんてこな道化どうけものの巨人きょじんが、あらわれていました。

そのひろい砂場すなばを、ぐるっととりまいて、うしろほど高たかくなった、まんいんの見物けんぶつせき。その見物けんぶつせきのまん中なかに、中学ちゅうがくの制服せいふく制帽せいぼうの少年しょうねんが二十にじゅう人にん、ずらっと二にれつにならんで見物けんぶつしていました。まるで野球やきゅうの応援おうえん団だんみたいです。いうまでもなく、これは、少年しょうねん探偵たんてい団だんの少年しょうねんたちでした。

中央ちゅうおうの砂場すなばのぶたいには、おそろしく大おおきな人間にんげんが、のそのそと歩あるいていました。ふつうのおとなの三さん倍ばいもあるような巨人きょじんです。その巨人きょじんは、そでのない、つりがねのようなかたちの、灰色はいいろのマントをきていました。そのマントの長ながさが、四よんメートルほどもあるのです。

マントの上うえからのぞいている顔かおは、ふつうのおとなの顔かおですが、からだが、そんなに大おおきいものですから、顔かおがばかに小ちいさく見みえます。その顔かおは、おしろいを、まっ白しろにぬって、ほおに赤あかいまるのかいてある、あの道化どうけ師しの顔かおです。頭あたまには赤あかと白しろの、だんだらぞめの、とんがり帽ぼうをかぶっています。

マントの長ながさが四よんメートルですから、その巨人きょじんのせいのたかさは、五ごメートル以上いじょうです。そんな大おおきな人間にんげんが、いるはずはありません。

「あれは、きっと三さん人にんなんだよ。ひとりの肩かたの上うえに、もうひとりがのって、その上うえに、またもうひとりのっているんだ。そして、マントで、かくしているんだよ。」

少年しょうねん探偵たんてい団だんのひとりが、おかしそうに、となりの少年しょうねんに、ささやきました。

「でも、あのマント、灰色はいいろだねえ。おい、灰色はいいろの巨人きょじんだぜ、あいつ……。」

べつの少年しょうねんが、じょうだんをいいました。あの悪人あくにんの灰色はいいろの巨人きょじんが、こんなところにいるはずはありません。これは道化どうけ師したちのインチキ巨人きょじんです。しかし、「灰色はいいろの巨人きょじん」ということばを聞きくと、少年しょうねんたちは、ハッとしたように、顔かおを見みあわせました。そうではないと思おもっていても、なんとなく、きみがわるくなったのです。

そのとき、見物けんもつせきに、おそろしい笑わらい声ごえが、おこりました。そして、大だいテントを、ゆるがすばかりの拍手はくしゅです。

巨人きょじんが、灰色はいいろのマントをひるがえして、クルッとひっくりかえったのです。すると、いままでひとりだった巨人きょじんが、三さん人にんになりました。大中だいちゅう小しょうの三さん人にんの、こっけいな道化どうけ師しになってしまいました。

みんな、とんがり帽ぼうをかぶっています。顔かおを、まっ白しろにぬって、ほおに赤あかい丸まるがかいてあります。着物きものも赤あかと白しろのだんだらぞめの道化どうけ服ふくです。その三さん人にんが、せいのじゅんにならんで、見物けんもつせきにむかっておじぎをしているのです。

右みぎがわの道化どうけ師しは、せいのたかさ一いちメートルほどの一いち寸すん法師ほうしです。まん中なかは、ふつうのおとなです。左ひだりがわに立たっているのは、すもうとりのような大男おおおとこです。その大男おおおとこのせいのたかさは、一いち寸すん法師ほうしと、まん中なかの道化どうけ師しとを、合あわせたほどもあります。巨人きょじんが三さん人にんにわかれましたが、その中なかのひとりは、やっぱり巨人きょじんだったのです。その大だい中小ちゅうしょうの三さん人にんが、おそろいの道化どうけ服ふくで、おじぎをしているようすは、思おもわず、笑わらいだすほどおかしいのでした。

「ねえ、小林こばやしさん、やっぱり巨人きょじんがいるよ。小林こばやしさんが、隅田すみだ川かわで出であったやつ、あいつじゃなかったの?」

ひとりの少年しょうねんが、小林こばやし団長だんちょうに、ささやきました。

「まだわからない。あんなに、おしろいをぬってちゃあ、見みわけられないよ。あとでおしろいをおとした顔かおを、見みてやろう。ひょっとしたら、あいつかもしれないからね。」

「でも、むこうでも、小林こばやしさんに気きづきやしないかしら?」

「気きづくかもしれない。しかし、だいじょうぶだよ。まさかサーカスから、にげだしゃしないよ。もしにげだせば、すぐに、あいつと、わかってしまうからね。」

「それに一いち寸すん法師ほうしもいるんだぜ。巨人きょじんと一いち寸すん法師ほうしが、ちゃんとそろっているんだぜ。へんだな。ぼくなんだかきみがわるくなってきた。」

「うん、もし、悪人あくにんが、道化どうけ師しにばけているとしたらね。でも、まだわからないよ。もうすこし、見みていよう。あやしいことがあれば、すぐに、明智あけち先生せんせいに電話でんわをかければいいんだからね。」

また、見物けんもつせきに、「わあっ。」という声こえがおこり、拍手はくしゅがなりひびきました。

砂場すなばのぶたいでは、大中だいちゅう小しょう三さん人にんの道化どうけ師しが、クルクル、クルクルと、車くるまのように、とんぼがえりをうって、アクロバット(かるわざ)を、やっていたのです。すもうとりのような大男おおおとこも、みかけによらぬアクロバットの名人めいじんで、みごとに、ひっくりかえっています。

アクロバットがおわると、三さん人にんの道化どうけ師しは、見物けんもつせきにむかって、もう一いち度ど、ていねいなおじぎをして、サアッと、とぶように、がくや口くちへひっこんでいきました。

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