← Library‹ 灰色の巨人 灰色の巨ゾウ

そのさわぎのさいちゅうに、テントの外そとに、ワーッという、ときの声こえがあがりました。

「ゾウだっ、ゾウが逃にげた。」

サーカスのうらてを、みはっていた五ご人にんの警官けいかんが、いちもくさんに逃にげてきます。そのうしろから、一いちぴきの大おおきなゾウが、のそりのそりと歩あるいてきました。サーカスの前まえにつながれていた足あしのくさりを切きって、逃にげだしたのです。

サーカスの人ひとたちも、これに気きづくと、テントの外そとへ、とびだしてきましたが、ゾウつかいの男おとこが、どこかへいって、そのへんに、いないものですから、どうすることもできません。ただ、ゾウを遠とおまきにして、ワアワアさわいでいるばかりです。

そのとき、大だいテントのやねの上うえの宝冠ほうかんの少女しょうじょは、三さん人にんの男おとこに追おいつめられて、ちょうどゾウが歩あるいている上うえの、テントのはじまで逃にげていました。そこはテントのやねのとったんですから、もう逃にげるところがありません。うしろからは、男おとこの曲芸きょくげい師したちが、おそろしい顔かおでせまってきます。

少女しょうじょはテントのはじから、下したをのぞきました。そこに、だれもいなければ、とびおりるつもりだったのです。ところが、その下したには、おおぜいの人ひとが、逃にげだしたゾウをとりまいて、さわいでいるではありませんか、そんなとこへとびおりたら、いっぺんに、つかまってしまいます。

しかし、いまとびおりなければ、つぎの瞬間しゅんかんには、うしろからせまってくる曲芸きょくげい師しに、つかまるのです。少女しょうじょは、いそがしく頭あたまをはたらかせているうちに、はっと、ひとつの考かんがえがうかびました。いちかばちかの大だい冒険ぼうけんです。でも、いまとなっては、もうそのほかに、のがれるみちはありません。

ゾウはちょうど少女しょうじょのま下したを、のそのそと歩あるいていました。少女しょうじょは、そのゾウのせなかをめがけて、パッと、身みをおどらせたのです。ひとつまちがえば、ゾウにふみころされてしまうところでした。しかし、さすがに曲芸きょくげいできたえたうでまえです。少女しょうじょはうまくゾウのせなかに、とびおりて、そこにすがりつき、たちまちゾウの首くびにまたがってしまいました。

のんきらしく歩あるいているところへ、ふいに天てんから、人ひとがふってきたものですから、ゾウはびっくりしてしまいました。ひと声こえゴウッとうなると、長ながいはなをまっすぐにのばして、いきなり、タッタッタッと、かけ出だしたではありませんか。

遠とおまきにしていた人ひとびとは、ワーッといって、クモの子こをちらすように、逃にげはしりました。ゾウつかいがいないので、だれもゾウをとりしずめるものがありません。うっかり前まえにまわろうものなら、たちまちふみころされてしまいます。

少女しょうじょをのせたゾウは、どんどん走はしって八幡やわた神社じんじゃの森もりの中なかへはいりました。警官けいかん、サーカスの人ひとたち、さわぎを聞きいてテントから出でてきた見物けんぶつの人ひとたち、百ひゃく人にんに近ちかい人ひとびとが、はるかうしろから、ゾウを追おってきましたが、ただワアワアといっているばかりで、とても近ちかよる勇気ゆうきはありません。

いちばん勇敢ゆうかんなのは、二十にじゅう人にんの少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんでした。かれらは小林こばやし団長だんちょうのさしずで、十じゅう人にんずつ二に隊たいにわかれ、一隊いったいは神社じんじゃのむこうの二ふたつの出口でぐちに、さきまわりをして、ゾウの出でてくるのを待まちうけ、一隊いったいはゾウのうしろから、おおぜいの人ひとたちの、せんとうにたって走はしっていくのでした。

ゾウが神社じんじゃの森もりにはいったときも、少年しょうねんたちは、その入口いりぐちのすぐそばまできていました。ところが、そこで、おそろしいことがおこったのです。ゾウが、いきなりクルッと、うしろをむいたのです。そして、長ながいはなをふり動うごかし、大おおきな耳みみをぱたぱたさせ、白しろいキバをさかだて、まっかな口くちを大おおきくひらき、ゴーッという、すさまじいうなり声ごえをたてて、いまにもとびかかりそうにしました。

さすがの少年しょうねんたちも、そのものすごいぎょうそうを見みると、いちもくさんに、逃にげだしました。それにつれて、おっかなびっくりで、少年しょうねん団だん員いんのあとからついてきた人ひとびとも、ワーッと、なだれをうって逃にげるのでした。

みんなが逃にげさるのを見みると、巨きょゾウはまた、むきをかえて、宝冠ほうかんの少女しょうじょをせなかにのせたまま、神社じんじゃの森もりの中なかへ、姿すがたを消けしてしまいました。

あんなにおどろかされたので、もうだれも森もりの中なかへ、はいろうとするものはありません。そこの入口いりぐちを遠とおまきにして、がやがや、さわいでいるばかりです。

それから十じゅう分ふんほどもたったでしょうか。神社じんじゃのむこうの出口でぐちにまわっていた、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんのひとりが、いきせききって走はしってきました。そして、こちらにいた小林こばやし団長だんちょうを見みつけると、そのそばにかけよって、

「小林こばやしさん、ゾウはむこうから出でていきました。でも宝冠ほうかんをかぶった女おんなの人ひとは、ゾウにのっていないのです。この森もりの中なかへかくれたのだろうとおもいますから、ぼくたちは、あちらの見みはりをつづけます。」

と報告ほうこくし、そのまま引ひきかえしていきました。

小林こばやし少年しょうねんが、そのことを、そばにいた警官けいかんたちにつたえますと、警官けいかんのひとりが、まだサーカスの中なかにいた中村なかむら警部けいぶをよびに走はしり、やがて、警部けいぶと三さん人にんの刑事けいじがかけつけてきました。それから森もりの入口いりぐちにいた五ご人にんの警官けいかんを、神社じんじゃの三みつの出入でいり口くちや、まわりの土塀どべいの外そとに見みはりをさせておいて、警部けいぶと三さん人にんの刑事けいじは、神社じんじゃの森もりの中なかの捜索そうさくをはじめました。小林こばやし少年しょうねんは、そこにいた団員だんいんのうちの五ご人にんに、警官けいかんとおなじように見みはりばんをさせ、あとの四よん人にんをつれて警部けいぶのあとから森もりの中なかにはいり、捜索そうさくの手てつだいをしました。

むこうがわの入口いりぐちに石いしの鳥居とりいがあって、そこから社殿しゃでんまで、ずっと、しき石いしの道みちがつづき、両りょうがわにたくさんの石いしどうろうがならび、社殿しゃでんの前まえには、二にひきの大おおきな石いしのコマイヌが、石いしのだいの上うえにうずくまっています。そのあたりはいうまでもなく、森もりの立木りゅうぼくの中なか、社務しゃむ所しょの建物たてものの中なか、社殿しゃでんの中なか、のこるくまなく、しらべました。中村なかむら警部けいぶは、社務しゃむ所しょの神官しんかんにたのんで、一いち年ねんに一いち度どしかひらかない、社殿しゃでんのおくの扉とびらまでひらかせてみました。社殿しゃでんや社務しゃむ所しょや堂どうのゆかしたもしらべました。

中村なかむら警部けいぶと三さん人にんの刑事けいじと、小林こばやし君くんたち五ご人にんの少年しょうねんのほかに、むこうがわの入口いりぐちに、見みはりをつとめていた十じゅう人にんの少年しょうねんのうちの五ご人にんが、ちゅうとから捜索そうさくにくわわったので、少年しょうねん団だん員いんは十じゅう人にんです。それだけの人数にんずうで一いち時間じかんあまりもさがしにさがしても、宝冠ほうかんの少女しょうじょは、どこにも発見はっけんすることはできませんでした。神社じんじゃへの三みつの出入でいり口くちは、警官けいかんと少年しょうねん団だん員いんとで見みはっていましたし、神社じんじゃの森もりをかこむ土塀どべいの外そとにも、警官けいかんや少年しょうねんが行いったりきたりしていたのですから、少女しょうじょが神社じんじゃのそとへ逃にげだすことは、ぜったいにできなかったのです。たしかに、中なかにいたのです。それが、こんなにさがしても、見みつからないのですから、じつにふしぎというほかはありません。あの少女しょうじょは忍術にんじゅつでもつかって、姿すがたを消けしてしまったのではないでしょうか。

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