← Library‹ 灰色の巨人 ふしぎなくずや

園井そのいさんは、明智あけち探偵たんていに電話でんわをかけて、電話でんわ口こうで灰色はいいろの巨人きょじんからの手紙てがみを読よみあげました。直通ちょくつうの電話でんわですから、だれもぬすみ聞ぎきはできません。敵てきにさとられる心配しんぱいは、すこしもないのです。

すると、明智あけち探偵たんていは、しばらく考かんがえてから、答こたえました。

「あいてのいうとおりにしてください。あなたが『にじの宝冠ほうかん』を持もって、その自動じどう車しゃに乗のるのです。賊ぞくは正一しょういち君くんにうらみがあるわけではありませんから、宝冠ほうかんさえやれば、正一しょういち君くんはきっと返かえしてくれます。また、あなたの身みにも、危険きけんはないと思おもいます。」

「それじゃあ、みすみす宝冠ほうかんを取とられてしまうのですか。」

園井そのいさんが、ふまんらしく、聞ききかえしますと、明智あけちは笑わらい声ごえになって、

「いや、一いち度どは、わたしても、じきに取とりかえします。そこに計略けいりゃくがあるのです。安心あんしんして、ぼくにおまかせください。こんどこそ、巨人きょじんをあっといわせてお目めにかけます。十じゅう一いち日にちといえば、まだ三み日かありますね。それまでに、あなたも、びっくりなさるようなことが、おこりますよ。まあ、見みていてください。」

名めい探偵たんていが、それほどにいうものですから、園井そのいさんも信用しんようして、

「では、ばんじおまかせします。どうかよろしくねがいます。」

といって、電話でんわを切きりました。

そのよく日ひの朝あさ、さっそく、園井そのいさんを、びっくりさせるようなことがおこりました。

きたないふうをした、ひとりのくずやが、大おおきなくずかごをかついで、園井そのいさんのやしきのうら門もんから、勝手口かってぐちへ、ノコノコとはいってきました。あつかましいくずやです。

そこにいた女中じょちゅうさんが、あきれてくずやの顔かおをにらみつけました。

「くずはありませんよ。だまって門もんの中なかへ、はいってきてはこまります。さあ、早はやく出でていってください。」

と、しかりつけるように、いいました。すると、くずやは、ぶしょうヒゲのはえた、きたない顔かおを、きみわるくゆがめて、にやにやと笑わらいました。そして、いきなり、女中じょちゅうさんのそばによって、その耳みみに口くちをあてて、なにかボソボソと、ささやいたのです。女中じょちゅうさんは、こわくなって逃にげだしそうにしましたが、逃にげだすまえに、そのささやき声ごえが聞きこえてしまいました。

「えっ、じゃあ、あなたは……。」

女中じょちゅうさんが、とんきょうな声こえで、そういいますと、くずやはまた、うすきみわるく、にやにやと笑わらって、うなずいてみせるのです。

女中じょちゅうさんはおくの方ほうへ、かけこんでいきました。そして、また、もとの勝手口かってぐちへもどってきたときには、女中じょちゅうさんのほうも、にこにこ笑わらっていました。そして、ていねいに、くずやにおじぎをして、

「どうか、おあがりくださいませ。」

といって、おくの方ほうへ、あんないしました。くずやは、きたないどたぐつを勝手口かってぐちにぬいで、女中じょちゅうさんのうしろからついていきます。

通とおされたのは、りっぱな応接おうせつ間かんでした。くずやはくずかごをそばにおいて、大おおきな安楽あんらくいすに、いばりかえって、どっかと、こしかけました。

そこへ主人しゅじんの園井そのいさんが、はいってきて、

「あなたが、明智あけちさんですか。ほんとうに明智あけちさんですか。」

と、うたがわしそうに、くずやの顔かおを、じろじろながめました。

「そうですよ。ぼくの変装へんそうは、なかなか見みやぶれませんからね。じゃ、これをとりましょう。さあ、どうです。これなら、わかるでしょう。」

くずやはそういって、顔かおのぶしょうヒゲに指ゆびをかけると、それをめりめりと、ひきはがしました。顔かおの皮かわを、めくってしまったのです。その下したから、あらわれたのは、たしかに明智あけち探偵たんていの顔かおでした。

園井そのいさんは、あっといったまま、つぎのことばもでません。

明智あけちは、ちょっとのあいだ、素顔すがおを見みせるとまた、つけヒゲを、顔かおにはりつけました。すると、もとのきたないくずやです。

くずやは、そばにおいたくずかごの、かみくずをかきわけて、二ふたつの黒くろいウルシぬりの箱はこを取とりだして、テーブルの上うえにならべました。そして、両方りょうほうのふたをとると、いっぽうには、金色きんいろの王冠おうかんがはいっていて、もう一ひとつの方ほうは、からっぽの箱はこでした。

「この王冠おうかんは、れいのサーカスの少女しょうじょたちがかぶっていた、メッキの王冠おうかんのひとつを、かりてきたのです。これが手品てじなの種しゅになるのですよ。しかし、このままではいけません。おたくの『にじの宝冠ほうかん』とそっくりの形かたちに、なおさなければなりません。十じゅう一いち日にちまでには、まだ二ふた日かあります。そのあいだに、かざりやにたのんで、秘密ひみつにこれをなおさせるのです。それには『にじの宝冠ほうかん』を見みせなければなりませんが、あのたいせつな品しなを、外そとへ持もちだすのは危険きけんですから、ぼくが、ここで写生しゃせいして、その絵えをかざりやに見みせて、なおさせることにします。」

くずやにばけた明智あけちの説明せつめいを聞きいて、園井そのいさんは、みょうな顔かおをしました。

「にじの宝冠ほうかんのかわりに、そのにせものを、巨人きょじんにわたして、ごまかすのですか。しかし、あのぬけめのないやつが、そんなにせもので、ごまかせるでしょうか。」

「いや、にせものを、わたすのではありません。あなたが持もっていかれるのは、やっぱりほんものの方ほうです。そして、あれをあいてにわたすのです。このにせものをつかうのは、そのあとですよ。正一しょういち君くんを取とりかえしてしまったあとで、ちょっと手品てじなをやるのです。それには、箱はこもおなじでないと、ぐあいがわるいので、銀色ぎんいろの箱はこのかわりに、この黒くろウルシぬりの箱はこに、ほんものの『にじの宝冠ほうかん』をいれて、持もっておいでください。この箱はこも、手品てじなの種しゅのひとつなのです。この手品てじなが、まんいち失敗しっぱいしても、まだほかに、もっとたしかな手ても考かんがえてあります。その二ふたつの計略けいりゃくで、かならず『にじの宝冠ほうかん』を、取とりかえしてお目めにかけます。」

明智あけちは、自信じしんありげにいうのでした。

「そのもうひとつの計略けいりゃくというのは、どういうことでしょうか。」

園井そのいさんが、心配しんぱいらしくたずねました。

「それは、しばらく、秘密ひみつにしておきます。やっぱり、ひとつの手品てじなですよ。魔法まほうといったほうが、いいかもしれません。賊ぞくの自動じどう車しゃに、ほそい糸いとがつくのです。その糸いとが、どこまでものびていくのです。賊ぞくの自動じどう車しゃは、いくら走はしっても、その糸いとをたち切きることができないのです。」

明智あけちは、なぞのようなことをいいました。まさか自動じどう車しゃに糸いとをむすびつけるわけではないでしょう。そんなことをしたって、すぐに切きれてしまいますし、また、なんキロというような長ながい糸玉いとだまは、とても大おおきくて、かくしておけるものではありません。

園井そのいさんは、このなぞをとくことができませんでした。しかし、明智あけちが秘密ひみつにしておきたいというものですから、深ふかくもたずねないで、名めい探偵たんていの知恵ちえを信用しんようすることにしました。

そこで、園井そのいさんは「にじの宝冠ほうかん」を、金庫きんこから取とり出だしてきて、テーブルの上うえにおきました。明智あけちは、やっぱりくずかごの中なかから、まるめた画用がよう紙しをとりだし、それをひろげて、えんぴつで写生しゃせいを、はじめました。二十にじゅう分ふんほどで、うつしおわると、テーブルの上うえの、からの箱はこだけをのこして、にせものの王冠おうかんは、もうひとつの箱はこに入いれて、写生しゃせいした画用がよう紙しといっしょに、くずかごの紙かみくずのなかにかくしました。

「では、十じゅう一いち日にちには、賊ぞくの手紙てがみに書かいてあったとおりにしてください。あとは、きっとぼくがひきうけますから、ご心配しんぱいなく。」

と、ねんをおして、くずやは、かごをかついで、そのまま帰かえっていきました。

さて、名めい探偵たんていの二ふたつの手品てじなは、いったい、どんなふうにして、おこなわれるのでしょうか。そして、それは灰色はいいろの巨人きょじんの怪物かいぶつ団だんを、うまくごまかすことができるのでしょうか。

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