← Library‹ 灰色の巨人 巨人の正体

園井そのいさんが「にじの宝冠ほうかん」とひきかえに、正一しょういち君くんをとりもどした、あくる日ひ、園井そのいさんの家いえへ、へんな男おとこがたずねてきました。ジャンパーをきて、鳥とりうちぼうをかぶり、めがねをかけ、せなかにふろしきづつみをしょった、いなかの行商ぎょうしょう人にんみたいな男おとこです。

女中じょちゅうさんがあやしんで、ことわろうとすると、その男おとこは、女中じょちゅうさんの耳みみになにかささやきました。それを聞きくと、女中じょちゅうさんはびっくりしたような顔かおで、おくへはいっていきましたが、すると、園井そのいさん自身じしんがげんかんへ出でてきて、へんな男おとこを応接おうせつ間あいだへ通とおしました。

「みごとな変装へんそうですね。どう見みても、明智あけち先生せんせいとは思おもえませんよ。」

園井そのいさんは、感心かんしんしたようにいいました。そのへんな男おとこは、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうだったのです。そこへ正一しょういち君くんもやってきて、明智あけち探偵たんていにあいさつしました。

「園井そのいさん、あなたをよろこばせる、おみやげを持もってきました。」

明智あけちはそういって、ふろしきづつみをひらき、黒くろぬりの箱はこをとり出だして、そのふたをひらきました。すると、パッと目めをいる、美うつくしい光ひかり。

「や、それは『にじの宝冠ほうかん』じゃありませんか。」

園井そのいさんが、びっくりして、宝冠ほうかんを手てにとりました。

「ほんものです。きのう正一しょういちとひきかえに、賊ぞくにわたしてきた、ほんものの宝冠ほうかんです。これをどうして明智あけちさんが?」

「つい一いち時間じかんほどまえ、ぼくが賊ぞくのすみかにしのびこんで、そっと持もちだしてきたのです。かわりに、にせものの宝冠ほうかんをおいてきましたよ。よくできているので、とうぶんは、賊ぞくも気きがつかないでしょう。」

明智あけちが説明せつめいしました。

「えっ? では、あなたは、賊ぞくのすみかを、つきとめられたのですか。」

「そうです。小林こばやしがよくはたらいてくれたのですよ。それで、警視けいし庁ちょうの中村なかむら警部けいぶや刑事けいじ諸君しょくんといっしょに、賊ぞくのすみかへ、のりこむことになっています。」

明智あけちはそういって、「にじの宝冠ほうかん」を園井そのいさんにわたし、そのまま、いとまをつげて、警視けいし庁ちょうへいそぐのでした。

それから二に時間じかんほどのち、横浜よこはまから五ごキロほどむこうの、れいの小山こやまの森もりの中なかを、道路どうろ人夫にんぷのような、きたないふうをした七なな人にんの男おとこが歩あるいていました。それは明智あけち探偵たんていと、中村なかむら警部けいぶと、五ご人にんの刑事けいじの変装へんそうすがたでした。明智あけちが、あんない役やくになって、これから賊ぞくのすみかへ、のりこもうとしているのです。

「明智あけち君くん、こんな山やまの中なかに、賊ぞくのこもるようなたてものがあるかね。見みわたしたところ、家いえらしいものは一いちけんもないじゃないか。」

人夫にんぷすがたの中村なかむら警部けいぶが、ふしんらしく、たずねました。

「灰色はいいろの巨人きょじんという賊ぞくは、奇術きじゅつ師しだよ。だから、ちょっと、ふつうの人ひとには考かんがえられないような、きばつなことをやる。かれらのすみかも、じつに、きばつなたてものなのだ。」

おなじ人夫にんぷすがたの明智あけちが、にこにこ笑わらって答こたえました。

「たてものといって、いったい、それはどこにあるんだい?」

「ここだよ、すぐ目めの前まえに、立たっているんだよ。」

「どこに、どこに?」

警部けいぶはキョロキョロあたりを見みわたしましたが、どこにも、家いえらしいものはありません。

「ほら、あれだよ。むこうの木きの上うえに、ニューッと頭あたまを出だして、灰色はいいろの巨人きょじんが、そびえているじゃないか。」

「えっ、灰色はいいろの巨人きょじんだって?」

「あまり大おおきすぎて、目めにはいらないのだろう。あれだよ。あの大観音だいかんのんだよ。」

それはコンクリートでできた、高たかさ十じゅう数すうメートルの有名ゆうめいな観音かんのんさまの座像ざぞうでした。小山こやまの上うえにたてられ、森もりの木きの上うえに、そびえているのです。

「観音かんのんさまなら、さっきから、見みえすぎるほど、見みえている。だが、あれは家いえではないよ。人ひとがすめないじゃないか。」

「ところが、すめるんだよ。あのコンクリートの仏像ぶつぞうの中なかは空洞くうどうになっているんだ。賊ぞくは地下ちか道どうをほって、下したからその空洞くうどうの中なかへ出ではいりしているんだ。そして、そこにりっぱな部屋へやを、つくっているんだ。」

ああ、コンクリートの大仏だいぶつの中なかをすみかにするとは、なんという、ふしぎな思おもいつきでしょう。中村なかむら警部けいぶも、そばにいた刑事けいじたちも、あっと、おどろいてしまいました。コンクリートの大仏だいぶつならば、いかにも灰色はいいろの巨人きょじんにちがいありません。人間にんげんのあだなだとばかり思おもって、大男おおおとこなどをさがしていたのですが、じつは賊ぞくのすみかの名なまえだったのです。

そのとき、明智あけちがむこうの方ほうを指ゆびさして、みょうなことをいいました。

「中村なかむら君くん、見みたまえ。ほら、あすこの木きのねもとの草くさが、ユラユラ動うごいている。」

みんなは、その木きのねもとを見みますと、たしかに、一いちヵ所かしょだけ、異様いように草くさがゆれています。モグラでもいるのでしょうか。いや、モグラにあれほどの力ちからはありません。もっと大おおきな動物どうぶつが、地下ちかから土つちをおしあげているのです。

「みんな、木きのかげにかくれて、あすこを、よく見みてください。」

明智あけちはそういって、じぶんも大おおきな木きのみきにかくれました。ほかの人ひとたちも、それぞれ、木きのかげにかくれました。

見みていますと、草くさの動うごきかたは、ますますはげしくなり、やがて、さしわたし五十ごじゅうセンチほどの土つちが、草くさといっしょに持もちあげられ、その下したに黒くろい穴あなができました。そして、その穴あなの中なかから、ニューッと人間にんげんの顔かおが、あらわれたではありませんか。

その人間にんげんは、地面じめんから顔かおだけ出だして、あたりを見みまわしていましたが、だれもいないと思おもったらしく、やがて、穴あなの外そとへ全身ぜんしんをあらわしました。セーターをきて、大おおきな黒くろめがねをかけた、二十にじゅう五ご―六ろくの若わかものです。

「あいつは賊ぞくの手下てしただ。しばってくれたまえ。」

明智あけちがそっとささやきますと、中村なかむら警部けいぶは、部下ぶかの刑事けいじにあいずをしておいて、まっさきに、木きのかげからとび出だしていき、若わかものの方ほうへ、つかつかと近ちかづくと、いきなりピストルを出だして、「待まてっ。」とどなりつけました。

若わかものは、このふいうちに、びっくりして、両手りょうてをあげて立たちどまりましたが、すると、ひとりの刑事けいじが、うしろからとびついて、カチンと、手錠てじょうをはめてしまいました。

「足あしをしばるんだ。それから、さるぐつわだ。」

警部けいぶのめいれいで、刑事けいじは若わかものをおしたおしておいて、ほそびきで、その足あしをグルグルまきにしばりあげ、てぬぐいで、さるぐつわをかませました。そして、若わかもののからだを、ゴロゴロころがして、木きのしげみの中なかにかくしてしまいました。

「おどろいたね。あの中なかが、コンクリート大仏だいぶつの体内たいないへの出入でいり口くちになっているんだね。」

中村なかむら警部けいぶがいいますと、明智あけちは、うなずいて、

「そうだよ。けさもこの穴あなから出でてきたやつがある。ぼくはそいつをとらえて、その男おとこの服ふくをきて、賊ぞくの手下てしたにばけて、賊ぞくのすみかへ、しのびこんだのだ。そして、にせの宝冠ほうかんと、ほんものの宝冠ほうかんと、とりかえてきたんだ。そのときの賊ぞくの手下てしたは、そのまま、ここの警察けいさつの留置りゅうち場じょうにほうりこんであるよ。

あの穴あなをはいると、せまいトンネルのような地下ちか道どうが、大仏だいぶつの下したまでつづいている。そこに広ひろい部屋へやがあって、賊ぞくの首領しゅりょうがいるんだ。長ながい白しらヒゲをはやした、じいさんだよ。きみたちは、そいつをとらえてくれたまえ。部下ぶかもいっしょに、つかまえるんだね。いま、あすこにいるのは、三さん人にんか四よん人にんぐらいのものだ。ぼくは、ほかに、ちょっと仕事しごとがあるので、ここでわかれるよ。」

「え、きみはどっかへ、いってしまうのか。」

警部けいぶが、おどろいて聞ききかえしました。

「うん、むろん灰色はいいろの巨人きょじんにかんけいのある仕事しごとだよ。それはね……。」

明智あけちは警部けいぶの耳みみに、なにごとか、ささやきました。すると、警部けいぶは、いよいよ、おどろいた顔かおになって、

「ふうん、きみは、そこまで、しらべたのか。いつもながら、ぬけめがないね。よし、それじゃ、ぼくたちは、安心あんしんして、賊ぞくを攻撃こうげきする。きみのほうも、しっかりやってくれ。」

ふたりは、ちょっと、あくしゅをして、わかれました。そして、中村なかむら警部けいぶと、五ご人にんの刑事けいじは、地下ちか道どうの穴あなの中なかへ、はいっていきました。その中なかには、土つちの階段かいだんがあって、それをおりると、まっ暗くらな、長ながい横よこあなが、つづいています。立たってあるけないほど、せまいトンネルです。人ひとびとは、せなかをかがめ、はうようにして、そこを進すすんでいました。

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